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【コミカライズ連載中】二人で一人、開始します!【完結済】  作者: みなと
第三章【さようならの、その後は】

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さて行きましょうかね

 よっこいせ、と声をかけてからまとめた荷物をキャロットに括りつける。

 荷物の中身はヴィオレッタのものだが、食料品が中心。

 水に関しては、森の中に何か所か湧き水がある、とアリシエルから教えてもらった。ついでに地図に印もつけてもらったし、明日香もきっちり記憶しているから、仮に地図が破損したとしても明日香との共有作業でどうにかなる。

 最初から明日香に共有してもらえれば良いが、それでは意味がない。

 明日香は、この結界の修復が完了すれば元の世界に帰るから、いつまでも明日香にばかり頼っていてはいけない、とヴィオレッタもアリシエルも考えたから、ヴィオレッタ自身も行動を起こさないといけないのだ。


「アスカさん、荷物ってこれくらいですっけ」

『そうそう。あとはねー』


『はいこれぇ』


 ひょっこりと現れたファイが持っていたそこそこ大きな、大人の拳二つ分くらいはある袋。いったいこれどうやって持ってきたんだろう、と思って聞いたとしても恐らく秘密、としか返ってこないだろう。


『何ですコレ?』

『ちょっとしたアイテムぅ。アリシエルが作ったんだけど……』


 明日香が袋を受け取って中身を確認すれば、出てきたのは腕輪。

 ヴィオレッタと明日香が顔を見合わせて、とりあえず……と受け取れば腕輪についていた石が光り輝いて透明だったそれがヴィオレッタの瞳の色へと変化した。


「え、え!?」

「ああよかった、ちゃんと反応したみたいね!」

「アリシエルさん、そうじゃなくて」

「それね、魔よけとか色々効果を込めているんだけど……一番は不審者対策なの」

「……ん?」

『へ? 不審者? 封印の要石のある森って、変質者でも出るんですか?』


 何だ何だ、と明日香は興味津々でふよふよと飛んでくると、ヴィオレッタの掌の上にある腕輪を見つめた。


『ヴィオちゃん、それ腕にはめてみたら?』

「えと……」


 こうかな、と呟いてからヴィオレッタは明日香に言われた通りに腕に装着した、途端にゆるゆるだった腕輪が自動でサイズ変更され、ヴィオレッタの腕にピッタリになった。

 きつくもなく、緩すぎもなく、まさに『ピッタリ』のサイズ。

 しかしこれがどうして不審者対策なのだろうか、とヴィオレッタも明日香も首を傾げていたが、にこにこと笑っているアリシエル、ご機嫌なファイの言葉を聞いて思わず硬直してしまう。


「ヴィオレッタが嫌だ、と感じるようなことがあれば、そこから魔法が発動されるから」

『ヴィオレッタの感情と、魔力ってなんかリンクしてるっぽいなぁ、って思ったからちょっと工夫したぁ』


「え……?」

『どうやってあの短時間で作ったの……』


 ヴィオレッタと明日香が知る限り、アリシエルは何かしらの作業をしていた様子はなかった。ヴィオレッタはとても早くに就寝したため、その後か? というくらいしか思いつかない。


「ヴィオレッタに色々してもらったじゃない?」

「色々、って」


 魔法として披露したのは、光の玉を生み出しただけ。

 だがしかし、アリシエルが張り巡らせていた結界を破壊した時の力(明日香がノリノリだったことを差し引いてはいる)、ヴィオレッタが生み出した光の玉の力の源、ヴィオレッタや明日香からたっぷりと聞かされた王宮での扱いの酷さの数々に、爆発してリカルドを吹っ飛ばしたりなどした話など。

 諸々を加味して考え、恐らくは……と想像した結果の、今回の魔道具の作成。


 普通に作成してはもっと日数がかかったのだが、ちょうど持っていた大きめの水晶に魔力操作を用いてから、ちょっとだけアリシエルの力を込めて(本人曰く)ぱぱっと作成した、ということらしい。


「薬師として過ごしているうちに、近くの村の人から相談を受けて宝石に力を込めて、お守り作成をしてたんだけど、いやー……まさかこんなところで役に立つなんて思わなかったわ」

『それって簡単なんです?』

「時間はあったし、あれこれ研究しているうちに色々できるようになって……」


 その『色々』の幅がとてつもなく広すぎて、ヴィオレッタは頭が付いていっていない。

 何度も、何年も訓練が必要だから、というのは分かっている。分かっているのだが……。


『……すごい、って言うしかないんですけど……』

「そう?」

『時間は、いっぱいあったしぃ、練習もできたし付与に適した魔力質だったんだよねぇ、アリシエルって』

『(情報量がすごい)』


 王宮に戻ってあれこれと利用されるくらいなら、一人で何でもどうにかしてみせる。

 アリシエルがそう決意するにはさほど時間もかからなかったし、アリシエル自身の存在が『王家の恥』として徹底的に秘匿されていたから、顔も広まっていなかったのが功を奏したのかもしれない。


 迷いの森、と周囲の人が避けていたこの場所を定住の地としたのも、万が一、王家から追っ手を差し向けられてしまった時のため。

 迷いの森、という大げさな名前も、単に入り組んでいることとあまりに景色が変わらなさ過ぎて、迷ってしまうことが名前の由来。普段はアリシエルが住んでいるところまで一直線に来れるようにと道案内の魔法をかけているが、あちこちに探査魔法をかけまくって、普段来ない人が来ようとすると迷ってしまうような結界を張り巡らせている。

 この結界をぶっ壊したのが明日香、ということである。


『あの、それって訓練すればヴィオちゃんもできるようになりますか?』

「そうねぇ……多分できると思うけど、私と全く同じ、というわけにはいかないと思うの。向き不向き、ってあると思うし、魔力の質も全く異なっているし、何より魔力運用の仕方が違うし」

「じゃあ、ここに帰ってきたらそういう練習をしても……?」

「ええ、勿論」


 アリシエルの快諾に、ヴィオレッタは表情をぱっと明るくする。


 自分が何を言っても、どう行動しても、否定されてきたあの頃とは全く違うんだ。

 そう思えることが、ヴィオレッタに力をくれていた。


 元々能力値自体はヴィオレッタは、とても高い。

 結界の修復さえ終わってしまえば、普通の生活がやってくる。


 何もかもしがらみから解放され、自分(ヴィオレッタ)を利用するだけだと考えている人がいない中で、王家を捨てて『ヴィオレッタ』として生きていくんだ。


「……楽しみです」

「ええ。無理はせず、でも……早く帰っていらっしゃい、ヴィオレッタ」

「はい!」


『ヴィオちゃん、忘れものない?』

「……多分?」

『なかったらどうにかしよっか』

「はーい」


 やっぱりこの二人、息ぴったりだな、とアリシエルとファイは微笑ましげに見ている。ちなみにファイの定位置はアリシエルの肩らしい。

 ちまちまと動いても落ちないように気を付けつつ、小さい手を振ってくれている。


『ヴィオレッタ、いってらっしゃぁい』

「気を付けて」


 見送ってくれている一人と一匹に手を振って、ヴィオレッタたちはいざ修復、と出発した。

 ちなみに、キャロットもしっかり休息出来たらしく、とってもご機嫌だ。足取り軽く出発し、ふと背後を見たら、もう既にアリシエルの住んでいた小屋は見えなくなっている。


「……もう見えない……」

『っていうか、物凄い修復速度なんじゃない?』

「結界の、ですか?」

『そうそう』


 相変わらず明日香は浮いて移動している。

 アリシエルも王家と縁を切っている、ということは関わりたくない、ということ。もし仮にアリシエルの住んでいる場所を王家の誰かが見つけたとて、彼女を連れ戻せないようにありとあらゆる手を尽くしているだろう。

 ファイとアリシエルは、ただ、静かに暮らしたいだけなのだから。


「そういえば、結局どんなおまじない? の効果なのか、聞けませんでした」

『そのブレスレット?』

「はい。魔法を込めている気配的なものもなくて……何なんでしょうか」

『護身用的な感じかな、ほら、不審者対策、って言ってたし』

「でもまだあるんですよ」

『何が?』

「さっきファイ様からもらった袋の中」


 どれどれ……と、明日香がヴィオレッタの手元を覗き込んだ。

 キャロットの乗る人ファーストな歩みのおかげで、手綱から手を離しても問題ないという芸当を披露出来ているヴィオレッタ。

 確かにキャロットのおかげかもしれないが、この子……実は体幹めっちゃすごいよね、と明日香がこっそり感動していたことは、ヴィオレッタは知らない。


『ありゃ』

「ね?」


 お守りの詰め合わせ、という感じでみっちり詰まった袋の中身。

 ほとんどが恐らく何らかの力を宿しているんだろうな、というお守りのようなものばかり。


「王都で流行っているものもあるんですが……アリシエルさん、面白半分でこれ作った、っていうのもすごいですよね」

『ちょっと作った、っていうレベルではないよね。しかもヴィオちゃんのつけてる腕輪、ヴィオちゃんの感情に反応して作動するって、ちょっとチート』

「ちーと……?」

『反則的、みたいな』


 あっはっは、と明日香が笑いながら解説していると、森の雰囲気が変わり、ようやく『迷い』と言われる部分を抜けたんだな、と想像できた、その時だった。


「見つけましたぞ、姫様!!」


「……え?」


 嫌な声が、聞こえたとヴィオレッタが思ったその瞬間。


「うわあああああああああ!」


 腕輪が反応して、その声の主を吹っ飛ばし、木にぶつけてしまったのだ。


『……過保護』

「うん……」


 確かに、ヴィオレッタは警戒した、のだが。

 まさかここまでになるなんて、と明日香もヴィオレッタも揃って思い、目の前にいる恐らく王家からの追っ手らしき人たちを見て、二人揃って顔を歪めたのだった。

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