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ハウスリーク(3)

 ***



=大石の憂愁=



 異国を旅する医療の知識を有した女、それがこの東乃宮琉乃という女性であると民は認識している。

 

 異国を旅しているということで民は少なからず違和感を抱く筈だ。

 

 しかし彼女の顔が東洋系であることにこの国の民は親近感を抱くのも不思議ではない。


 私は壮馬さまが持っているものと同じ女性が写った写真を自分の部屋の机の引き出しに置いている。

 

 心が必要と嘆くときに対面する。

 

 その写真を手に、私は息をついた。


「… 姉さん」

 

 仕事に戻ろう、そう思い家を出ていつもの業務へと向かう。

 

 官邸では壮馬さまが仕事に邁進している頃だろう。

 私もその補助業務を行わなければならない。


 家に戻ったのは、必要な書類を取りに来ただけだ。


 家を出ると国の象徴である布をあしらった衣装を身に着けた彼女がせっせと歩いてどこかに向かおうとしていた。


「琉乃さま、どちらにお向かいで? 」

「大石さん、こんにちは。これから森に行って医療資源になれそうなものを採ってこようかと思いまして」


「そのショルダーポシェットはどうされたんですか? 手作りのようですが」

「これ、診察をしたおばあちゃんが作ってくれたんです。

 可愛いですよね、ありがたいことです」


 なるほど、他人の心に入り込むことが得意なようですね。

 ええ、わかりますとも。

 この琉乃という女性が手当をしている姿がどれだけ美しいかということくらい容易いのです。


 それを上手いこと利用して他人の心をこじ開けようとするわけ、か。


 なにか弱みを握った方がこちらに優勢に事を運べるな、そう私の脳裏に浮かんだ。


 とびきりの笑顔を繕った。


「私も一緒に参らせていただけますか? 一度その現場をみてみたかったのですよ」

「ええ、いいですよ」


 私に負けず劣らずの笑顔で返してくると、なにやら眉間に皺を寄せて考え込んでいる、この琉乃という女性。


「どうされました? 」

「いえ! なんでもありません」


 そう言う琉乃さまのあとを私はついていった。


 結構奥まで行くものだな、私はそう思いながら滲んでいる汗を気付かれないように手で拭った。


「大石さん、疲れましたね。少し休憩しましょう」


 そう言いながら琉乃さまは木こりへと案内してくれた。


 そして私に水を差し出す。


「水分補給はきちんとしないといけませんよね」


 そう言いたげな笑顔で水をくれた琉乃さまの息はあがっていない。

 汗も滲んではいないではないか。


 ――私を気遣ってくれたのか?


 そう脳裏に霞んだが私はそれを追い払った。




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