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2・記憶を頼りに糸口を探る

 さて、私はどこで気を失ったのか。もちろん会議室などではない。分からないなりに、飛竜には飛行機械でという考えから、私の母方の一門衆の奇才、浮田なる人物が実際に飛んで見せたという事で、彼の元を訪れていた訳だ。

 だが、残念ながら飛竜に挑めるような状況では無かった。彼が製作していたのは滑空機であり、それを発展させ、魔道具を用いて羽ばたかせようとするオーニソプター(羽ばたき機)であった。


 前世知識によれば、オーニソプターは古くから偉人や著名人が書物や図案を遺しているものの、21世紀にいたるまで実用的な性能に至ってはいないらしい。飛行機械は主に滑空か、プロペラや噴射による推進力によって飛んでいる。

 で、あれば。我々が開発するのもそうした飛行機械であるはずだが、動力源となる魔動具に問題を抱えている。

  

 ちなみに、我が国の魔道具技術は世界一を自負しており、この分野においては周辺諸国はおろか、飛竜を飼いならしたトゥーファンをも凌駕している。魔道具製作に必要な魔法理論や魔力エネルギーである魔導技術にも長けているのは当然で、こうして一介の奇怪な発明家ですら動力源として魔道具を入手できるほどだ。

 ただし、この魔道具はものを回転させる事を意図していない。いや、発想さえ変えれば往復運動を回転運動に出来るだろうが、櫂を漕いだり機械の馬を走らせる事を念頭にしているせいか、回転運動に置き換えても回転数が稼げるものではない。

 さらに言えば船は当然として、機械の馬にすら魔導炉を載せているほど効率が悪い。そこから改善しなければ、飛行機械の動力源としては適していないだろう。


 とても悩ましい限りである。


 それから幾日か後、魔道具工房を統括し、魔道具研究を行う研究所を訪れる。


「回転動力となる魔道具は造れないものか」


 そう、研究員に尋ねてみるが、芳しい答えは返ってこない。


「回転動力という物をこれまで研究してきておりません。水車や風車で動かせるものを敢えて魔道具に置き換えると云った事はだれも望んでおりませんので」


 というものである。


 ある意味当然の事だと言える。魔道具で動く機械の馬が開発されている。ならば、その様な迂遠な事をせずに荷車を直接動かせば馬など不要になるではないか。

 そんな発想があったのは確かだ。しかし、誰もそれを実行しなかった。いや、出来なかった。


 魔道具を組み込んだ機械というのは非常に高価である。前世でいうなら飛行機や船を所有するような話だ。誰でもおいそれと持てるものではない。

 いわゆる自動車を開発したとしても、持てるのは軍部や一部商家程度でしかない。

 そして、使用者となるはずの軍部や商家にとって、それら機械は不都合な品であった。


 軍にとって自動車は輜重を支える力となり得るのだが、それは軍馬を減らすことに繋がる。確かに機械の馬、魔道騎は存在するが、それは騎馬隊を魔道騎に置き換え、さらには爆弾や魔道砲を持たせた兵科の事である竜騎兵を指す。

 竜騎兵は前世知識に置き換えるならば、戦車や機械化歩兵によって編成された装甲部隊の事になるだろうか。


 つまり、一般騎兵を圧迫はしても、トラックのように馬を駆逐してしまう機械ではない。魔道車はトラックであり、軍馬にとっては天敵である。そして、馬とは比較にならないコストが掛かるとなれば、軍において採用しようなどと言う動きは起こりようがない。


 商家において、魔道車はステータスになり得る存在である。だが、それが自らの商いを圧迫する脅威となれば、果たして普及するであろうか?


 結局、皇族がパレードの時などに「国の誇らしい技術」を魅せる為の道具として以上の価値を見出せずに今に至っている。魔道具としてのコストが大きく下がるブレークスルーが起きない限り、このような状況が続くことは避けられないだろう。

 さらに、水車や風車動力に代わるものとして導入するというのも、コストの問題があるし、さらにはよほど廉価にならない限り、現在の利権者である貴族やギルドの力を圧倒する事も、需要を奪い取ることも難しい。


「ならば、噴出式の動力は無いか?風や水の勢いを用いた魔道具だ」


 魔法と言えば、ファイアをはじめとして宙から飛ばす攻撃魔法が存在する。しかし、我々はその様な発生手法を持ち合わせていない。あくまで、魔道具という形で実現しているので、これはある意味、科学の分野になるのかも知れない。いわゆる魔法科学という奴だ。

 そのため、魔法師が船の帆に風を当てて航海するといった方法はこの世界にはない。その為の魔道具を開発していれば別だが、実用化したという話は聞いていない。

 例外は野生の魔獣であり、飛竜はファイアを撃ちだしているらしいが。


「それならば実験は行いました」


 何?実験をしている。だと?


「櫂に代わる推進方法として、水を後方へ押し出す魔道具の開発を行った事がございます」


 そう言って説明されたのは、船体外周へと魔道具を配置し、周囲の海水を移動させるという物だった。


「しかし、櫂に代わって推進力を得る事には失敗いたしました。あまりに力が弱く、海流に逆らって船を動かす事は出来ず、湖でならと言った性能です。それも、櫂用魔道具とは比較にならない非効率さで、とても実用には耐えません」


 というのである。前世知識を用いて考察すれば当然の話だ。


「その魔道具を樋や筒に仕込んでみればどうだろうか?」


 という私の言葉に対し、いまいちその利点が分かっていなさそうな研究員であった。


 こうして、推進器の実現可能性も早期には難しい。まずは実用的な滑空機から何とかし、オーニソプターではなく、飛行機としての技術データを蓄積するところから始める必要がありそうだった。


 そこで、まずは浮田と共に、私の前世知識を用いたグライダー開発を始めた。グライダーの素材は、まずは木や竹を用いることにしたが、より丈夫な金属の使用も視野に入れている。


 その金属を扱う集団が、魔道騎を制作している国友衆と、なかなかに面白い事をやっている土着ドワーフ族である南部衆だ。

 ただ、南部衆は後から降った一族だけに、話が簡単に通るかは分からない。


 

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