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The Beginning of the Incident(2)


 主である壮馬の綺麗で立派な机と椅子はまるでその主の為にあるかのように佇んでいる。

 壮馬は両肘をつき、思わしくない顔をしていた。


「ご苦労だ、琉乃。して、現場はどのようになっている? 」

 こっちの顔も疲弊しているな、とフル回転する頭で琉乃は考えていた。


 恐らく、このような状況になって国、そして都の主として批判を受けていることなのだろう。

 きっと、外部からも、内部からも――。

 琉乃は息を小さく吐き、現状を報告する。


「状況は悪いです。わたしが想定していたことが起こってしまったので、責任も感じているのですが…… 」

「原因はなんなのだ? 何故急にこのような症状をきたす患者が増えた? しかも民に集中しているではないか」

「根本的な理由として考えられるのは、水です」

「水? 」

 壮馬と大石は怪訝な顔をする。

「琉乃さま、水なら私たちも飲んでおりますが」

「官民は浄水されている水を飲んでいますよね。しかし民にはそのような設備がない環境下で暮らしております。浄水されていない水には細菌や病原菌が含まれているのです」


 壮馬と大石が顔を見合わせ眉間に皺を寄せている。

「わたし自身、民の家へ訪問診療していたときから危険を察知しており、民には簡易的な浄水の仕方を教えてきました。

 しかし民の中にはそのことの重大性に気付いていない人も多かったようです。

 ここの暮らしをして数か月になりますが民へのインフラの設備が甘いことに疑問を感じておりました。

 理由を教えていただけませんか? 」


「…… 民のインフラの設備を重点的に行おう。それで結果は出るんだな? 」

「…… 恐らく。患者背景からのエビデンスはきちんと持っております」

「…… 分かった」


 琉乃は一礼をして官邸をあとにした。

 大石は考える壮馬に躊躇いながら話しかけた。


「壮馬さま、これは一体…… 」

「結果を見てみよう。それからだ」

 救護室へと向かう琉乃はやれやれ、とふ――、としてから、また気を張った。


 結局、理由を言ってくれなかったな、言いにくい理由でもあるのか?

 そう思いながら琉乃は歩を進める。


 しかし、人間として優越感を得るために官民と民の差別化をするにしたって考えが浅はか過ぎる―― いや、他者の考えることなど自分の範疇を超えるかそれ以下かに限られている、考えても仕方のないことだ。

 そう琉乃は自分に言い聞かせ、また治療にあたった。

 すぐにまた運ばれてくる民の患者。寛解していく患者との割合につり合いがとれていない。


「琉乃先生、お願いします」

「いま行くわ」


 夜は更けても寝る間もない。

 助手をしてくれている受講生たちは大半が省庁の人間だから、本業のこともやらなければならない。

 助手もかなりの負担を強いられている。


 我慢の踏ん張り時だ。

 琉乃はそう思い、白衣に袖を通す。

 壮馬たちを責めることは出来ない。


 (わたしもなんとなく危険を察知しながら壮馬に掛け合うことをしなかった。理由としては先程の思考故だ。

 壮馬らにもそのような人間的優越を感じるに値するひと、として疑っていた点があったからこそ言えなかった)


 もしそれを抗議したところでその疑い点が誠であったからには、そのあとの収拾方法が琉乃には分からなかったのだ。


「…… きちんと対応出来なかった、自身への戒め、か」


 そう言い聞かせ、琉乃は再び救護室の陰なる救いを求めその空気に触れていく。



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