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ハウスリーク(2)

 急いで俺は顔を逸らした。


「いや、なんでもない。それよりもお前、診療につかう薬品類はどうしているんだ? 」


「時間見つけて森に薬草を探しに行っているの。それでなんとか持っているわ。けれど… 」


「けれど、なんだ? 」


「いまはなんとかなっているけれど先々のことを考えるとこのままじゃ対応できなくなることは容易に想定出来るわ」


「医療資源を人工的に製造したい、というわけか。しかし術がない」


「簡易的なことからでもいいの。

 最低でもアルコールの生成は必ずしてほしいのと、医療道具の職人の育成もお願いしたいわ。

 必要ならばわたしも間に入るわ。ただ、わたしも全てにおいて精通しているわけではないけれど」


「しょうがない。お前がそこまで言うならこの俺が動いてやらんでもないぞ。そのかわり、この俺に対価を与えろ」


「対価? わたしが貴方になにを与えることが出来るのよ? 」


 壮馬は顔を琉乃に近づけ、真面目な顔で言う。


「それだ。お前いまだに俺のこと貴方、と言うだろう。

 たまに壮馬さまと言うがな。

 言ったはずだ。

 二人きりの時は壮馬、と呼べとな」


「嫌! それは断ったはずよ。国の主を呼び捨てにするなんて首が飛ぶわ。それに不純すぎるでしょ!」


「俺が良いと言っているんだ」


「それを口実にわたしが言ったあとでそんなことは言っていないとか言ってわたしを処刑する理由を作りたいんでしょう? 」


「どこまでお前はひねくれているんだ。お前俺をなんだと思っているんだ? 」


「国の主さまよ」


「いいから、言わないとお前の希望も通らんぞ」


 俺は満面の笑みで脅迫をする。

 琉乃が心の中で葛藤しているさまがこの上なく面白い。


「そ… 壮… 壮馬… 」


 俺は優越に浸る。


 その瞬間にドアの方から声がした。


「壮馬さま、でございます。琉乃さま」


 大石がドアを開けて眉間に皺を寄せて睨みつけている。


 そして琉乃もその矛先である俺のことを睨みつけている。


「いくらノックをしても返事がないので勝手に失礼しましたよ。

 しかし毎朝このように一緒に食事をとっておられるのですか? 」


「いや、違うんだ大石。これはだな… 」


「なにも違わないです、大石さん。わたしはこのような事は控えたいのですが… 」


 この女、裏切ったな、と俺は心の中で思った。

 琉乃は満足気に俺に笑いかけている。


 なんとなく感じてはいたが結構な小悪魔だ。


「早く食事を済ませて仕事に入ってください、壮馬さま。就業開始時刻まで少ししかありませんよ? 」


「… わかっている」


 流し込むように食事を済ませ、大石の目がひかっている中 琉乃は急いで俺の部屋を出て行った。


 少しだけ俺に振り向いて舌を出しあっかんべぇをしていった。


「あいつ… 」

「どうかしましたか? 壮馬さま」

「いや、なんでもない」


「私は医療資源の製造なんて反対ですよ。そのような経験を持ち合わせている人間がこの世界にいるわけがないでしょう」


「大石、お前いつからいたんだ? 声をかけるよりももっと前からいたんじゃないか。悪趣味だな」


 大石が咳払いをする。


「AIが自滅して数年が経ちましたが、我々に出来ることなんて限られています。無理をすればあとでしっぺ返しが来ることでしょう」


 新しいことを始めようとすると必ず反対者が出てくる。


 これは人間ならば当然のことで変化に不安を感じ、変わることを拒むのだ。


 時にそのパフォーマンスが大きくなり、人は傷つけ合ったりもすることはしばしば見られる。


「琉乃さまはいまでは旅の者として暫くこの地に身を置くことを決めたということを民に周知させたのは大きな保険としてなのです。

 琉乃さま自身はあのようにこの地に身を置くことをおっしゃっていましたが、それもいつ心変わりするか分かりません。

 琉乃さまが現在、此処で活躍されているからといってそこに甘んじてはならないのです」


「… 分かっているさ」


「いいえ、分かっておりません。壮馬さま」


 そう言って大石はあの写真立てを持って、その女性の瞳をみていた。


「姉はなんでもお見通しです。姉がどんな気持ちでみているかと思うと、私はいたたまれないです」


「… すまない。… 仕事に入る」


「… 承知いたしました」 



***

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