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【コミカライズ連載中】二人で一人、開始します!【完結済】  作者: みなと
第三章【さようならの、その後は】

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平和な道のり

何となくほっこりな日常会話

 ゆらりゆらりとキャロットの背中で揺られながら、ヴィオレッタは思わずふあ、と欠伸を零した。


『あらま、おっきい口開けて』

「……ふぁ………………んぐ、すみません、平和で良いなぁ……って思っちゃって」


 どっちの意味で、とは明日香は聞かない。

 きっとヴィオレッタのメンタル的なものがとても平和だから嬉しいのだろう、と推測した。

 王家から追っ手が来るかと警戒したものの、この一週間はヴィオレッタの結界探知能力の示すままにキャロットに乗って移動をしている。

 ちょうどいい速度と、心地のいい揺れ。

 明日香から『ヴィオちゃんのお尻へのダメージが心配だから、装具は着けようね!!』ととんでもない勢いで迫られたため、今のキャロットは丸裸ではなくきっちりと馬装具を着けられている。


 今までは短距離だったから問題なかったのだろうが、如何せんこれからは結構な距離の移動を行うのだから腰を痛めさせるわけにはいかん!と明日香の保護者魂が炸裂した、というわけである。


「やっぱりこれあると違いますね」

『安定もするでしょ』

「はい。キャロットはとっても不満そうですが……ごめんね、我慢して?」


 そう言いながらキャロットの首筋をぽんぽんと叩いてやれば、不満そうにぶるると鳴いてみたようだった。

 明日香もヴィオレッタも、どうしてそんな反応をするのか、ということが読み取れるのだから、わざわざあれこれ手を回す必要はない。

 ちなみに、何故読み取れるか、と聞かれると明日香がしれっと『聖女なので!』と答えてくる。


「今頃、王宮はすったもんだですかねぇ……」

『だと思うよー。でもさ』

「はい」

『家族だから、いつも仲がいいとか、分かり合えるとかの方が、ありえないと思うんだ』


 何かあったのだろうか、と思ってヴィオレッタは問いかけたくなってしまうけれど、でもやめておいた。

 明日香には明日香の事情があって、こう告げているのだから。

 そして、今の明日香はヴィオレッタの都合にしっかり付き合ってくれている。

 いずれは元の世界に戻るのだから、未練がましくあれこれ問いかけたり、探ったりしてはならないとも、ヴィオレッタなりには理解をしているのだ。


「……私、本当に色々とらわれてたんですね……」

『仕方ないと思うよ?』

「え?」

『小さい頃なんて、家族が全てじゃない。……あれ、というかヴィオちゃん学校は?』

「あー……」


 あはは、と苦笑いを浮かべたヴィオレッタは、軽く頬をかいた。


「その……一応通っていたんですけど、私を馬鹿にする人があまりに多くて、ちょっと頑張って色々筆記科目を満点だらけ叩き出したら、学校の先生から『魔法以外、君に教えることはないから』って言われまして」

『あらま』


 思っていたよりヴィオレッタの頭は良いらしい。

 というか、その時がっつりと頑張ったんだろうなぁ……ヴィオちゃんえらいねぇ……と、おばあちゃん丸出しな感情をもってして、明日香はうんうん、と頷く。

 そして、はっと明日香は気づいた。


『ヴィオちゃんが色々と買い物に慣れてたりしたのは学校帰りに寄り道したのもあるから……?』

「それもありますし、色々売り払う時にあちこち歩いた、っていうのあります」

『本当に君しっかりしてるね。そっかそっか、うん。頑張った、偉い偉い』


 ヴィオレッタに触れられて良かった、と明日香は思う。

 よしよしと撫でると、ヴィオレッタは嬉しそうに破顔する。明日香と話して、あれこれ考えているときはこんなにもくるくると表情が変わって可愛らしいのに、どうして大切にしてあげなかったんだろうか。結果、今更手を伸ばしてもヴィオレッタから徹底的に拒否されてしまっている彼らを見ても、明日香は自業自得だとしか思えなかった。

 ヴィオレッタに縋りつけばどうにかなるとでも思っていたのだろう。縋りついたところで彼女から徹底的に拒否されたことで、現実に直面できた。明日香からも言葉で鉄槌は下したことだし、恐らく誰かがうっかり暴走しない限りは多分大丈夫だろう、と予測する。


『ヴィオちゃん、この街道ってちょいちょい宿もあるんだけど……旅人用?』

「はい。街と街の間が少し離れているので、ある程度の区間で宿を作ったり食堂を作ったりと、整備はしているんです」

『なるほどねぇ』


 現代でいうところの、高速道路にあるサービスエリア的なやつかな、と明日香は考え込んだ。


「アスカさん?」

『ちなみにさ、まず先にその親戚さんのところに行くんだよね?』

「あ、はい」

『手土産って……いらない?』

「……忘れてました……!」


 ついつい元の世界の両親がボヤいていた台詞を思い出した明日香は念の為にと提案したが、正解だったようだ。

 久しぶりに訪問したりする相手に対して、どうやら手土産的なものを持っていくのは普通だったらしい。

 だがしかし、道中何が買えるのだろう、と明日香はうんうんと唸る。それを見たヴィオレッタは思わずクスリと笑った。


『ヴィオちゃん?』

「すみません、アスカさんがちょっと可愛いな、って思って。もう少し行くと、次の街に着きます。親戚の方のお家は街から近いので、そこで何か……そうですね、お菓子とか……でも好みが……」

『まぁそうなるよね』

「こういう時って一体何を持っていけば……!」

『お店の人に聞くとか……?』


 言いながら、明日香は明日香で入院生活があまりに長すぎて手土産を持っていくことは勿論ながら知っているとしても、何を持っていくのか、までは思いつかなかった。

 見た目的には一人が馬に乗りつつうんうんと唸り、ヴィオレッタの視点から見ると二人して『一体何を……』と悩んでいる、という割と奇妙な光景だったが、街に到着したもののお土産を取り扱っているらしき店は見当たらなく、ヴィオレッタがどんよりと落ち込むことになってしまったのだ。


「ここじゃなくてさっきの街だったら……色々あったのに……」

『でもさ、工芸品送られても飾るしかできないし』

「それはまぁ、えぇ」

『消えもの……あ、えーと、食べ物は? お夕飯の材料にどうぞー、とかって』

「そんなのでも良いんでしょうか?」

『いいと思うよ? 一番実用的だし』


 うーん、とまた悩んだヴィオレッタは一応店の人に聞いてみる、と行ってからいそいそとそちらに歩いて行った。


『……あれが、本来のヴィオちゃんなんだろうね』


 明日香の独り言は、キャロットにしか聞こえていない。

 フン、と鼻を鳴らしたキャロットが『そうですが、何か』と誇らしげにしているような、何だか不思議な感覚になりつつ、ヴィオレッタの戻りを明日香はキャロットとともに待ったのである。


 ちなみに、店の人からは『久しぶりに会うんだからすごく無難にハンカチとお花はどうだい?』と諭されたらしく、出発の時にそれ買います!と予約をしてきたらしい。

手土産は何をどうしていいのか私が一番迷ってしまうものなのです……

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