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8・とにかく事は急ぐ

 泊潟湊が攻撃されて5日。都へ情報が伝わるのにそれだけの時間を要した。そこからさらにあれやこれやと会議が行われ、その間にもまた攻撃の報が舞い込むような状態だった。


「貴卿らは座して被害を受け入れる考えかな?」


 責任逃れと派閥争いやら主導権争いを前面に、何やらおかしな主張を続ける武田や雑賀。着上陸には程遠い状況だと事態を楽観視し、主導権争いに重点を置いているのが見え見えなのだが、飛竜による攻撃を受けるというのは、その様な楽観的状況とは言い難い。


 さらに、その様な会議の席上へと新たな情報がもたらされる。


「報告!沖ノ島海軍湊が襲撃を受け、軍艦炎上!」


 沖ノ島とは、突島の沖合に浮かぶ島で、海軍が駐留して海峡警備の拠点としている。とうとうそこも攻撃されたらしい。その報を聞いて、どうやら武田、雑賀両将は批判の矛先が村上へ向くと考えたか、態度を軟化させる。


「事ここに至り、海軍湊までが襲われるとなれば、騎竜軍の力とやらを示してもらわねば困りますな」


 最終的には私に責任転嫁を目論んでいるらしい。


「我が騎竜軍は空を飛ぶ飛竜と相対する事は出来ますが、湊を守る事までは、さて、手が回りかねますゆえ、雑賀殿を頼りにさせてもらいますよ」


 誰が責任転嫁を甘んじて受け入れようか。高初速の電撃砲の導入を蹴って醜態をさらしているのは、何を隠そう雑賀である。


 だが、では分かりましたと泊潟へ部隊を向かわせることは出来ない。飛行機には飛行場が必要になる訳だが、泊潟とはよく言ったもので、現地は幾本もの川により形成された干潟とそこに浮かぶ島や砂洲から成り立っている。その為、陸上の基盤となる政庁や城なども数km内陸の山沿いに設けられているほどだ。


 飛行場を設けるとなると、平坦な土地が必要なため、すぐには用意できない。早くから必要性を訴えていたが、全く聞く耳を持たなかった結果がこれである。


 何とか土地の選定を終え、滑走路や駐機場を整備し終え、進出を始めた頃には季節が移り替わっており、その間に片手では済まない回数の空襲が行われている。そのたびにやり玉にあがるのが、騎竜軍の遅さであったが、ここまで事態が進行しても、雑賀軍団は雷撃砲の採用には踏み切っていない。当たりもしない既存の魔道砲を撃ち上げているのみ。


 我が騎竜軍も全く万全とは言えない。このような事態は想定外であったため、『隼』の数は揃っていない。間に合わせの為に『飛燕』も泊潟へと向かわせ、何とか40機ほどを揃えることが出来たが、練度の事を考えるとドワーフの駆る『隼』はともかく、何とか練習機から乗り換えた『飛燕』組は心もとない。


 それからしばらく、泊潟での運用が本格化し、飛竜の迎撃が行われた。初めての迎撃時こそ圧倒出来たが、二度目の迎撃時には早くも対応されるようになったという。


 『飛燕』に関しては端から速度が足りず、不意打ちや一撃離脱に徹した行動を行わせていたが、『隼』ですら、速度が足りていないという事実が判明した。


「飛竜の降下に追いすがれない事はもとより覚悟していた。だが、水平飛行ですら速度差が無いもんだから追い付けない」


 デルタ翼機として時速400kmを達成した『隼』ではあったが、それでもなお飛竜の方が上であるらしい。

 どこか私も楽観視していた。たしかに飛竜単体であれば速度は出せるとしても、まさか人を乗せてなお、その速度で飛ぶとは思っていなかった。

 その為、400kmという速度設定を設けていたのだが、それは甘すぎる達成目標であったらしい。


 そうであるなら、やれることは一つしかない。単発がダメなら双発にすればよい。とにかく大推力を得られさえすれば速度は出せるはずだ。


 という事で、ミラージュⅢからより大型のミラージュ4000へとバージョンアップを図ることにした。

 内部の構造などは双発化に伴い見直す必要があるが、外形はほぼそのままで良いだろうと、とにかく急いで設計図を描き、咬刹夏のドワーフの元へと送り届けた。


 彼らもその要望に応え半月という速さで初号機を完成させ、見事、時速500kmという大台に乗せるという大成功を収めてくれた。

 同時並行で製作を進めていたらしい2号機から6号機までの5機を、僅か3か月後には泊潟へ進出させるという突貫作業によって、何とか飛竜に対抗する手段を確保する事に成功した。


 その頃になると飛竜との交戦記録も詳細なものが届いて来たが、飛竜は固有の火魔法を持っている種が飛来しており、魔法によって対地、対艦攻撃を行っているようだという。流石に空を飛ぶ飛行機を狙うほどの技量は有していないらしく、今のところ、撃墜された機体は無い。


 だが、こちらの機体も飛竜を撃ち落とした数は僅かであり、空戦の難しさを物語っている。


「こりゃあ、さすが空飛ぶ生き物って事なんだろうなぁ。術者の技量や考えではなく、飛竜自身が飛行機の攻撃を回避しちまってるんだろうよ」


 とは、都に同道しているドワーフの言である。


「だけどよ、どうやら、新しい機体でならば、その速さを生かして気付かれる前に射点について襲い掛かる事が出来ているらしいな」


 そう、速度こそがモノを言うのが空戦であるらしい。さらに言えば、いかに相手の死角を衝いて攻撃を行えるか。

 そんな嬉しい報告と共に、新型機の欠点もまた報告されてきた。


「『隼』じゃあ、さして問題にならなかった離着陸の不安定さが顔を出しているらしい。推進器を2つに増やしてかなり重くなったことが堪えてるのかもしれん」


 というドワーフの分析に首肯する。これは分かっていた事ではあった。デルタ翼というのは高速性能を発揮しやすいというメリットと共に、低速性能が劣るデメリットも存在している。この欠点を補うため、角度の異なる前縁部分を設けたダブルデルタ翼を備えたスウェーデンのドラケンであるとか、ミラージュⅢの派生型であるイスラエルのクフィルや南アフリカのチーターの様にカナード翼を備えたモノが存在している。

 より発展させたのが、タイフーンやラファールになる。


 だが、今回は急造を目的としたため、既存の『隼』をベースに双発化による速度向上のみを実現させている。

 今後は性能改善の為に新型機にはカナード翼を取り付けた試験機を制作させてみようか。それで効果が得られるのであれば、既存の設計から大きな変更なく、離着陸性能の改善が実現できる。それが出来ない場合、何か新たな事を考えなくてはならないが、そこまで時間が許すのかどうか、少々不安がぬぐえない。

 さて、あとは、この機体を何と名付けよう?

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