ポイント(8)
「少し開いてもいい? 」
そう言ってPCを立ち上げるとすぐにデスクトップへと移り変わる。
琉乃はその場ですばやくPCを操作する。
「暗唱番号の設定をしたいから、ここにキーを入力して」
「暗証番号? 一体なにをしている? 」
「いいから」
琉乃はPCから少し離れて背を向けた。
壮馬は言われるままにそのキーを入力した。
「終わった? 」
「ああ、終わったが… 」
「じゃあ今度はわたしの番ね。あっち向いててください」
壮馬は琉乃に習い背を向けた。
「いいわよ」
「なにをしたんだ? 」
「一緒の画面に入ると情報が露見されちゃうでしょ。
そっちもそっちで業務上のこととか知られたくないこともあると思うの。
だからそれぞれで暗証番号で自分のPC画面に入れるように設定したの。
これなら各々の情報を守れて安心でしょう」
「こういうことが出来るのか」
「どういう風に共用で使えばいいですか? 例えば時間帯とか… 」
「俺は昼間は仕事で使いたいんだが… 」
「ではわたしは夜に使わせていただいてもよろしいでしょうか? 」
「なんか、いつも以上にかしこまってないか? 」
「いえ、気のせいです」
琉乃は内心ウキウキしていた。
念願のPCが使えるのだ。
「おやすみなさい」
とびっきりの笑顔で壮馬の家を琉乃は出た。
壮馬は顔を赤くして大きく溜息をついていた。
そんなこと琉乃にとってはお構いなしだ。
PCを片手にスキップで自分の家へと戻った。
琉乃は夜半、早速PCでアウトプットしていた。
うとうとしてきた頃、琉乃は寝ぼけ眼で思いついた。
PCの設定を行う頃、もう日付をまたぐ頃だった。
小鳥が水をつつく。
朝の空気の気配がやってきて、ここから飛び立つ。
〈空の中を飛びたい〉よりも〈空を飛ぶ方法を見抜く力を与えて〉
そう言葉を残して小鳥はもう、ここにはいない。
「おはようございます」
自身が寝起きなことを忘れるほどに満面の笑顔で壮馬の家を訪れた琉乃に、壮馬は自身が寝起きだということを思い出した。
「寝ぐせ、ついてますよ」
壮馬は慌てて髪の毛をおさえる。
「入れ」
「いえ、ここでいいです。PC持ってきただけなので」
「いいから入れ。朝食まだだろう? うちでとっていけ」
半ば強引で断れない空気だった。
「… おじゃまします」
壮馬はそのまま洗面所へ行き身支度を整えていた。
琉乃は初めてここに現れてしまった原因をいまだに突き止められていない。
棚にある写真立てはいまでも健在で、そこにはやはり美しい女性が写っていた。
「その写真はみなくていい」
気付くと琉乃の後ろに壮馬が立っていた。
「ごめんなさい」
「気にするな。もうすぐ朝食が運ばれてくる頃だろう」
トントン、とノックする音が聞こえた。
「来たな」
ドアを開け食事を部屋に運ぶ。
琉乃は再び写真を一瞥し、運ばれてくる食事を共に準備した。
食事中は静かで琉乃と壮馬は会話をほとんどしなかった。
食事が終わり食器が運ばれ、琉乃はそのまま壮馬の家をあとにした。
家では壮馬が写真の女性をみていた。
「… すまん」




