表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ連載中】二人で一人、開始します!【完結済】  作者: みなと
第三章【さようならの、その後は】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/64

新しい朝

「んむ……」


 もそ、とヴィオレッタは寝返りをうつ。

 ふかふかとした柔らかな掛け布団の手触りはとてもよく、恐らくしっかりと日に干されていたのかとても良い香りがしている。

 更には、寝返りを打つたびにふわりと香る、恐らくハーブだろうか。優しい、リラックス出来る香りがふわふわと漂っている。


『ラベンダーかな、これ』


 くん、と明日香は鼻を鳴らしてその匂いを堪能し、いつ頃ヴィオレッタを起こしたら良いものか、と悩んでいた。

 王宮にいた頃は難しい顔で眠っていたヴィオレッタだったが、今は何とも可愛らしい年相応の顔で、ついでに眉間のシワなど何一つなくすよすよと規則正しい寝息を立てているものだから、起こすのがもったいない。それくらいに爆睡しているのだ。


『私は寝なくても平気だし、何かあったらヴィオちゃんを守れるように待機もできるんだけど……こんなに気持ちよさそうに寝てるヴィオちゃんを起こすの、忍びないなぁ……』

「……んへ……」


 心底幸せそうに微笑んでむにゃむにゃ何かを言っているようなヴィオレッタの眠りを邪魔なんかしたくない、だがしかし時間を推測するに恐らくだいぶいい時間なのではなかろうか。

 明日香の元いた世界の時間でいうところの正午くらいか?と思っていたら、控えめにドアがノックされた。


「……ヴィオレッタ……起きている?」

『お』


 その声は、と明日香がふよふよと移動して中から声をかける。


『アリシエルさん、おはようございます!︎︎ちょっと私開けられないので……』

「あ、そうね。失礼しますわ……って、あらあら」

『おはようございます?』

「もうお昼過ぎ……だけど、よっぽど疲れてたのかしら」

『安心できたんだと思いますよ』

「安心……?」

『あんなに気持ちよさそうに寝てるヴィオちゃん、初めて見ました』

「……まぁ……」


 そうなの、と痛々しげに呟いたアリシエルは、すよすよ寝ているヴィオレッタの元に歩いていき、規則正しい寝息を立てているヴィオレッタの体を布団の上からぽんぽんと叩く。


「ヴィオレッタ」

「…………ん」

「ヴィオレッタ、起きて頂戴。ヴィオレッタ」


 ぽんぽん、と叩いているアリシエルだったが、わし、と布団を掴んで毛布を思いっきり引きはがした。


「起きなさいな!!」

「わぁ!?」

『遅刻しそうな子供に対してお母さんがやるやつだ!』

『チコク……?』


 はて、とファイが首を傾げつつ明日香に問いかけると、明日香は『こっちの世界であることなんですよねー』と返してあはは、と笑った。

 マンガの中ではよく見た光景だったが、まさか目の前で見れるなんて……! と別の意味で感動している明日香。

 一体何が何なんだ、と不思議そうな表情(見た目に変化があるのか謎だが)のファイ、寝ぼけてぽやぽやしているヴィオレッタと、ようやく起きた……と安堵しているアリシエル、という謎の構図となっている。


「あれ……朝?」

「はいはい、おはようヴィオレッタ」

「……朝……っていうか……お昼……過ぎて、る……?」


 寝ぼけ眼で問いかけているヴィオレッタと、うん、と頷くアリシエル。ようやく意識が覚醒してきたらしいヴィオレッタは、ハッと気づいて慌てて明日香の方を見ると、肩にファイを乗せた状態でやっほー、と笑顔で手を振っている姿が目に入った。


「アスカさん!! 何で起こしてくれなかったんですかー!!」

『いやぁ、とっても気持ちよさそうに寝てたから……つい?』


 笑いながら返答した明日香だったが、おろおろとしているヴィオレッタを見ていると申し訳なく感じたのか、アリシエルのところに飛んで行ってから頭を下げた。


『すみません、なかなか起こせなくて』

「まぁ……あまりにぐっすり寝ている、っていう理由があったなら、仕方ないけれど……ヴィオレッタ、あなた王宮でどれだけ神経すり減らしていたの?」

「どれだけ、って……ええと……」


 ヴィオレッタは今までのことを思い出すと、思わず苦虫を噛み潰したような微妙な顔になってしまった。それを見たアリシエルとファイはすぐに察したのか、困ったような表情を浮かべた。


「……まぁ、何せ純血王家の人間の扱いはひどいというか……酷すぎる、というか」

『ヴィオちゃんの話を聞いた感じと、私が見た感じは……最悪、っていうか、人でなしっていうか……』

『お察し、なのぉ』


 ファイは明日香の肩からひょいと飛び降りて、ヴィオレッタの頭に飛び乗ってよしよしと頭を撫でる。

 あんなに最悪な環境で過ごしてきたのであれば、安らげる場所ができたのであれば思いきり眠れるようになったから爆睡するのも納得。……ちょっと寝すぎた感はあるが。


「うう……すみませんでした……」

「とりあえず、今日はそろそろ起きましょうね。ご飯、作るから顔も洗っていらっしゃいな」

「は、はい」


 ベッドから降りて顔を洗いに洗面所に向かったヴィオレッタを追いかける明日香。

 ふよふよと飛びながら家の間取りを確認し、ほっとする。ここなら、ヴィオレッタが一緒に住んでも問題ない間取りではある。十分な広さがあるならとても良い……と思いつつ、ふと外に視線をやると花壇のような小さな畑のような何かが見えた。


「アスカさん?」

『いや、この家って色々あるんだなぁ……って思って」

「色々?」

『家の広さもそうだけど、外に畑っぽいものもあるし、あそこで薬草栽培とかしてるのかなー、とか。色々思うわけなのよ』

「ああ、なるほど」


 前日に案内されていた洗面所に到着し、顔を洗ってすっきりとしたヴィオレッタは明日香にぺこりと頭を下げた。


「おはようございます、アスカさん」

『おはよう、ヴィオちゃん』

「久しぶりにあれだけ寝まして……」

『だろうねぇ……』


 よしよしとヴィオレッタの頭を撫でてから、明日香は微笑ましそうに表情を緩める、

 そして、ヴィオレッタの背中を押してから居間に向かおうと催促した。


『ヴィオちゃん、ご飯できてるって言われてるし行こ?』

「はい!」


 ファイからちょうど『ごはんできたのぉ』と、明日香あてに所謂テレパシーのようなものが飛んできた。聖女、聖獣という存在の便利なスキルなんだ、と思って明日香は細かいことを気にしないことにしつつ、一緒に食事が用意されている居間へと向かう。

 テーブルの上には出来立ての野菜のスープ、綺麗な形のオムレツ、焼き立てであろうパン、湯気を立てている紅茶、新鮮なフルーツが並んでいる。


「わぁ……!」

「さ、座って」

『ヴィオちゃん背後を失礼~』

「へ?」


 ひょいと明日香はヴィオレッタの背後に回って、どこからともなく取り出したシュシュでヴィオレッタの髪を緩くまとめる。


「ありがとうございます、アスカさん」

『ごはん食べるんだし、髪が邪魔になっちゃうといけないからね~』


 微笑んだヴィオレッタは朝食を食べ始め、明日香はファイと何やらじゃれ始めた。

 じゃれ始めた、というのは周りから見たときの比喩表現ではあるが、これから行う結界修復についての知識を共有していた。


『ほう……これが要石』

『そうそう~。多分、今回はここに亀裂が入っていると思うんだよねぇ』

『亀裂……?』

『結界にぃ、亀裂あるでしょう?』


 あ、と明日香は声を上げる。

 確かに王宮から見たとき、空に亀裂が大きく入っていたのを見た。つまりあれが結界の亀裂であって、イコール、要石の亀裂、ということなのだろう。


『それを直せば、結界は直るの?』

『うん』

『直す、って言ってもなぁ……』

『だいじょぶ、いけるぅ』


 何やら自信満々なファイを見ていると、問題なさそうな気がしている明日香。ファイとアリシエルもかつて行ったであろう結界修復なのだろうし、先輩の言うことは素直に聞くべし、である。


『やり方って……』

『んとねぇ』


 ファイが、ぽてぽてと歩いてきて距離を縮め、明日香の膝によっこらせ、とよじ登ってからにへ、と微笑んだ。


『それはねぇ、聖女の力を引き出した完全体になればぁ、自然とできるぅ』


 完全体って何だ、少年漫画のヒーローか何かかな……と入院中に読んでいた愛読書のマンガを思い出しつつ、明日香は自身満々なファイをちょっとだけ引きつつ見つめる明日香なのであった。

ねぼすけヴィオレッタ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ