ポイント(9)
官邸に行くと大石が出迎えた。
「壮馬さま、体調いかがですか? 」
「ああ、もうほとんどいい。心配をかけたな。
それから仕事の方も助かった。進捗具合はどうだ? 」
「ええ、いくつかポイントを絞ってあります」
「そうか」
デスクに座った壮馬はPCを開いた。
暗証番号を入力すると、文章が表示された。
{わたしがここに来てから、色々と迷惑をかけてごめんなさい。
あまり面と向かって話をするのが苦手です。
この場を借りて色々と質問させてもらってもいいですか?
琉乃}
琉乃からの交換日記だった。
壮馬は文章を読んでふっ、と笑った。
返信を書いて送信をする。
「壮馬さま。今夜、行いをすべく… 」
「… ああ、わかった」
夕刻になり、琉乃は診療を済ませ、その足で壮馬の家へと向かった。
トントントン。ドアが開く。
「あがれ」
「ここでいいです。PCを受け取りに来ただけですので」
「夕飯、これからだろう。いま運んでもらうからここで食べていけ」
「朝もそうやって有無も言わさずに強引すぎません? 」
琉乃はそう言いながらずけずけと家へ入り、壮馬の顔を覗き込んだ。
「… え? 」
壮馬の顔は真っ赤になっていた。
壮馬は右手で顔を隠し、横に逸らした。
「みるな」
琉乃はひとつ、あとずさりをする。
そして大笑いをした。
「な、なにを笑っている⁉ 国の主に対して無礼だぞ」
「ごめんなさい。貴方も、人間なのね」
笑い転げて目尻の涙を手で拭いながら琉乃は大きく笑う。
「いただいていくわ、ありがたくね」
それから琉乃と壮馬は夕飯を共に食べ、会話は琉乃のその日一日の仕事のことを話した。
どんな民がどんな傷病に悩み、どうよくなっていくか、どう病と付き合っていくか。
その夜、琉乃はPCを開き、暗証番号を入力すると交換日記が表示された。
{気にするな。
それよりもお前の過去の情報を知りたい。
少しずつでいい。
過去、この国は、世界はどのような道を歩んできたのか、興味深いんだ。
壮馬}
{八は数字に表記してそれを横にすると無限大になる。
この世の中はそんな感じなのかな。
わたしの持っている情報は拙いものでしかないわ。
ただ、この世界にとって有益なものならば提供する利はあると思う。
琉乃}
日付が変わるその頃、壮馬は大石と森の中を衛兵に案内をさせ、歩いていた。
深く深く森の中を歩いていくと、古びた祠があった。
大石は壮馬に目で合図し、そのままその中に入っていった。
そこには、松田がいた。
そしてその先には手足と口を縛られた男がひとり、いた。
唸るその男と壮馬は目を合わさない。そして口を開いた。
「行え」
「承知致しました」
松田はその縛られた男の口のなかにあるものを入れて、そのまま飲み込ませた。
「俺はもう行く」
「承知いたしました」
壮馬と大石が祠からでると、祠のなかにいるその男の影が障子に映る。
そして、その男の吐血が障子に染みる。
壮馬と大石は無言のまま深い森を歩く。
琉乃はその日、惑星が堕ちる夢をみた。
夢は明晰夢だった。
他人を人間としてみれるようになったのは、いつぶりだろう。
惑星が堕ちるさまをみながら、琉乃ははっきりとそう考えていた。
そして光りが放たれる。
いつかの心地よい、あの言葉の言語を利用して。




