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4・実現のために箍を外す

 啖呵を切ったまでは良かったが、今のところ飛行機はよちよち歩きも良い所だ。自ら一軍を起こすという話について、父である帝に裁可を賜る事は出来たものの、父も息子の我が儘を生暖かく受け入れたといった態度であり、新たな軍が有効に機能する事など期待してはいなさそうであった。


 現実にそれが表面化した。


 私には前世の知識がある。それは実機ではなく模型飛行機のそれではあるが、村おこしの一環として取り組んだほどの豊富な知識だ。そして、それが浮田の飛行機開発に大いに役立っていた。

 滑空機やモータグライダーの次は実際に動力飛行機の開発であるが、そこには大きな壁が立ちはだかっていた。


 開発や製作自体に大きな問題は無い。まだまだそこまで高速力を目指したものではなく、しょせんは軽飛行機の類であり、まだまだ模型飛行機の知識でも誤魔化しが効いた。

 開発した軽飛行機はモーターグライダーに毛が生えた程度の二人乗りであり、飛行時間も畜魔石によって何とか一時間程度である。速度は150kmに満たないものなので、まだまだ飛竜と相対するレベルにはない。


 だが、問題はそこでは無かった。


 魔道具を実際に生産し、供給しているのは魔道具研究所ではなく国友衆である。彼ら一門(ギルド)が魔道騎や魔道砲を製造し、軍に供給している。船に関しては村上衆が独自に担っているが、私が欲する小型推進器は村上ではなく研究所において実験用に少量が製作されているだけであり、風魔法に関する知識の薄い村上が、おいそれと量産できるものではない。

 その為、自ずから国友によるサボタージュに遭えば、飛行機製作は遅延をきたすことになる。




「何の用だ?蓬莱の一族が我らを訪ねるなどとは、奇特な事だ」


 そこで私が目論んだのは、まつろわぬ民として咬刹夏に土着しているドワーフ族である南部衆の取り込みだった。

 彼らは我が国最北の咬刹夏に住む。極北地帯を含む寒冷地であり、生活は非常に厳しい。ただ、彼らは山師として、鉱夫として高い技能と知識を有し、鍛冶をはじめとする工作技能も非常に高い。

 そんな彼らだが、個としての戦闘力はともかく、集団としての組織性に乏しい為、我が国に各個撃破され、最終的には服従し今に至る。が、関係は必ずしも良好とは言い難い。


 警戒心も露わに出迎えた南部衆に対し、私は単刀直入に魔道具や飛行機製作の話をした。


「魔道具?そんな児戯に付き合えと?」


 彼らは我々よりも個としては魔法に精通し、その能力を生かして採掘や鍛冶、細工を行っている。彼らの製品は迂遠な魔道具を利用した我々よりも品質が良いのだから、このように言われても仕方がない。が、従えた従者たちは面白くなさそうだ。


 実際に持ち込んだ推進器を彼らに見せると態度が変わる。彼らは推進器を前に身を乗り出してアアダコウダと言葉を交わすことしばし。


「コイツは稚拙で雑な細工しかなされていないが、考え方は面白い。これをその模型に取り付けて飛ばすのか?」


 というので、実際のサイズを示すとかなり乗り気になっている。


「人を載せて飛ぶのか。ソイツは面白い。お前たちのその雑な魔道具で飛ぶのだ。我らに掛かればさらに良いものが出来るだろう」


 と、かなりの自信であるが、問題は推進器ではなく、そこに供給される魔力にあることを指摘する。


「そうか、貴殿らにとっては簡単な事か。だが、その魔道具を動かすためには膨大な魔力を要する。畜魔石程度では一時間程度しか動かす事は出来ていないのだが、自由に飛ばすことが可能になるというのかな?」


 と、少々挑発的に発言したら、不敵に笑い返してくる。


「畜魔石を使うのか?魔導炉を使えば自由に飛ばせるではないか」


 というが、魔導炉は金属製の大きな魔道具であり、推進器を稼働させる規模だと、それ一個で数百kgの重量になる。間違っても私が示した飛行機に積んで飛ばせるようなシロモノではない。


「お前たちの稚拙な技術ではそうなのだろう。お前たちではな。嘘だと思うなら、そう思っておけばよい。我らが言っている事がウソでは無いと、一月もあれば証明してみせよう」


 と、逆に徴発された。


「であれば、作ってもらおうか。実現するのであれば、貴殿らに今後の製作を任せても良い。そうだな、その報酬は・・・・・・」


「金なんかどうでも良い。我らの腕なら、お前が便宜を図ればいくらでも稼げる。酒だ。酒の販売をもっと増やしてもらおうか」


 と、金ではなく酒が欲しいと言い出した。彼らの酒好きは有名であり、彼らを従わせるために意図して販売量を規制している。それを緩和ないし規制撤廃を言い出したわけだ。

 私の飛行機製作に従うのであれば、大幅緩和も不可能ではないだろう。戦士としても有能な彼らをパイロットに出来るならば、なおの事頼もしい。


「わかった。実現すればその話に乗らせてもらう」



 そうして帰って来た私は、またもや武田や雑賀の者たちに詰め寄られる。


「殿下、まさか蛮族を直接訪問するなど問題ですぞ。しかも、連中を使うなどと、とても我らが支持出来る事ではありません」


 と、あれやこれやと批判する。


「そうか?だが、連中は国友に作れないモノを作ると豪語している。実現した暁にはどうするのだ?」


 と、問うてみた。


 我が国において国友衆は最高の技術を有するというのが常識である。それに対して村上は一段劣るともいう。

 しかし、誰も南部衆の技術について言及はない。たしかに彼らの品は流通している。主に細工物や武具だが、少数のそれらはかなり高値で取引される。

 もちろん、国友衆が構えるギルドを外れた取引となるため、流通自体は多くないし、ギルドによる圧力もある。武田や雑賀も彼らのロビー活動によって私へと圧力を掛けたいのだろう。


「そんなことはありませんぞ。大言壮語とはこの事。殿下、あまり蛮族に肩入れなさりますな」


 結局、彼らはそういうしか無い。実のところは品質を理解している。なので、個人として南部衆の細工や武具は蒐集しても、大手を振って使うという事は、ギルドの手前出来ないというだけだ。

 さて、ドワーフ連中は言葉にたがわぬ品を作り出せるかどうか、実のところ不安なのは確かだ。




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前から描写はありましたが、国友や村上、武田雑賀のこの世界での歴史がとても面白い事になっていそうですね! また、南部衆がドワーフ族と言うのもまた心をくすぐるモノがあります!! [気になる点…
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