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10・お転婆姫が来襲した

 都へと帰るとすぐさま急報をもたらした当事者を訪ねることになった。


「これはこれはハンナ姫、ご機嫌麗しゅう」


「その様な格式ばった挨拶はよい。普通に話せ」


 挨拶をする私に、当事者はきつい口調でその様に告げる。


「そうですか。分かりました。しかし、また突然の来訪ですね。キメが落ちましたか?」


 普通に話せというので、私は単刀直入にそう尋ねる。


「本当に、お主は口が悪い。が、そう遠くはない話よ。我が一族でまだ生きているのは、妾と王、王妃が二人だけじゃな。他は戦場の露と消えた」


 姫はぶっきらぼうにそう告げる。悲しみを浮かべるでもなく、私に同情を誘う事もしない。素がその様な姫だとは知っているものの、その姿が逆に悲しみをもたらしてくる。


「もう、長くは持ちそうにないと?」


 私の予想が確かなら、飛竜によって泊潟湊への攻撃が始まって以後、キメに籠るテハン勢には糧秣不足が起きている事だろう。本来ならば蓄えておくべき糧秣は既に飛竜によって焼かれているのは当然として、未だ前線にはないごく一部の村などからの徴発も、村ごと飛竜に焼かれて進んでいないであろう。そうした危機的状況のところに、最後の綱であった我が国からの支援までもが、飛竜によって断ち切られてしまおうとしているのだから、士気の低下も著しいだろう。


「長く、どころか、テハンに後方などない。どこに居ようと飛竜に狙われる前線じゃ」


 という事は、最後の生き残りである姫を我が国へと逃し、何とか血統を遺そうという魂胆か?確かにそこまで追い込まれているのは誰の目にも明らかだ。今更否定しようも無いだろう。


「泊潟も前線のはずじゃが、まるで他人事なのはどういう事じゃ?戦っておるのは、お主の騎竜軍とかいう、あのケッタイな乗り物だけではないか」


 やはり、当事者からすればそのように見えるだろうな。事ここに至っても、敵の着上陸が無いから侵攻は始まっていないという認識の武田や雑賀。トゥーファンは元々内陸国の為、海軍力を有していないので、飛竜に対してようやく配備が始まった雷撃砲を撃ち上げるくらいしかする事のない村上。


「なるほど。という事は、お転婆なあなたは我が国に援軍を求めに来たにも関わらず、武田や雑賀が役に立たず。私に八つ当たりをしていると」


 そうなるのも仕方がないだろう。何せこの姫はお転婆にも程があり、貴族の子女をかき集めて騎士の真似事をやっていたという。

 それも、なまじ当人に素質があったものだから、並の騎士では敵わず。彼女に見出された優秀な子女が幾人も育っていったという。

 キメ防衛戦での活躍は、私の耳にまで入っているほどだ。


「八つ当たりなどではないわ。お主が考えたというアレ。妾に寄こせ。薔薇騎士団の生き残り40ほどを連れている。アレがそれだけあれば、飛竜を追い払う事くらいは出来るじゃろう?」


 何とも勇ましい事である。お転婆の名は伊達ではない。援軍を求めにやってきて、一目見て自らに今何が不足し、何があれば戦況に影響を与えられるか、それを僅かな情報だけで見抜いている。もし彼女にもっと権限を与えて居れば、テハンの運命は変わっていたのかもしれない。


 だが、私は悲観的な事実を彼女に伝えなければならない。


「そうできれば良いのですが、いま飛んでいる小型の機体では飛竜と同等かそれ以下の速度しか出ず。飛竜を超える速度を持つ大型の方は問題を抱え、万全の体制で戦える状態にはありません」


 それを聞いた姫は怒り出した。


「何じゃと!妾があの忌々しい飛竜を追いまわす事を阻むというのか!」


 そう叫ぶ彼女に、まずは飛行機について説明をする。


 飛行機を操縦するには、短くとも半年の基礎飛行訓練を受け、それを無事に修了した後、飛竜と相対することの出来る機体に乗り、さらに数か月にわたって機体の知識や操縦法、さらには飛竜との戦い方を習得しなければならない。どう頑張っても一年近い時間を要し、姫の要望には答えられない事を、丁寧に伝えた。


「ふん!そのような事は分かっておるわ。馬に乗れん者が馬を欲し、あくる日に乗りこなせるとは思うておらん。槍を渡され、あくる日から戦場で敵を圧倒できると思うほど増長もしておらん!半年一年は覚悟の上よ。国が呑み込まれようと、一族が滅しようと、妾の望みはあの忌々しい飛竜を追い回し、地に叩き伏せる事じゃ!国や民、敵に呑み込まれた兵や将が取り戻せんことくらい、聞き及んでおろうな?」


 なるほど、そこまでの覚悟でやって来たのならば、無下にも出来ない。そして、彼女の言わんとすることはわが国でも広まっている。


 トゥーファンは攻め込んだ土地の食料や家畜を根こそぎ奪い取り、民を奴隷として商人に売り捌き、敵軍の将兵は見世物として殺し合わさせる。前世知識でいう所のエスニック・クレンジングとやらを攻め取った各地で行い、食い詰めた自民族を各地へと送り込み、新たに入植を行うという。


 トゥーファンは元々高山地方の部族であったらしいが、魔物使い(テイマー)術に優れ、飛竜や大型の魔獣を従えた事で領地を拡げ、軍事には飛竜を、耕作には大型四足獣を使役する事で大幅に領地と人口を増やしていったが、増えすぎた人口を養う事が難しくなり、大河を下り、流域全体を支配し、余勢をかってテハンにまで攻め入ったという。運が良いのか悪いのか、テハンは大人数を養うに足る水田に適したなだらかな平原を多く領していた。


 前世知識へと強引に当てはめるならば、三国志を思い浮かべると良いかもしれない。大凡蜀の位置にあるトゥーファンは、飛竜や魔獣を言う豊富な戦力でもって黄河を駆け下り、魏を滅ぼし、広大な麦作地帯を手に入れ、それだけでは飽き足らず、呉(地形が違うこの世界では、地球の長江に当たる河川は広州へと流れる)を目指した。テハンは呉。キメは厦門とでも考えれば良いだろうか。

 突島は台湾であり、泊潟は高雄と置き換えると理解しやすい。もちろん、地形は全く違うので、地球の地形で考えると大きな間違いを起こすが。


「お覚悟、深く感銘いたしました」


 そう言って頭を下げると、彼女は一度不機嫌そうな声を漏らすが、願いが叶うと知り、嬉しそうでもあった。


「何を・・・・・・、そうか!であれば、我が薔薇騎士団はお主の配下となろうぞ!妾の身もその方が好きにすると良い!」


 いや、何だって?

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