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9・新たな問題解決に発想を転換して臨んだ

 新型機の名称は『大鷲』と決まった。

 だが、運用機数が増えるごとに不具合もいくつか報告されるようになる。


 一番大きなものは既知の離着陸性能の問題だが、それ以外にも双発に並べた推進器が相互干渉を起こして停止してしまう事があるという。停止するのは大抵は片方なので緊急着陸で事なきを得ているそうだが、これが解決できなければ『大鷲』も欠陥機の烙印を押されてしまいかねない。


「やはり、魔導炉を並べるってのは、ちょっとしたきっかけで思わぬ不具合に見舞われるな。意図的に暴走状態に置く仕掛けをしたのが、魔道砲に使う弾なんだろう?」


 と、ドワーフに聞かれたが、私は魔道砲の弾の仕組みを知らない。だが、ドワーフが言うのだからきっとそうなのだろう。


「そうなんだろうな。私は詳しい仕組みは知らないから、よく分からない。しかし、エンジンを近接して配置すると不具合が起きる、か。どうやら操作や調整の問題らしいから、設計や製造の段階で確実に解決する方策はなさそうだな。どうしても不具合を回避するには推進器を離すしかない」


 そうなると、翼吊り下げ式のMe262か?練習機や爆撃機にならば胴体側面にエンジンを装備した機種が存在するが、戦闘機でエンジンを離したものとなると、フランカーやフルクラムと言ったソ連系の機体。

 あれらはストレーキとクリップトデルタ翼を備えた機体だが、そもそも大推力エンジンを積んでいる。私が求めているのはユーロファイターのように小推力双発機なので、あれを真似て果たして成功するのだろうか?

 

 前世の記憶にあるラジコン飛行機においても、まずは推力が大きい事を前提に設計や製作が行われていた。エンテ型のようにそもそもの舵角や操縦が難しい場合はともかく、少々翼型や胴体に不具合があろうとも、推力さえあれば飛ぶんだとベテランの方が呟いていたのを思い出す。大推力を得られるのであればそれで構わないのだが、今回はそうではない。

 そうなると、ホルテンHo229のような全翼機を検討した方が良いのだろうか?垂直尾翼を設けると、幻の戦闘機かつをどりモドキとなりそうな予感がする。それで運動性はどうなるか未知数だ。


 いや、ひとつあるにはある。が、それを果たして実現できるのだろうか?


「つかぬ事を訪ねるが、推進器の内蔵した魔導炉から余剰魔力を取り出し、櫂漕ぎ魔道具を動かせたりはしないだろうか?」


 それを聞いたドワーフは全く質問の意図が分からないのだろう、何を言ってるんだ?という顔をし、とりあえずの答えを口にした。


「余剰魔力ならある。魔導炉自体は常に同量の魔力を発生させているが、推進器は全開時でもなきゃあ、その魔力を使いきれちゃいねぇ。どれだけの力を必要とするかにもよるだろうが、動かせるだろうな」


 と、いまいち私の意図を図りかねている様だった。


 そうか、出来るのか。出来るのであればやってみない手は無いだろうな。


 『大鷲』へのカナード追加は咬刹夏のドワーフに任せ、私は推進器の間隔を大きく取った新型機の設計に邁進した。

 それを見たドワーフはとても奇妙な顔をしている。


「アンタが飛行機を飛ばすまでの常識だったブツにちょっと近くないか?鳥や飛竜の真似事を止めるのがアンタのポリシーだと思ってたんだがな」


 というのも仕方がない。


 実際の機体製作に当たる人々との調整もあるので、私もこんな時期ではあるのだが、咬刹夏へと向かった。


 現地では先に届けた設計図からすでに試験機を制作している所だった。


「おい、お頭さんよ。模型にしてみたんだが、こんな動きて良いんだよな?」


 実寸大を作る前に、まずは模型を作っていたらしく、各部の動作や形状についていくつかの確認や調整を行った。

 そして、試験機の製作を行っていくのだが、ドワーフの経験や勘から、私の考えたモノよりも強度が必要な個所、模型飛行機や前世の機体とは考え方や内部に備えるものが違う事で構造が異なる箇所など、『大鷲』の時以上に大幅な修正が加えられていった。

 その中でも最大の物は操縦席だった。


「さすがに一人でこれを全部操作すんのは無理があらぁな。コイツは二人乗りが標準だ」


 という事で、途中から機首部分の製作をやり直し、複座型へと大幅に変更が行われた。


 製作に要した時間は半月。試行錯誤や設計変更が相次いだ割に、そのハイスピードには驚くしかない。そりゃあ、『大鷲』の様な既存の機体の流用であれば、一月程度で結果を出し、並行生産などと言うやり方も可能な訳だ。


「コイツは軽銀だけじゃあ強度が足りねぇ箇所が多い。虹鋼を使わなきゃならん箇所があるから、作り甲斐がすげぇぞ」


 と、製作に携わったドワーフの顔は明るいを通り越して興奮気味である。虹鋼というのは軽くて非常に硬度がある金属であるらしい。その合金を使っているのだから、コストも凄いだろうし、製造難易度も高いはずだが、それを喜びと感じる彼らの感覚が私には分からない。


 完成した機体にいそいそと乗り組むドワーフ二名の顔も似たようなものだ。


「まずは稼働状況を確認してくれ」


 地上からそう指示を出せば、フラップや主翼、尾翼を動かし、地上からも稼働状況を確認する。少なくともこの時点での問題は無いらしい。


「はじめのうちは地上滑走を幾度か行い、問題が無ければ離陸だ」


 羽を広げた姿はこれまでになく巨大な機体に見える。地上滑走で問題は見られず、すんなりと離陸に成功すると、そのまま飛行場を一度フライパスし、高度を上げて各部の作動確認や意図した性能があるかを確認していく。


 そうした確認をしながら、飛行場上空を二度三度と高速でフライパスし、着陸してきた。


「すげぇぞこいつは!」


 降りてきて開口一番それである。


 どうやら最高速度は『大鷲』よりさらに速く、560kmを記録したらしい。確かにフライパス時にはかなりの速度に見えた。

 さらに、同様の重量級である『大鷲』はおろか軽量な『隼』よりも離着陸性能は良いらしい。そうなる事を意図してこの機体にしようと思ったのだが、まさか複座型でその性能を達成するとは思わなかった。


 そんな、試験段階としては満足の結果に安堵している所へ、何やら急報が届けられた。


「何?ソレは本当か?」


 私はその報を受け、残る試験に後ろ髪を引かれながらも都へと戻るのだった。 

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