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The Beginning of the Incident(1)

 民が次々と担架に乗せられて運ばれてくる。


「琉乃先生、こっちもお願いします! 」

「すぐ行くわ」


 現場は戦場だった。


 琉乃の助手には講義の受講生があたっている。


 省庁の離れの竪穴住居を仮の救命救護室にしているが、患者が多すぎて一杯いっぱいだった。

 琉乃は滴る汗を拭う暇もないくらいに診察にあたっていた。


 120パーセントといってもよいくらいに患者は民であった。


 心拍数の増加、皮膚の鱗屑、舌の乾き… 脱水のサイン。

 多数が下痢症。


 救護室にはお手洗いも複数併設させていた。

 適度な水分補給、そしてなにより輸液が欠かせなかった。


 輸液の製造を優先させておいて良かった、と思わずにはいられない―― 琉乃は常々思っていた。


 そして中でも胸の痛みを生じる患者も多い。

 肺炎を引き起こしている。

 既に高齢患者が数名亡くなっているのが現状だった。


 琉乃はとにかく何も考えずに治療のことだけで脳内を満たしたかった。

 余計なことを考えたりしたら自分がやられてしまう。


「琉乃さま」


 後ろを振り返ると大石がいることに琉乃は気が付いた。

「大石さん、ごめんなさい。いまちょっと手が離せなくて」


 言葉は穏やかだが、雰囲気が切羽詰まっていることに大石は感じていた。

 大石は言いにくそうに琉乃に言う。


「壮馬さまが進捗状況を訊きたいと、そう仰っております」

「…… 」

「都の一大事でございます。国、そして都の主である壮馬さまにご報告願います」

「…… わかったわ。いま行く」


 琉乃は助手の受講生に頼み、救護室を出た。


 前を歩く大石の背中をみて、琉乃は思っていた。

 ―― 本当に、わかっているのだろうか。事の重大さを…… と。


 小さく溜息をつきながら、睡眠不足の頭をフル回転させようと、国、そして都の主である壮馬への報告を緊張感を感じようと琉乃は努めた。


 官邸に着くと大石がドアを開けてくれた。


「どうぞ。壮馬さま、お連れしました」

 琉乃は一礼する。


「失礼致します」

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