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1・目覚めたそこは異世界だった

 縁側に座って景色を眺める。


 テレビでは時折田舎への移住で楽しい老後を送り、「第二の人生」などと笑顔で語る番組を目にするが、皆が皆そんな生活を営んでいる訳ではない。

 田舎への移住は様々な困難もあるし、近所付き合いの問題もある。


 私などは実家へのUターンなのでそこまで苦労がある訳ではない。近所は顔見知りであり戻って来たかと温かく迎え入れてもらっている。ただ、元が都会育ちの連れ添いは田舎暮らしに反対であった。私の親と一応仲良くはやっていたが、家から最寄りのスーパーまで30分。道は選出国会議員の力や有力地方政治家によって程よく整備されており、そこまで困るほどの事は無い。

 そうはいっても都会の生活と比較すればとても不便であり、私がやりたかった農業や村おこしなどと言った仕事は、彼女には全く理解されなかった。

 元の生活は一等地とまではいかないが、比較的裕福な層が住む住宅街であり、少し歩けば何でも揃った。それと比べてしまうと、新聞ですら朝届くとは限らない田舎の生活は不便だろう。今では携帯電話やインターネットによって、どこに居ても誰とでも通話ができ、同じものを楽しみ、買い物が出来ると言っても、決まった日に有名な喫茶やカフェへ集まるといった彼女のスタイルからは程遠い。

 外向けには格好をつけて「掛け持ち生活」などと言っているが、実のところは別居である。死別離婚だか葬式離婚などと言う話も聞くが、私もそうなるのかもしれない。


 そうはいっても、やりたかったことをひとつやり遂げた。もはや少年や青年とは言えない歳だが、ここでは未だ若手の一人である。その「若い力」と発想力による村おこしをやり遂げた。どこまでこの活動を広げられるかは分からないが、とにかく初回のイベントを終え、今後に期待が持てたのは大きい。ホッと息を吐いて目を閉じる。




「殿下!殿下!」


 何やら叫ぶ声が聞こえ、私は目を開けた。


 するとそこは自宅の縁側では無かった。


「ここは?」


 建物の中であるらしく、私はそこに寝かされていたらしい。そして、周りには見知らぬ人々が多数居る。


「おお、気が付かれましたか!殿下」


 私とそう歳の違わなさそうな初老の人物がデンカと語りかけてくる。デンカとは?もちろん、電化などと人に言う事は無いと思う。デンカと呼称する場合、それはほぼ間違いなく「殿下」の事であろう。誰もが知る様に、それは王族に対する呼称であった筈だ。私はただの一般人であり、皇族などではないし、もちろん、演劇の才など持ち合わせてはいない為、ドラマや演劇に出演した事も応募した事も無い。ましてやそう整った容姿という訳でもないので、スカウトなどという者に声を掛けられることも無かった。


「どうされました?」


 その人物は私が戸惑いの表情を見せている事に気が付いたのだろう、怪訝な顔をして問うてきた。


「ああ、私は一体どうしたのでしょうか?それに、ここは?」


 思った事を口にすると、驚愕したように後退し、周りの者に何やら問い質している。さて、どうした物か。ここが一体どこで、私はどうやってこの場所へやって来たのか、まるで思い出せ・・・・・・


 その時、急に多くの情報が頭に流れ込んでくる感覚に襲われた。痛い訳ではない。ただ茫然と、流れ込んでくる情報に翻弄されていた。


「殿下?」


 再度そう問われた時、自分が何者であるかを「思い出し」た。


「驚かせてすまなかった。少々混乱していたようだ」


 思い出すとそれは何とも不思議な感覚だった。私は蓬莱皇国の第三皇子である。まさか、その前世がどこか違う世界の平民であったとは。

 さて、その様な回想よりも、今は目の前の現実についてだな。


 蓬莱は島国の為、常識的には外国からの侵攻を受けにくい。これまでも海によって諸外国の侵攻は妨げられてきたのだ。


 しかし、今はそれが破られている。海の向こうの大陸では飛竜を操るトゥーファンという国が台頭し、瞬く間に周辺国を呑み込んだ。そして、我が国を構成する突島(つしま)へと迫っている。今のところは対岸となるテハンを攻略中であり、テハンの抵抗もあって直接飛竜が我が国へ飛んでくる状況にはない。


 が、それもいつまで持つか分からない事から、我が国では対トゥーファン対策を練っているのだが、その進捗は芳しくない。


 まず、従来であれば船で押し寄せる敵を水際で阻止すればそれで良かった。

 水際阻止のための防塁などを沿岸に築き、拠点となる城を設ければ良い。突島においてテハンからの上陸を意図した場合、泊潟以外に好適地が無いため、ここを目指すことになるので守る方としても対処がしやすい。


 ただし、これは飛竜が居ない場合の話であって、飛竜による攻撃を前提にするとすべてが狂ってしまう事になる。

 空からは海上など丸見えなのだから、我が方が船団を隠し、上陸中に海から奇襲攻撃するという従来の戦い方が出来ない可能性があり、屋根がない防塁や城内への攻撃も懸念された。


 飛竜による攻撃がどの程度の規模になるかは、我々には全く情報が無く、テハンから伝わる話がどこまで正確かも判断しかねていた。

 そんな時に、私は飛行機械が自在に飛び交う世界の知識を得たわけだ。これを天啓と言わずしてなんと呼ぼうか。

 前世の私はそこまで意識をしていなかったらしい。しかし、今の私に言わせれば、何とももったいない話だと思う。それに何より、前世の国があまりにも平和ボケ過ぎるように思えてならない。


 私の前世知識が確かなら、飛竜というのはなにも攻城にのみ役立つわけではない。その様な事は片手間の余技であろう。

 何よりも大きな事象は、あまねく情報を集める偵察であり、空が戦場になる以前には考えられなかった敵後方への攻撃だ。


 テハンからの話をその知識に当てはめてみれば、まずは籠城軍を助ける援軍を飛竜が見張り、援軍が擁する輜重を優先して攻撃しているという事が伺える。

 なにせ、援軍は幾らでも出せるが、なぜか戦地に着いた頃には食糧不足に陥ると言っているので、間違いなくそういう事だ。

 明らかに、従来の戦い方が通用しなくなっている。


 従来の戦いであれば、決戦の地に集う敵味方によって勝敗が決した。


 が、飛竜を要するトゥーファンはその様な戦い方をしていない。相手が決戦に挑む戦力を整えること自体を妨害し、明らかに敵を弱らせてから叩きのめしている。

 何をやっているかは明らかだ。補給線を破壊し、援軍の進撃路を破壊することで常に自分たちが有利な状況を作り出している。

 これを前世の言葉で航空阻止作戦というらしいが、それが何かを前世の私は理解していなかったようだ。だからこそ、日本という国ではおかしな論理がまかり通っていたのであろう。

 決戦で勝敗が決する時代ではない事を理解せず、相手に優勢権を与えない為、飛行機械やそれを阻止する飛槍を掻い潜って敵の補給線や輜重を叩くことを理解できない。なんとも嘆かわしい。


 いや、他人事のように嘆かわしいで済ませてはいけない。いま、我が国が決戦思想のまま、飛竜を要するトゥーファンと事を構えようとしているのだから。


 


 

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