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ハウスリーク(5)

「なんでしょう、そこの男性。

 おや、壮馬さまの秘書人の大石さまではありませんか。

 儂はなにか可笑しなことを言いましたかな」


「いえ、失敬。

 少しばかり刺激を受けたからと言ってこのように森の奥深くまで散策ですか。

 しかも浅はかな知識しか持っていないという ていたらく。

 なにか新しいものが近くに現れると我を忘れる、愚かな人間の行いではないでしょうか」


「なんと失礼極まりない! いくら貴方さまでも言って良いことと悪いことがありますぞ! 」

 

「高杉さん、声を荒げないで。身体に響くわ。

 こんな森の奥まで来ているのよ、身体が疲弊している上で感情的になるのはよくないわ」


「むきになるということは自覚があるということでしょう? 」


「大石さん! 貴方、さっきから言葉が過ぎるわ」


「ふん! 若造め。いまに見ておれ」


 そう憤慨しながら高杉は去って行った。


「高杉さん、大丈夫かしら」


「あのような中年男性に肩入れするなんて琉乃さまも暇なのでしょうか? 」


「大石さん、さっきからなに? やけに突っかかってくるじゃない」


 琉乃さまは私に対して溜息をつく。


「私はなにも間違ったことは言っておりません。真実を言ったまででございます」

「あのねぇ… 」

「さぁ、目的地まで行きましょう。日が暮れたら厄介ですよ」


 琉乃さまにそのまま道案内をさせ、私はついていった。


 人間とは、本当に愚かだ。

 愚かなときは我を忘れる。

 我を忘れると沼に落ちるのが人間の行く末だ。

 親切心故のこと。だから教えてやった。なにも悪いことはしていない。


 歩く途中で、木々の根元に生えている美しい茸があった。


「琉乃さま、あの茸きれいですね」


 私がその茸に近づこうと一歩踏み入れたときだった。


「それ、毒茸ですよ」

「えっ⁉ 」


「不思議ですよね。美しい成りをしているのに、内に毒を秘めているなんて。見た目は美しいと革張りをしてその奥底にある毒に人は気付かないのでしょう」

「… どういう意味でしょう」

「さぁ? わたしにはなんのことやらさっぱりです」



 到着地は濃い緑で溢れていた。


「やっぱり、蓬‼ 」


 そう浮足立つ琉乃さまは蓬の香りを堪能していた。


「さっさと摘んで戻りましょう」


 私は呆れ顔で摘もうとすると、琉乃さまは神妙な面持をして、蓬を手に取る。


「… ごめんね」


 琉乃さまは蓬にそう言って丁寧に摘み始めた。


「琉乃さま、どうして蓬にそんな風に謝るのですか? 」


「母なる大地に根をはった蓬をそこから離すのに、痛みを伴わない訳がないから。せめて一言ごめんと言って摘みたいの」


「… そうですか。私は言いませんけど」


「ええ、わたしが好きでやっていることですので」


 私は琉乃さまを一瞥してから蓬を摘んだ。




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