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17・急転直下

 それから程なく、事態は急展開を見せた。


 チャンコ―流域に侵攻し、スイをも呑み込んだトゥーファンであったが、その実態はとんでもない状態であった。

 チャンコ―流域で行われていた稲作について、トゥーファンの人々はほとんど知識を持っておらず、にもかかわらず、北部畑作地帯同様に住民を狩って奴隷として売り捌いてしまった。


 もちろんの事、あまりにも多くの奴隷が発生した事から値崩れも激しく、それまでの様に奴隷売却で得た利益で軍の運営を行う事が出来なくなり、畑作知識しか持たない入植者に稲作を行わせたことでとんでもない不作をもたらすことになった。

 麦作と稲作であれば、一般的に稲作の方が収量が期待できるとされている。が、それは適切な管理を行った場合である。テハンの水田には雑草のヒエが多く、それを常に除草しなければならなかった。

 ただし、稲とヒエはある程度の時期まで一見して見分けがつかない。その為、稲作に従事した事が無いトゥーファンの入植者たちは伝え聞いただけの栽培法でもってヒエを栽培していた。


 ただし、ヒエと言っても栽培種のヒエとは違う野生種の為、収穫まで実が穂に留まる率が非常に悪く、とても食用としての収量を得るには至らない。その為、食味ウンヌンと言った話以前の問題として、稲を枯らして旺盛に育ったヒエからはほぼ何も得ることが出来ない。せっかく夏に青々と育っていたものが、秋口に黒い穂を着けたかと思うと徐々に数を減らし、収穫期には半減している。そして、少し揺らしただけでもポロポロと零れ落ちる為、刈り取りの段階でさらに減らし、乾燥の為に集めた段階で更に減りと、とても米や麦と比較できるような収穫量にはならなかったという。


 そんな状況でも支配者たちが年貢を減免するようなことは無い。結局、入植者たちは納める物が無く、ただただ飢えに苦しむことになった。


 さらに、トゥーファンは侵略した先で下落傾向の奴隷を、高価値の若い女を除いて多くの場合は処分していった。それがまた、乾燥気候の高原や北部平原と違い、湿潤なチャンコ―流域では打ち捨てられた死体からの疫病蔓延を招き、兵士たちにも多くの犠牲を出す羽目となっていく。


 飛竜というそれまでの戦術を覆す戦力によって、そのような内幕を晒すことなくテハンの大半を支配下に置く事には成功したが、統治は上手く進まず、入植者たちを餓死させ、荒廃した原野を増やしていく結果をもたらす事となっていた。

 その様な状況では補給が細るのは当然で、騎竜軍によるテハン湖周辺への爆撃によって継戦能力に大きな打撃を受け、とうとうキメ地域への侵攻が自然休戦の形で収束を見せる様になっていた。

 もちろん、多くの兵力と労働力を失ったテハンに反攻能力などなく、ただ現状維持を図る状態に留まっている。


「まあ、歳を考えればそういう事もあろう」


 さらにもう一つの変化として、激戦の最中にもテハンの王様は若い第二王妃と励み、男児を授かっていた。このままいけばハンナ姫の帰還はお家騒動ともなるので、テハン側も帰還など望まなくなる。


 こうして、テハンと蓬莱の思惑はいつのまにやら一致した事で、私はそれから一年の後に泊潟における指揮権も返上し、咬刹夏へとひきこもることになった。

 一応の部隊は今も泊潟に配置はしているが、時折偵察の飛竜が飛んでくる程度で、もはや襲撃もなく、ただ、訓練に明け暮れる毎日だという。


 そんな状況でも咬刹夏のドワーフ達は開発意欲が高く、あれやこれやと珍奇な飛行機が時折製作されている。


 私も騎竜軍の更なる発展のために何が必要かと頭を捻り、あれこれ提案や試作も行った。


「うむ、やはり大重量の機体は今の簡易な飛行場では運用に耐えないか」


 ドワーフの一人が雷撃砲のアイデアを推進器に活かし、魔導炉一基で二基の推進器を稼働させる事に成功した。

 これで『屠龍』のような双発ではなく、もう一度『大鷲』を復活できるかと思ったが、そう甘くはなく、『屠龍』の8割程度の推力しか出せていなかった。

 結局、その程度の推力であれば『呑龍』の推進器を改良した方が良く、この新型推進器は大型機用に利用する事になった。


 まずは2基装備した陸上機、アラドAr234C型の様な機体を試作したのだが、このような大型機を運用可能な固い地盤ばかりではなく、推力と重量の関係からかなり長い滑走路を必要としたため、運用が限定的となる。


 悩んだ末、飛行艇を試作する事にした。


 ただ、飛行艇なので、離着水時の水しぶきをどうするかが悩みどころであった。パラソル翼が妥当かとも思ったが、推進器配置を考え、ガル翼を採用する事にした。前世記憶によれば、ロシアの飛行艇に採用されている翼型らしい。更に推進器配置は翼のやや後方、Be200というジェット飛行艇やホンダジェットを参考として配置する。

 と言っても、機体サイズはPBYカタリナ程度の中型機だ。


 速度は最高で300km程度なので、飛竜と遭遇すれば逃げることは出来そうにないが、燃料を気にせず飛ぶことが出来る為、5人の乗員で上手く回せばかなり長時間の飛行が可能になる。


「コレを一機、咬刹夏守家の自家用にするのか?」


 試験機のテストが進み、量産化が決まった頃にハンナがそんな事を言った。

 なるほど、戦争も終わった今、飛行艇でノンビリ空の旅行というのもありかもしれない。


 あっという間の事であったようにも思うが、まだまだ魔道飛行機の進化から目が離せない。改良型推進器を使った『屠龍』後継機の話しもドワーフが始めている。

 さて、どのような飛行機を作り上げていこうか。まだまだ私の夢は尽きることが無い。

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