14・そして、いよいよ
私たちが帰還の途につきしばらくすると、眼下を村上衆の船団が見えた。昼過ぎにはあの船団と会敵するのかもしれない。
そして、村上衆の上空警戒に6機の『呑龍』が飛んでいる。『屠龍』のような速度を持たない機体ではあるが、それでも飛竜を追い返す程度の事は出来る。そういう推進器へと換装したのだから。
この『呑龍』にも新型雷撃砲が搭載されているので攻撃力自体は『屠龍』と同等。
その『呑龍』が我々を発見してバンクしているので、ドワーフもその返事としてバンクを返し、基地へと向かう。
さて、少々話は巻き戻ることになるが、村上衆の軍艦にも雷撃砲が装備されている。
しかし、航空雷撃砲をただ大型化し、弩をバリスタ化したから使えるかというと、やはりそこには限界があった。
大型化した雷撃砲は、大型化した分、熱の蓄積量が多くなり、航空用にある厳しい重量制限が無いにも関わらず、発射速度の向上はおろか持続射撃時間でも彼らには不満の残る性能しか持ち得ていなかった。
元がカタパルトとして使える大型であった事から、対飛竜だけでなく、海戦においても使用を目論んでいたようなのだが、使い勝手が悪いという。
その話が私の耳に届いたのは、ちょうど後部操作員として忙しく訓練に追われている時分であった。その為、あまり真剣に取り合うことなく適当に返答をし、パッと思い浮かんだものをイラストに描いていくらか補足説明のようなメモを書き込んで、相談に来たドワーフへと渡していた。そんな事などすっかり忘れていたのだが、攻撃から数日後、海戦での勝利の報と共に、その話がもたらされた。
「いやぁ~、あの旋風砲は良いですなぁ。あのような物を発案するとは、殿下の才能の底が知れませんな」
などと誉めそやしてくるのだが、旋風砲とは何ぞや?
話を詳しく聞いて、ようやく思い至る事が出来た。
当時、相談に来たドワーフに対し、疲れていた私は艦船に搭載された対空砲というイメージから、ファランクスやゴールキーパー、AK630などのCIWSを思いうかべ、適当に砲身を束ねて回転させる図を描いて渡していたのである。
今から考えると回転動力が無い我が国の魔道具を用いて開発するなど、さすがに容易では無かっただろうと思うのだが。
そんな疑問を持っていた私は、実際に地上用として試作され、泊潟基地へと送られて来たソレを少し後に見ることになった。
「おお!ガトリングではないか!しかもアヴェンジャーか!」
などと喜ぶハンナ姫であったが、その操作方法を聞いて肩を落としていた。
「本当に前時代のガトリング砲ではないか。手回しではどう頑張っても飛行機には積めんではないか」
そう、なんと、回転動力が無いので艦載型では櫂用魔道具を流用し、地上型では重量の関係から手動が選択されている。それでも新型雷撃砲と同等の発射速度を持つのだから、悪くは無いと思う。まさか、こんな物が開発されているとは思いもしなかったが・・・・・・
そう言えば、ルーデルはA‐10サンダーボルトの開発に関与していたんだったか。なるほど、ガトリング砲が実用的であれば、対地攻撃用に積めと言いたかったのだろうが、残念ながら、サイズも手法もそうウマい話では無かった。やろうと思えば『屠龍』の主翼制御用魔道具を応用すれば出来なくはないが、現状ではA‐10の様な専用機を飛ばせるほどの航空優勢は確保できないだろうから、望み薄ではないだろうか。その気にならないように、私からその様な話を振ることはしないでおこう。
ハンナ姫はその重量や性能を聞いて、興味を失ってくれたようだった。
そして、彼女の眼はテハンに存在する飛竜の基地である。
「今日こそは憎っき飛竜どもを細切れにしてくれようぞ!」
と、威勢よく演説している。当然、攻撃の主力は薔薇飛行隊である。そして、その機体に搭載するのはクラスター爆弾だ。
クラスター爆弾というと私の記憶が少々問題を投げかけて来るが、前世の知識をまさぐって見ても、その様な忌避や嫌悪の原因がよく分からない。
クラスター禁止条約なるものが存在した様だが、だから何だというのだろうか。他にも対人地雷禁止条約なるモノもあるらしい。
だが、現在の私から見れば、これらは自己満足の類に映る。
対人地雷が問題視されたのは、大国同士の対立が緩み、その衛星国内部で内紛が頻発した事によるらしいが、そこで無秩序にばら撒かれた地雷によって庶民が被害を受けたらしい。その事から、禁止運動が起ったらしいが、それは少々偽善、欺瞞過ぎないだろうか?
輸出される対人地雷をいくら規制しても、木箱と爆薬とちょっとした起爆装置があれば即製地雷が作れてしまう。カンボジアではそのような即製地雷も多く使われていたという知識が存在する。いくら大国による地雷輸出を阻もうと、地雷は木箱と火薬と電子部品があれば作れてしまう。いや、ユーゴパルチザンならば、動物の血と布や家事道具だけで爆弾を作るそうだから、そもそも禁止条約自体、実質的な意味をなしていない大国の自己満足である。
そして、クラスターについてみると、より恣意的で二重基準な欺瞞物にしか見えない。
対人地雷禁止の機運高かりし頃に行われたユーゴ空爆などの騒ぎに、その機運を持ち込んだ結果ではなかろうか。
理屈は不発弾の多さらしいが、面制圧を行う場合に多数の爆弾、砲弾を用いれば不発も出る。工業製品なのだから一定の割合で不良品は混ざる。
これを、自己満足だからと容認するとしても、では、ウクライナ侵攻において多数が支持するウクライナへの供与容認とは、まさしく二重基準ではないか。自身の志すら貫徹できない程度の決まりごとにどれほどの意味があるのだろうか?
さらに、そのウクライナ支持によって問題視されたサーモバリックなど、ただ一時の騒ぎで、対人地雷やクラスター禁止の様な国際的な運動にすらならずに終わった。
クラスターをユーゴで大量使用したのが欧米軍であり、その後にサーモバリックの宣伝をしたのがロシアであると言えば、反戦、人権運動の人々が動かなかった動機が透けて見えはしないだろうか。
所詮はその程度の政治運動であったと、条約締結から短期間で露呈するなど、噴飯ものではないか。気付かないフリをして現状維持に励む姿は、今の私にとっては道化以外の何物でも無く見えるが。
さて、わが騎竜軍が使うクラスターは前世知識の基準から言っても、条約適合品であろう。
なにせ、起爆を行う火魔法の魔法陣はズレや誤りがあればそもそも発動しない。不発は不活性の為、条約に言う不発の定義に当てはめれば、不発は0%だ。まったく問題ない。
そもそも、ハンナ姫など、その様な条約が出来る以前の人物の記憶を持つので、全く気にもしていないであろう。
「何じゃ?妾の顔に何か着いておるか?」
「いえ?何でもありません」
「そうか。では出撃じゃ!ガーデルマン!!」




