12・まさかの魔王降臨に顔が引きつる
3号機の試験も順調に進み、新型雷撃砲を搭載した4号機も飛んだ。
3号機と4号機は新たに飛行中の動作試験に加え、その特性をどう扱えば有効な飛行法が可能かという事までやっている。
そして、3号機と4号機の射撃を見た時には、その違いに驚くしかなかった。
「なるほど、これほどの違いがあるとはな」
あれだ、3号機の射撃は手拍子、4号機の射撃は拍手と言えば分かるだろうか。初速はゆうに1000m/秒を超えているので、これまでも飛竜を倒す事は出来ていた。そもそもが弓や魔動砲で敵を狙う感覚でやっていたから不満は出ていなかったが、これを見ればその認識は大きく変わるだろう。
ただ、これ以上の発射速度向上は今の材質では限界だというし、重量的にも2門3門と積み増し出来る余裕はない。それ以前に、魔導炉の相互干渉を考えると積む場所に困るが。
そんな訳で、新型雷撃砲は制式採用となり、5号機、6号機という実証機が出来上がった。カッコよく言えば先行量産型かな?
「まあまあ、そう言うなよ。アンタも乗って動かせるとこを見せなきゃ頭として胸を張れねぇだろう?操縦しろとは言わんが、自分の発案したものを操作するくらいしてもらわねぇとな!」
という、ドワーフ達の強引な後押しによって、私は6号機の後部操作員として試験に参加する事になってしまった。
「そうじゃねぇ。速度計だけじゃなく、俺の動きに合わせてくれ!」
飛行中は操縦するドワーフからそんな怒声が飛んでくることしばし。これでも一応、前世知識のラジコン操縦で経験があるから、言っている事の理解ができたが、何も教わらずにこんなところに乗せられて、「さあ、動かせ!」と言われても、何もできないのが当たり前ではないか?やはり、ドワーフの考え方にはついて行けない。
そんな怒声が普通のコミュニケーションにまで上達した頃、ようやく外を見回す余裕が出来た。飛行機から見る咬刹夏はとても雄大で、どこまでも続く針葉樹林と遠くに見える山脈。中には煙を吹き上げしている火山もあった。
ここは極北地帯に片足を突っ込んだ気候の為、きっとこれがシベリアやアラスカの景色なんだろうなぁと、どこか場違いな感想を抱いてしまった。この世界にはシベリアやアラスカなど無いというのに・・・・・・
そんな事をしていると、墜落する『隼』を目撃した。
「飛行機が落ちたぞ!あそこだ」
そう、パイロットのドワーフへと怒鳴ると、彼も素早く発見したらしい。
「おう、見つけた。だいたいの場所は分かる。降りて知らせに行くぞ」
魔法世界だから念話だとか魔道通信機とかがあるのかと思ったら、そういう物は存在しなかったので、編隊内ではハンドサインが主流であり、地上との交信は、地上からは旗、機上からは機体をバンクさせるくらいしかない。
その為、このような詳細な情報をやり取りする場合、一度降りて直接会話しないとならないのが、最大の欠点だろうか。といっても、私にも魔道通信装置の作り方など想像すらつかない。ドワーフに作れないなら、誰にも無理だと思うが。
私たちは地上に降りるとすぐさま墜落情報を司令部へと知らせ、ドワーフが場所も説明した。なんと墜落したのがハンナ姫であるという報告を、直後に降りてきた訓練隊が報告するので司令部は大慌てで捜索隊を送り出す事態となる。
それから数時間後、あたりが暗くなるころに捜索隊が戻って来た。
どうやら墜落していたハンナ姫は無事であるらしい。自ら歩いているのが確認できた。そして、私を見るなり詰め寄ってくる。
「お主、少々話がある。人払いじゃ」
と、厳しい顔で私を見るが、さて、一体何があったのだろうか?
言われた通り、人払いをし、司令部建屋の一室へと案内した。
「アレはお主が発案し、ほぼほぼお主が設計したそうじゃな。何者じゃ?」
と、厳しい顔のまま聞いてくるので、蓬莱の第三皇子だと、そう答えた。
「そういう話ではない。『隼』というアレ、少々サイズは違うが、ミラージュⅢをモデルにしておらんか?今試験しておるモノなど、トムキャットではないか。サイズもシルエットも多少異なるが」
と、なぜかモデルとする機体を言い当てている。
「ハンナ姫、貴方は一体・・・・・・」
私はあまりの驚きにそれ以上声が出なかった。
「妾は、妾じゃよ。いや、ルーデルと言えば通じるか」
と、言うが、ルーデルはテハン王家の姓である。ルーデルで分かるかと言われても、いや、もしや?
「・・・・・・ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。この世界の人物ではありませんな」
私がそう口にすると、ニヤリと笑う。
「やはりそうか。お主もな。妾はトゥーファンの赤い旗を見ると無性に叩き潰す衝動に駆られておってな、つい先ほどまでなぜかわからなんだが、ようやく分かった。じゃが、妾はハンナ・ウルリーケじゃ。ハンスではない。お主と同じ世界の記憶を持っておるだけじゃ。お主はどうなのじゃ?」
なるほど、まさか、隣国の姫までが転生記憶持ちとは・・・・・・
「私もそれは変わりありません。上手く記憶を利用しておる迄ですよ」
私も前世記憶は有しているが、前世の自分になろうと思ってはいない。あくまで、有効な知識を利用しているだけだ。
「そうか!ならば、妾にあの機体を譲れ!」
いや、話しが全く見えないんだが?ルーデルは確か、対地攻撃機のパイロットであり、マルセイユやガーランドと言った名の知れた撃墜王とは毛色が違う人物の筈。
「心配するでない。妾は妾、ハンスでは無いと言ったはずじゃ。アカの駆る飛竜を叩きのめすことが、今世の嗜みじゃ!」
まあ、結局はただ戦いただけ。そして、その状況を有利にしようと、前世の記憶を持ち出したと。墜落理由が分かるまで、彼女を再び乗せるのはどうかと思うんだが。
それから数日。事故原因を調査した結果、当時、彼女を率いて飛行していた指導役や共に飛んでいた者たちの証言から、彼女自身の問題ではない事が分かった。その事を伝えると、すでに騎士団員のメンツから後部操作員を選んでいたのだろう。喜々として完成したばかりの8号機へと向かった。
「行くぞ!ガーデルマン!!」
あの、その人も前世記憶あったりは?あ、しない?ただ名前が同じだけと。ホッと一安心だった。