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【コミカライズ連載中】二人で一人、開始します!【完結済】  作者: みなと
第三章【さようならの、その後は】

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自分の力

「さて、ヴィオレッタ」

「はい」


 お茶を飲んでひと息ついて、アリシエルとヴィオレッタは向き合った。

 明日香はファイときゃっきゃと楽しそうに遊んでおり、ただ見ていると女の子と小型動物のじゃれ合いである。

 アスカさん楽しそう……、とほっこりしているヴィオレッタだったが、アリシエルとの話がまずは最優先なのだからとこほん、と一度咳払いをした。


「私の能力に、ついて……ですよね」

「そう。これはあなただけじゃなくて純血王家の人間全体に言えることなんだけど」


 そう前置きして、アリシエルは手のひらの上に、ぽっ、と小さな光の玉を出現させる。

 最も初歩的な光魔法、ただ、光源を生み出して周りを明るくする、というもの。


「ヴィオレッタ、魔力の調整をしながら同じ大きさでコレを生み出してみて」

「え……」


 どうやって、やればいいんだろう。

 それがまずヴィオレッタの率直な思いだった。


「大丈夫よ、何かあっても私が助けるから」


 ヴィオレッタは、アリシエルのその言葉に頷き、今まで明日香がそうしていたように、自分が、自分の中の力を使うイメージを大きく膨らませ、慎重に魔力を手のひらの上に集めていく。


「……光よ、集え」


 イメージを具現化するように呟かれた呪文のような言葉をきっかけに、ぽわ、と淡い光の玉がヴィオレッタの手のひらの上に現れた。


「……!?」

『ヴィオちゃん!!』


 それを見た明日香はぱっと顔を輝かせるが、ヴィオレッタの表情を見て体が止まる。

 あの魔法、アリシエルの言葉から推測するに恐らくかなりの初期魔法なのだろう。だが、ヴィオレッタは歯を食いしばるように必死に魔力を制御しているらしい雰囲気なのだ。


『……え?』

「……ヴィオレッタ、魔法終了。ゆっくり息を吐いて、光の玉を消してくれる?」

「どう、やっ、て?」

「ゆっくり深呼吸をしなさい、それから明かりを消すイメージを」

「消す……」


 言われた通りに、息を吸って、吐いて。

 余計な力を込めないようにしながら、ヴィオレッタは慎重に生み出した光の玉をすっと消したのだが、途端にどっと汗が吹き出し呼吸が荒くなっているではないか。


『ちょ、ヴィオちゃん! ヴィオちゃん、大丈夫!?』

「……っ、だいじょ、ぶ、です……」


 ぜぇはぁと荒い呼吸を繰り返しているヴィオレッタの背をさすり、どうしたものかとアリシエルに視線を向けた明日香だったが、『やっぱり』と呟いた彼女を不思議そうに見た。


『あの、やっぱり、って?』

「……まず、状況の解説から参りますわね」


 冷静に、アリシエルはヴィオレッタに温かなココアをいれてから語り始めた。


 曰く、純血王家の人間として『選ばれた』時点で、本来持っている魔力の上に、純血王家の人間が持つ力が蓋をする。

 そして、その力は結界の修復のために何より欠かすことのできない力ではあるが、本来の魔力をまるで無かったかのように塞いでしまうことで、魔力の測定を行うと『魔力ナシ』と判定がされてしまう。

 だが、純血王家の『力』を全て使い切った時からが、その人のやり直しが開始される、というのだ。


「やり直し……?」


 ココアの入ったカップを両手で持ち、ヴィオレッタは視線をココアに移した。


「ええ、やり直しよ」


 繰り返すことでヴィオレッタの言葉を肯定するように、アリシエルは頷いた。そして更に言葉を続けていく。


「その蓋が取れた場合、私たちはようやく解放される、といっても過言ではないわ。現に……ほんの少しだけ、あなたは本来の魔力運用が出来たでしょう?」

「で、でもそれはアスカさんが力を引き出してくれたからではないのですか!?」

「半分正解で、半分ハズレ」

「……え?」


 アリシエルは自分のカップに薬草茶を注ぎ、一口飲んで更に続ける。


「聖女様を召喚したことによって、第一段階は完了している。今、あなたの本来持っている力を聖女様が代わりに使っている、だからあなたは魔力の使い方のイメージが割と容易だった。……どう?」

「……あ」


 思い当たるところは、ある。

 魔力がない、でもヴィオレッタ自身は魔法の論理は学校でしっかりと学んでいる。理屈は分かっていても、『では自分の中にある魔力をコントロールして、実際に魔法を発動させましょう』と言われたところで、蓋をされて無いものになっている魔力を運用しようとしたところで、できるわけがなかった。

 だが、明日香がヴィオレッタといることで、そして明日香がヴィオレッタの代わりに魔法を使うことで、ヴィオレッタの中のイメージが膨らんでいたのは事実。加えて、『あぁ、魔力が体の中を駆け巡るってこういうことなんだ』と本能で理解していた。

 明日香とヴィオレッタの親和性がとんでもなく高いことで、発揮できた能力が実は歴代最強レベルだ、ということに本人たちは全く気付いていない。


『……アスカとヴィオレッタの親和性、とんでもないのぉ』

『ファイ?』

『ボクとアリシエルの親和性も高い方、でもぉ』

『でも?』

『すごい。ヴィオレッタ、元々の潜在能力、っていうか本来の力、すっごい』


 小さな手足をぴよぴよと動かしているファイが可愛らしく、あらまぁ、と明日香もヴィオレッタもほっこりして見つめているが、『真面目に聞いてぇ』と言われて二人揃って咳払いをする。

 いやだって可愛いし、とうっかり言ってしまうとファイが機嫌を損ねてしまうのが分かるので、二人揃ってごめんなさい、と素直に謝罪した。


「ファイは見た目がとっても愛らしいから」

『アリシエルまで!』


 きっと怒っているだろうけれど、やっぱりだめだ、見た目がめっちゃ可愛い。明日香は思いながらも『言ったらとっても叱られる』と心の中で呟いたものだから、ヴィオレッタには筒抜けだった。


「(アスカさんんんん!!)」

『(ごめんヴィオちゃんうっかり)』


『この二人、息ぴったりすぎない?』

「それだけ絆が強いのよ。……ヴィオレッタは、特にひどい境遇だったようだから」

『あぁ……』


 アリシエルもファイと初めて会った時はこうだったなぁ……とほっこりしてしまい、ファイから『アリシエル!』と叱られてしまっている。

 だがしかし、ふとヴィオレッタはファイの言った『ヴィオレッタ、元々の潜在能力、っていうか本来の力、すっごい』が気になっていた。


「あのぉ……ファイ様」

『なぁにぃ?』

「私の潜在能力って、何ですか?」

『抑え込まれてる能力値の高さ、すっごいよぉ?』

「え……」

『そういえばヴィオちゃん、ここに来るときさ、不思議な力使ったの覚えてない?』


 そんなことしたのだろうか、という顔を見て、明日香はおかしいな、と首を傾げている。

 誰かが来る、と呟いたときのヴィオレッタの目の色の変化、まとう雰囲気の神々しさ、それから引き寄せられるように結界に近付いて破壊したヴィオレッタの力。


「私、そんなことしました……?」

『してた』


 その話を聞いたアリシエルは、口に手をあてた。まさかそんなにも、と小さく呟くもすぐさま理由を推測にかかった。

 恐らくではあるが、生まれ育った環境のせいもあるかもしれないが、ヴィオレッタは本質を見抜く力がとてつもなく秀でている。

 だから、最後の結界を割ろうとしたあの瞬間のヴィオレッタの神々しさは、見事、と言わざるを得なかったし、あれがなければこうしてアリシエルとの会話もできていなかっただろうと思う。


「その目は、きっと貴女の武器にもなり得る。だから……今、力が使えなくても良いの。なすべきことをすれば、あなたはとっても強くなるわ。心も、そして……魔力だって」

「アリシエル様……!」


 きっと、今王宮で嘆いているだけの人は知らないだろう。

 今、この瞬間、ヴィオレッタがアリシエルの言葉に、どれだけ救われているか、なんて。

 ヴィオレッタの目から、ぽろぽろと涙が零れてくる。泣いているヴィオレッタを慰めるために、明日香はすっと近寄り、寄り添うように傍らに控えた。


『……大丈夫だよ。私もいるし…だから今は、やるべきことに備えよう。アリシエル様、お泊りしてもいいですか!』

「あら、決定事項として語っていらっしゃるのね」

『お断りはされると思ってません!』


 それも計算済みだったか、とアリシエルは微笑んで手をぱん!と鳴らす。そうすると、色とりどりの照明器具がぱっと現れた。

 次にアリシエルは明日香の方を向いて、にこりと微笑んだ。


「アスカ様、対価はヴィオレッタの色々なことをおしえてくださいませ。これまで連絡も取れず、この子を支えられず、私とってもふがいないと思っておりますの」


 どことなく迫力のある笑みに、ぴし、と硬直してしまったのは、こっそりとここだけのお話なのである。

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