ハウスリーク(6)
日が少しずつ低くなり始める頃、琉乃さまが私の方を向き直る。
「大石さん、もうそろそろ行きましょうか」
「ええ、結構採れましたね」
「手伝ってくれてありがとうございます」
「ところでこの蓬はどうやって医療資源としてお使いになるのですか? 」
「方法はいくつかあるのですが… そうですね、乾燥させて煎じたり湯舟に入れたりとか。止血や収斂作用等、さまざまな効果が期待できるのですよ! 」
「左様ですか。ところで帰り道はわかるので? 」
「ええ。来た道を印つけてきたので」
そう言って琉乃さまが指さすところには葉の上に石を積み上げたものが先々にあった。
「なるほど」
「行きましょう、大石さん」
遠くで雨雲が雷光と共にうずめいていた。風も少しずつ強くなってきている。私たちは小走りで歩を進めた。
小雨が葉にあたり始めた。
「琉乃さま、走りましょうか」
そう伝えたのだが、琉乃さまはしゃがみ込んでいた。
「どうされたのですか? 」
「嘔吐物がある。しかも新しいわ」
「どこかの動物のものでしょう。さあ、急ぎますよ」
「近くに人間の足跡もある。向こうに続いているわ」
琉乃さまはそう言いながらその跡を追っていく。
「琉乃さま、もう行きましょう」
「足跡の歩幅が少しずつ狭くなっている。しかも真っすぐではないわ」
琉乃さまはそう言いながら、ある植物が地面に無造作に置かれてあることに気が付いた。
「なんでしょう、それは? ニラですか? なんだってこんなものがこんなところに落ちているのでしょう」
「これはニラじゃないわ。スイセンよ。ニラ特有の香りがしないもの。ニラにそっくりだから誤って食べて食中毒になる事故が時期により頻発するの」
「毒、なのですか? 」
「有毒よ。過去には死亡例もあるの。悪心や嘔吐、昏睡状態、最悪の場合は死に至ることもあるわ」
「こんなもの、一体誰が…? 」
「… 待って、確か高杉さん言ってたわよね。奥さんから韮菜をすすめられたって」
私は嫌な予感がした。
まさか、私の挑発を受けたことが原因で良くないことが起こったのか? と脳裏によぎる。
「とりあえず、足跡を追いましょう」