ハウスリーク(8)
「壮馬さまのことですか? どうって… ここの国の主と認識しています」
「その、人としてというか、男性としてというか」
「壮馬さまは、きっとわたしのことを同胞だと思っているのだと思うわ」
「同胞、ですか? 」
「幼い頃に家族を失った者同士、のようなものだと思うの。
わたしも幼い頃親を亡くしているから。きっと雰囲気でわかるのでしょうね」
「それで、どう想っているのですか? 壮馬さまのこと」
「傷を癒す者同士としてのなれ合いはならないように気をつけなくちゃと思っているわよ。
そんなことになったら人間の依存になりかねませんものね」
「に、人間ですか? 男性ではなくて? 」
「大石さん、さっきからなにを言っているの? 話の意図が読めないわ」
「… いえ、申し訳ありません。私は一体なにを言っていたのでしょうか」
そう言って私は笑って誤魔化した。
私は本当に愚かだ。
琉乃さまはこのようなお方なのだ。
最初に会ったときからそうだった。
真っすぐで、自分の軸を持っている。
雷鳴が遠くへと離れていく。
「琉乃さま、おまじないが効きましたね! 」
思わず琉乃さまの方をみてしまった私は慌てて視線を逸らした。
私の二度の失態にさすがの琉乃さまもむくれているようだ。
「大石さん、気を付けてください」
「… 申し訳ありません」
雷が去って行き、雨も落ち着いたころだった。
琉乃さまがなにかに反応したように立ち上がった。
「大石さん、服着てください」
私に向かって服を投げてきて、琉乃さまは既に着衣していた。
急いで服を着た時に、出口の方から明かりが指した。
「ここか⁉ 琉乃、大石! 」
「壮馬さま! 」
私は思わず叫んでしまい、その後ろで琉乃さまが見守っていた。
しまった、そう思い咳き込む私は体制を整えた。
「民の方が、有毒植物を誤って食べてしまったところを発見いたしました」
壮馬さまの後ろで衛兵らも何人かいる。
「お前たちが戻らないから雨の状況をみて探しに来たんだ。
琉乃は医療資源を探しに森へ入っていると聞いていたからな。
しかし、大石も一緒に… どういう風の吹き回しだ?
ん? 大石、服が曲がっているぞ。
ま、まぁいい。とりあえず、そこの病人を運ぼう」
衛兵らは琉乃さまの指示で即席で担架をつくり、高杉を無事琉乃さまの家兼診察室へと運び、琉乃さまはそのまま高杉の看病をしていた。
高杉は数日が経って体力も戻った。そして家へと帰っていった。
***
官邸では壮馬さまがいつも通り職務に邁進している。
私もいつも通り補助作業を行う。
ノック音がした。
「入れ」
「失礼致します」
松田くんだった。例の件の報告であろう。
「壮馬さま、男の進捗状況ですが、… 達しました」
「そうか、放してよい」
「承知いたしました」
私はその光景をみて、壮馬さまの背景にある窓から空をみた。
松田くんがそのまま退室をし、それを見送った壮馬さまは私に告げる。
「琉乃の言う医療資源の製造を民に行わせたい」
「… はい」
「よく考えたら、それを行うことで民の職に就く機会も多くなる。
そうなると国としても民としても実りがあり、国としてはこれ以上ない発展の一助になる」
「琉乃さまはそこまで読んでいたのでしょうか」
「頭の良い女だからな。その可能性は高い」
「壮馬さま、承知いたしました。早速手配を行います」
「ああ、頼んだぞ」
そのまま壮馬さまが外へと出て行った。私も跡を追う。
「壮馬さま、どちらへ? 」
「琉乃のところにな。
あまり睡眠とれていないだろうから今頃爆睡しているだろう。
なにか食料でも持っておいておこうと思ってな」
「… そうですか」
私の足元に季節柄の蒲公英が咲いていた。
私はしゃがみ込み一呼吸置く。
「すみません、頂戴いたします」
そう言って私は蒲公英を摘んだ。
「壮馬さま、これを琉乃さまの家に飾ってください。一輪挿しでございます」
「ああ、琉乃にぴったりだな。この活き活きとした黄色」
「ええ、誠にございます」
***
雨がとうに過ぎ去った森の木陰で、風が靡く。
そこには一匹の鼠が横たわって死んでいた。




