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ハーブ畑(3)

 どっと疲れた、そう思いながら会議室を出ようとした時に大石とすれ違った。


 大石は琉乃を労うつもりで笑顔で迎えたが琉乃はそんな大石を睨みつけた。


 この疲れは下をきちんと教育出来ていない大石にも責任があるんだ、そう思いながら琉乃は眼力に込めただけだった。


 しかし大石は琉乃の気迫ある睨みに萎縮してしまい理由が分からないまま硬直してしまっていた。

 いけない神の怒りに触れたような、大石はそんな気がしている。


 会議室を出て無事終了したことを壮馬に報告に行こうと官邸へと向かっていた琉乃は、その先の木陰に隠れているひとりの男性の民がいたことに気付いた。


 なにやら琉乃の方をちらちらと見ている。 

 琉乃は興味本位で近づいた。


「こんにちは。どうされたのですか? 」


 うわ、と言わんばかりに吃驚しながらその男性は琉乃に照れくさそうに話す。


「あの、僕今日の講義受けたくて試験受けたんですけど… 落ちてしまって。

 せめて近くに居て同じ空気吸いたいなと思いまして」


 琉乃はにっこりと笑った。


「そのように思って頂いて光栄です。わたし、東乃宮琉乃と申します」


 手を差し出した琉乃にその男性も右手を差し出した。


「僕は萩原律杜といいます。琉乃先生のことはよく知ってます。

 この前も近所に診察に来てましたから」


 握った手から感じたものを琉乃は言葉にする。


「萩原さん、貴方のお仕事は傘の仕立て屋さんかしら? 」

「ど、どうして分かったんですか? 僕一言も自分の仕事のこと言ってないですよね⁉ 」

「手に傘の親骨特有の跡が残っていたから。

 傘の折れやすいところのひとつとして親骨があるし、左手からも親指と人差し指に傘の上の部分の露先と呼ばれる骨と布とが結ばれた特異な跡が強く残っていたから、かな? 」

「そ、そうです。

 今日もここに来る前に一本仕立ててきたので、きっとその跡が残っていたのでしょう」

「骨組みは木製かしら? 」

「は、はい。それもお分かりですか? 」

「いえ、これは他の方が持っているものがかなりの確率で木製なものなので所謂、簡単な勘ですよ」


 琉乃はウィンクをして舌を少し見せた。

 琉乃の茶目気に萩原は笑った。


 萩原は頬と目が丸い愛着のある顔をしていた。笑顔にも好感が持てる。


 少し汗ばんでいるようだった。

 萩原は汗を拭い手に持っていた淀んだ水を飲もうとした。

 恐らく家から持ってきた水だろう。


「待って、萩原さん。その水飲まないで」

「え? で、でも… 」

「こういう水はね、手順を踏んでから飲み水として活用するのよ。

 そうじゃなければ水の中にも細菌は沢山いるから、危険性があるの」


 そういって琉乃はその場にあった炭と必要な物で簡易的な浄水器を作った。

「これで濾過するの。そして濾過した水を十分に煮沸出来たらOKよ」

「細菌って悪いものなのですか? 」

「一概に悪いものとは決めつけられないわね。

 細菌やウィルスがあるからこそわたし達人間は耐性が出来て身体がつくられていくことも確かなの。

 だからこそ場面場面で自身の身体を守る術を身に着けることは人間としては必要なことだと思うわ」


 萩原は新鮮な気持ちで一杯になった。このような知識の世界があるのか、と感動していた。


「萩原さん、よかったらこれわたしの医学の本なんだけど、読んでみる? 

 初心者用に結構柔らかく書かれてある本だから、内容が入ってきやすいと思うわ」


 満面な笑みで萩原は琉乃からその本を受け取った。


「あれ? 琉乃先生じゃないですか。なにやってるんすか、こんなところで」


 振り向くとそこには安岐と綾部、三菱、山元、新木の一向がいた。

 綾部と三菱が興味本位で萩原を覗きに行く。


「誰っすか? 琉乃先生の知り合いっすか? 」

「ばか、そんな訳ないだろう。民だぞ、民! 」


 それに対して琉乃はさすがに反応した。

「どういう意味かしら? 」

 山元と新木が囃し立てる。

「やだ、怖い~ 琉乃先生」

「琉乃先生ともあろうお方がどうしてそんな顔をされているのかしらねぇ」


 その間から出てきた安岐が笑う。

「試験にも落ちた民でしょう? ここにいる価値もないんじゃないかな」


 琉乃は安岐を睨みつけた。

「貴方たち、思い上がりもいいところよ」


 琉乃の重力に逆らおうとする拳に力が入る。

 その時、萩原が琉乃のその拳を手の平で包んだ。


「萩原さん…? 」

「琉乃先生、本当のことですから」


 琉乃に会釈をして顔を上げた萩原は目は微笑んでいるが口が真一文字であった。


 そのまま萩原は去っていった。


 その姿を琉乃はずっと、見続けていた。

 

 後ろで安岐たちが行こうぜ、と言っている言葉には到底興味を持てなかった。




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