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6・それがドワーフの習性と言えばそれまでだが

 機体の方は南部衆によって順調に製作が進んでいる。しかし、パイロットに関しては陸軍からの妨害でなかなか集まらない状況が続いていた。

 なにより、国友衆にとっては私が蛮族を優遇している事が気に食わないらしかった。もし、私が皇族でなかったならば、果たして飛行機は飛んでいたかどうかすら怪しいほどだ。


「浮田に魔道具を渡せないとはどういうことだ?」


 飛行機の量産が順調であると会合で報告して以後は、とうとう浮田に対して国友は取引を停止してきた。担当者にその事を問いただすと、どこか蔑んだ態度がにじみ出る表情である。


「我々は殿下の考案なされた魔道具の生産をする余裕が無いからでございます。武田様の魔道騎が大量に依頼されておりまして、とても手が付けられません。雑賀様の魔道砲により、魔道砲工房も手一杯にございます」


 などと、さもそれらしいことを言うが、態度を見ればわかるではないか。


「そうか、それは残念だ」


 私としても南部衆のドワーフがこいつ等より数段優秀なので特に困ってはいない。そして、それはそれとして村上衆と接触し、ドワーフによって改良、考案されたより効率の良い魔導炉や推進器の情報を渡すことで関係強化を行っている。

 ただ、我が国はなまじ遠洋航路が限定的であるために、海軍の立場は弱く、島国であるにもかかわらず、陸の権勢が強い。だが、その様な感性のままトゥーファンと当たれば、撃退できたとしても先は見えているだろう。泊潟でしか迎え撃たないのに強力な魔道騎軍団や魔道砲軍団をさらに増強してどうなるのだ?なまじ突島が大きいばかりに、我が国では本来考えるべき海防という観点がどこか軽視されている。


 さて、その様な将来の不安もあるが、より直近の課題が浮上してきた。


 練習用の軽飛行機がある程度揃い、今のところ興味を持ったドワーフが数十人ほど訓練をしている。しばらくすると更なるステップへと進めるだろうことから、軽飛行機ではなく本格的な機体を制作させることにした。

 軽飛行機がYak17をモチーフとしていたので、そのまま大型化してマンマYak17へと拡大する事にした。速度的に引き込み脚にせずともどうにかなるだろうと、まずは流線形カバーを取り付けただけの固定脚で完成させたのだが、速度があまり出ていないらしい。


「どういうことだ?」


 最近は都との往復も面倒だし、どのみち妨害しかされない為、咬刹夏へと居を構えている。咬む刹、夏という言葉の通り、夏でも夜などはとても寒く、冬など外に居る事すら危険なほどだ。そんな所で作物がうまく育つはずもなく、極小規模な農園しかない為、羊の様な動物を育てる牧畜で食料を得ている。

 今は妨害はあれど、私の権威と権限で酒と食糧の流通量が増え、多少はマシになったそうだ。水代わりに酒をガバガバと飲む姿には、未だに慣れないが。


 ミニYak17は軽飛行機であり、時速160km程度で飛んでいる。ではフルサイズYak17はというと、それがどうやら時速250km出ないそうだ。


「計算上は、あれだけデカイ推進器にすりゃあ、アンタの求める時速400kmは出るはずなんだがな」


 と、首を捻るドワーフ。


 問題が何処にあるんか分からないので、とりあえず、引き込み脚へと変更した新たな機体の製作を求めた。


 だが、完成した引き込み脚仕様においてもようやく300kmを超える程度。


 そこで、推進器に繋がる魔導炉の魔力発生能力が問題ではないかと疑ってみたが、そこには問題がないという。もちろん、鵜呑みにはせず直接出向いて計測を行ったが、問題なしだった。


 さて、残るは推進器本体である。


 推進器の稼働試験を行い、その推力を実際に調べてみると、ドワーフの言う推力が出ていなかった。


「どういうこった?作りは問題ねぇぞ。魔法線も魔法板も問題ねぇ」


 と、個々のパーツを調べながら首を捻るドワーフ。


 そこで、稼働中の推進器に対して煙を吸わせてその流れを見たのだが、どうやら大径化した円筒の中心部にまで魔法効果が及んでおらず、そこが抵抗となり気流を乱していることが分かった。


「おもしろい」


 それを見た私はとあることを思いつく。


 ジェットエンジンにはいくつかの種類があるが、非常に簡便な構造をしたラムジェットの場合は円筒の中心にコーンを設けて吸入した気流を圧縮し、そこで燃焼を行うエンジンだ。

 全く機能は違うが、口径80cmにもなる円筒であれば、その中心に魔導炉を仕込み、コーン後方に魔法板を配置する、なんちゃってラムジェットにすれば、圧縮による推力増加が見込めないか。更に、魔導炉と推進器を個別に設けるよりもメンテナンス性や生産性も上がるのではないかと考えた。


「まあ、間違っちゃいねぇな。円筒内に物を置くのは本来抵抗になるが、空気自身が抵抗になるなら、それを消すために空間を埋める。理に適った考えだ」


 と、ドワーフも賛同し、早速新たな一体型推進器が製作された。


「おお!スゲェぞ。これまで以上の推力が発揮できるじゃねぇか!」


 どうやら圧縮効果なのか、それとも、構造は違うがベンチュリ―の様な負圧効果なのか、思惑通りに吸入効率が上がり、推力も従来の円筒より向上していた。ここからがドワーフの凄い所で、この結果を受けてさっそく軽飛行機用にも同様の構造を持った推進器を開発してしまう。


「魔導炉の小型化はとても良い事だ。その技術は素晴らしい。だが、軽飛行機は設計上、200kmを超える速度を想定していない。意味は、分かるな?」


 と聞くと、「分かっている」との返答だが、きっと分かっていない。


「機体強度を理解しているのは分かった。しかし、より大きな問題は、これは初級者が操縦する機体だという事だ。重たく操縦難度を上げれば、機体としての性能は上がっても、使用目的から外れることになる」


 そこまで説明すると、目を逸らしやがった。技術的探究心は素直に凄いと思うが、時としてドワーフは手段と目的を取り違える。それも、故意にだ。その点は時折見張らないとどんな暴走を始めるか分からない。

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