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【コミカライズ連載中】二人で一人、開始します!【完結済】  作者: みなと
第一章【逃げよう。だって君は悪くない】

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広い図書館は圧巻としか言えない

『すご………』


 ぽかんと口を開けている明日香を、ヴィオレッタは微笑ましそうに見ている。

 なお、アレクシスにはうまいこと姿は見えないようにして、声だけが聞こえるようにしているという器用な芸当を披露しているのだが、恐らくアレクシスは聞こえていない。というか、耳に入っていない。


「王家の者のみが入れる書庫まで行きますね」

『はーい………ん?』

「あのひとは強制退場です」


 表には出さず内心で満面の笑顔を浮かべているヴィオレッタ。

 見ないで正解だね、アレクシスくんや、と明日香は内心思うが口には出さない。王家の血を少なからず引いているとはいえ、まさに直系の血には敵わないだろうから入れないだろうと思われる。


「確か………そうそう、こっちですね」


 慣れた足取りのヴィオレッタだが、きっと何度も何度も現状をどうにかしようとして、必死に図書館に通い詰めたのだろう。

 右へ左へ、と複雑な作りの図書館だなぁ、と明日香は思った。

 日本の図書館で、こんなに入り組んだ構造の図書館はない。一つの大きな建物の中とはいえ、ここまで色々な方向に曲がり歩いていくことに関してはさすがファンタジー世界とでも言えば良いのだろうか。


『すごいね………』

「空間魔法が展開されているんです。基本的な作りとしては大きな部屋一つが図書館として在るのですが、この専門書はこの部屋につなげる、こっちの専門書はこの部屋に、とくっつけていたらまさに迷路な空間構成になってしまったようでして………」

『ヴィオちゃんは慣れてるね?』

「マーカーのようなものをこっそりと………」

『それも魔法?』

「はい。私が普通の状態で使える、数少ない生活魔法のようなものです。それを目印にしております」


 この子、めっちゃ有能じゃんと明日香は思った。

 図書館司書として才能を発揮できそうだし、配置によってはまた別の才能を遺憾なく発揮できそうな予感しかない。

 普通の魔法が使えないから無能、はあまりにも短絡的な思考回路だな、と思う一方、そういう判断しかしてこなかったが故に、ヴィオレッタをはじめとする『純血王家』の人たちは蔑まれてしまったのだろうと考えた。


『評価制度が破綻してるんだよなぁ………』

「アスカさん?」

『ううん、何でもないよ~』


 本当に、この世界の人たちはもったいないことばかりしている。

 ヴィオレッタの扱いがまさにそうだ。

 ヴィオレッタの特性を活かせば、きっと今のような悲惨な状況にはなっていないだろうに、と思うけれど絶対に進言なんかしてやらない。

 明日香は帰るために協力しているのだが、心の根底にあるのは『ヴィオレッタの力になりたい』という思いと、彼女が一人でいても折れない強さを少しでも与えてあげたいから。おこがましいかもしれないが、心を開いた人への接し方を見ている限り、きっとヴィオレッタは王族としてここで飼い殺されるよりも外に出て、めいっぱい笑って、地に足つけて生きていってほしい。


「こっちに曲がって………ありました!」

『おお』


 見るからに立ち入り禁止、という風格の扉がいきなり現れた。

 此処に入るためには、王家の人でしか無理だというが果たしてどのように判定するのだろうか、と思っていると、ヴィオレッタが扉の取っ手に手をかける。


「………っ」

『ん?』


 一瞬、ヴィオレッタが痛そうな顔をした、と同時に扉の前にぱっと文字が現れた。


『ゲームウインドウ………?』


 ステータスを表示させるような、向こうが透けているウインドウが表示され、そこには恐らくこの国の文字でこう書かれていた。


【ヴィオレッタ=ディルフィア、承認。書庫への立ち入りを認める】


『………血?』

「よくわかりましたね、アスカさん」

『うっそ!』


 耳からの採血検査のようなあれか!と納得していた明日香だが、思わず声に出ていたらしい。

 扉の取っ手を握れば、どこかから針のようなものが出てきて、ほんの少しだけ血を採取、それを鑑定する仕組みのようだ。

 なるほど、これならば仮に魔力皆無の王家の人がここにやって来て書庫に入りたくとも、問題なく入れるのか………と明日香は納得した。


「アスカさんの世界にもこういう仕組みが?」

『ないない。病気とかの検査で使うんだけど、そういうのやる専門の人がいるんだよ』

「へぇ………なんか、面白いです」

『この世界とは違ってることばっかりだよ。今度、またゆっくり教えてあげるね。きっとヴィオちゃんはこういう話が好きそうだもん』

「是非!………そうですよね、聖女としてやってきて、まず世界の仕組みが違うのが普通ですもんね………」

『そうそう、私が理解早いのって元いた世界であれこれ見てるからだし』

「そうなんですねぇ………」


 どこかうきうきとしているヴィオレッタは、とってもかわいい。

 必死にヴィオレッタの後をついてきているアレクシスは、きっと今までこんなヴィオレッタを見たことがないのだろう。

 呆然として、『こんな………』とか『だって、いつも困り顔で………』と言っているのだが、それが自分たちが原因だと気付いて落ち込んだりと、何ともまあ忙しい男だ。


「アスカさん、開きます。ちょっと眩しいですよ~」

『まぶし!』


 真っ白という表現しかできず、反射的に明日香は目を閉じる。

 しかし、目を閉じても光に吞み込まれるような白さは遮ることができず、ひたすら我慢するしかなかったが、不意にそれが終ったのだ。


『………………ん?』

「入室完了です!」


 恐る恐る目を開けば、円柱形の建物のような場所の中、恐らく壁であるところにはびっちりと本が詰め込まれている。

 円柱形の本棚の中に閉じ込められたような、どこまでも上に本棚が続いている感覚に、ぽかんとしてしまう明日香だが、ヴィオレッタは見慣れているようだ。というか、よくここに来ているのなら、見慣れて当然か、とも思う。


『これ、上の方の本見るときは、どうしたら良いの………?』

「飛んでいくか、司書を呼び出すか………ですね。私は自分の手の届くところしか見れなくて………」


 あ、と明日香から小さく声が漏れる。

 始めこそ司書がここまで付き添っていたけれど、最終的に職務放棄した、ということだ。しかし今は明日香が一緒だからそんな心配はない。


『どうしよう、私表に出ようか?』

「そうしていただけると、恐らく探索も早いかと………」

『ほいほい』


 意識を集中すれば、ヴィオレッタの外見があっという間に変化する。


『私が表にいるから、ヴィオちゃん案内お願いしても良い?』

「はい!」


 明日香が念じれば、ふわりと体は浮く。

 内心で『よっしゃ飛んでるー!マンガでよく見たやつだー!』とうっきうきの明日香だが、内側ではヴィオレッタにもろバレなので、内部世界でヴィオレッタは必死に笑いを堪えている。だが、人が空を飛ぶ、という経験などできるものではないから、嬉しくなるのも当たり前だが魔法が使える人なら、むしろ今明日香が飛んでいる状況はさほど珍しくないのだろう。


「わぁ、探しやすいです」


 今まで明日香が表に出ているときは、ヴィオレッタの声がくぐもったように聞こえていたが今はクリアに聞こえている。

 意識の違いか………?とも思うが、今はとりあえず置いておく。


『えっと………どうやって探そうかな』

「アスカさん、もう少し上!」

『え!?』

「今のまま、もう少し上に。そうです、で、左方向に少し回って………ストップ!」

『はい!』


 言われるまま動けば、何やら内部世界で嬉しそうなヴィオレッタ。

 つまり今目の前にある本棚を探したいということか?と思っていると読めないはずのこの世界の文字が自動翻訳のように頭に入ってくる。


「このへん、探せてなかったんです!良かった………!」

『えーっと………なになに………?古代魔法について………じゃない、王家の成り立ちについて………でもない………』

「アスカさん、あれ」

『………ん?』


 何だ、と明日香はそちらへ近づいていく。

 タイトルがない、とても簡素な本が一冊、ぽつんとあった。


『これ………』

「気になっていたんです、この本」


 ぱら、と捲れば一ページ目に記載されている『この本を見つけた、蔑まれている我が子へ』の文字。


『何これ………』

「純血王家の者は、皆、一様に蔑まれていたのです。結界修復ができる、と分かるその前まで………。そっか………この本か………」


 嫌な歴史だ、と思うと同時に、使用方法が分かった途端に手のひらを返す。

 今まで半端者と蔑まれ、距離を取られていたから手のひら返しと分かっていても、それに縋りたかったのかもしれない。だが、そうだとしても。


『悪趣味な王家だね………』


 明日香の呟きに、ヴィオレッタは小さく頷いた。

 だが、ヴィオレッタの少し前の結界修復の旅に出た純潔王家の親戚は、この国に縋ることなく一人で生きていった。

 恐らく、それより前にも同じようなことをした人がいたのだろう。それを参考にしたのかもしれないが、ヴィオレッタも同じようにしようとしている。


『ヴィオちゃん、これさ………このページの文字、書き換えられないかな』

「アスカさん?」

『悪いことなんてないんだよ、って………絶望はしてもらいたくないんだ………』

「………そうですね、そうしましょう」


 絶望してもらいたくない。

 その言葉がどれほど勇気づけられるのかなんて、明日香自身は思ってないかもしれない。今後のことまで考えてくれている明日香のその言葉が、ヴィオレッタにはとても嬉しかった。

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