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15・見事に花が咲いた

 出撃した我々は海を渡って大陸へと至った。


 眼下に見える大きな湾を眺め、そこがキメであることを認識する。そこは思っていたよりも平地が少なく、すぐ後ろには標高がそれほどは無いが、山脈が控え、山の間を川が湾へと流れ込んでいた。

 そして、そこを飛び越え山を越えると平原が広がる。

 しかし、その平原は川が蛇行する事であちらこちらに三日月湖が出来ており、どうやらあたり一帯は湿地帯であるらしかった。


 その向こうにはテハンの名前の由来でもある大きな湖があり、湖を分水嶺としてその向こうは大河チャンコーの水系にあたるそうだ。

 テハン湖周辺が湿地帯であることで天然の防壁をなし、限られた街道を抑えさえすれば防衛は容易い。なるほど、これならば飛竜さえ居なければ、この地域が落ちることは無いだろう。


 そんな天然の要害であるテハン湖を超えるとトゥーファンの占領地となる。人は狩られ、家畜も居ない土地。


 しばらく飛んでも人の営みがあるのは、テハン湖から流れ出る川や流れ込む川に沿ったごくわずかしかない。

 これが元々の姿なのかどうかは分からない。


 さらに進むとうっそうとした草原にポツンと浮かぶ島のように集落なのか、トゥーファン軍の拠点なのか、そうしたものが所々にあり、そしてとうとう、大きな建屋を構えた施設が見えて来た。

 薔薇飛行隊がバンクしているところを見ると、その施設が飛竜の基地なのだろう。


 薔薇飛行隊が高度を落して施設へと進路をとった。


 そして、施設が慌ただしくなる所へとクラスター爆弾を投下したのだろう。連鎖的に小さな爆発が伝播するように施設周辺を覆い隠すように広がっていった。


 その煙と土埃の中を上昇してくる飛竜が居る。上空からでは逃げ出したのか出撃したのかは判然としないが、放っておくわけにもいかないので護衛である我々が見つけ次第撃墜していく。


 飛竜の多くは厩舎が破壊されたところを逃げ出した個体らしく、我々に攻撃を挑んでくることはなかった。中には術者を乗せた個体もあったが、興奮した飛竜を上手く扱えていないのか、全く相手にもならずに撃ち落としていく。

 爆弾を投下し終えた薔薇飛行隊も加り、舞い上がった飛竜を粗方掃討し終えた我々は帰途に就いた。

 改めて確認した地上では、飛竜基地を中心に周辺にも大きな被害が出ている様で、所々で出火し黒煙が立ち上る様も確認できる。攻撃成功と言って良いだろう。


 泊潟基地へと帰還した私は疲れもあってすぐに休息をとりたかった。しかし、駐機場へ着くなり整備員たちが素早く機の弾倉交換を始めている。私たち搭乗員は食事や報告の為に地上に居るが、辺りを見回すとハンナ姫は何やら整備員を指揮している。

 私は彼女へと駆け寄り、どういうことかと問いただした。


「今朝決まったであろう?効果のほどを見極めての再出撃じゃ」


 と、当然とばかりの返答である。


「しかし、飛竜の基地は破壊できたはずでは?」


 そう、今日の目標であった飛竜の基地は破壊している。


「アレごとき、数日もあれば復旧される。飛竜の数は思うより多いからのう。復旧を遅らせるには周辺拠点も潰しておかんと意味がないじゃろ」


 との事である。詳しく聞いてみると、あのポツンポツンと存在する陸上の浮島のごとき集落群はトゥーファンの拠点であるらしい。

 もともとキメより奥地は湿地が広がり、その湿地帯を利用した稲作が行われていたそうだが、当然、戦場となって農夫たちが連れ去られ、今は稲作は行われていない。その為、眼下に見えたあの深い草原の多くは、勝手に育った稲や雑草類であるらしい。


「場所が場所じゃ。容易に補給線を築けんかわりに、ああやって元集落を拠点にしておる。アレを潰せば足場の悪い一帯じゃから、一月そこらはまともに再建できんじゃろう」


 とのことだった。


 飛行場破壊は当座の行動を確保するためには有効だが、一度破壊したらそれで優勢確保が出来るほど単純ではないらしい。補給さえ工面できるならば数日中に復旧して能力を回復させてしまう。

 もし、その数日で戦局を動かす事が出来るならともかく、あくまでキメに籠るテハン軍しか頼るモノが無い。武田や雑賀は外征の意思がないのだから、いくら私たちがトゥーファンを叩いても、しょせんはキメの延命以上の事が出来ない。


「チャンコ―まで押し戻せるなら、状況も改善するんじゃがのう。腑抜け共は自分の国が攻撃されてもその事に思い至らんのでは仕方がない」


 ハンナ姫の見立てでは、今のテハンには、今日攻撃している地域を奪回するのが限界だろうという。あの基地を奪回できれば、連日の泊潟攻撃という悪夢からは脱するが、キメ地域の安定には程遠いし、姫が薔薇飛行隊を連れて凱旋などという事もまず不可能だという。

 あの基地を奪回したところで、前線は30km程度前進するだけ、キメへ飛行隊を置くにはあまりにも近すぎる距離だ。海という天然の要害あっての安全という状況は全く変わらない。


「叶わんものを気にしても仕方ない。行くぞ!」


 手早く配られたおにぎりを食い散らかしながら、ハンナ姫がそう言う。


 

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