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【9/16~ コミカライズ連載開始】二人で一人、開始します!  作者: みなと
第一章【逃げよう。だって君は悪くない】
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疲れきって、その先で

「はー……」


 ヴィオレッタと明日香は、二人並んで精神世界の中でごろりと寝転んだ。

 現実世界では、ヴィオレッタの部屋で、ヴィオレッタがただ眠っているだけだから、起こされてしまうとこの安らぎの時間が終わりを迎えてしまう。そんなのは嫌だな、と思うヴィオレッタと、彼女の隣で寝転んでいる明日香。

 これからをどうするか考えなければいけないが、まずはヴィオレッタの心のケアが必要だ。


「ヴィオちゃん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないです」

「よしよし、私には素直。えらいえらい」


 隣同士寝転がり、子供のように体を丸くして横たわるヴィオレッタの頭に手を伸ばし、明日香が撫でると、ヴィオレッタは嬉しそうに目を細める。

 助ける、と迷いなく言った明日香を、ヴィオレッタはここまで心を許し信頼してくれているが、家族に申し訳ないなぁ……と、思いながらも『いや、あの家族はそもそも人としてどうなのよ』という部分が大きすぎて、どうしようもできない。


 しかも、自分の子供に対して期待していないと言いながら、ヴィオレッタが純血王家の血を覚醒させて聖女召喚をし、魔法が使えるようになってからの手のひら返しは明日香ですら、『うっわひどい』と思ったほどだ。

 あまりに酷すぎる、どころか人としてどうなのよと思うレベル。


「ねー……まず、何から始めよっか」

「そうですね……王宮内にある図書館に行きましょう」

「図書館」

「はい。そして、王族のみ入れる禁書エリアに向かって、過去、私のような純血王家として生きた人が何をどうしたのか、記録を探したいです」

「どうやって探す?」


 うーん、とヴィオレッタは少しだけ悩んでからむくりと体を起こした。


「探索魔法を使いましょう」

「何それ、そんなんあるの?」

「はい。特定の文字列を魔法で綴って、そこから探し物を見つける、という魔法がありまして」

「……Google先生……?」

「ぐ、ぐー、ぐる?え?」

「なんでもない、大丈夫。こっちの独り言よ」

「へ?あ、はい?」


 つまりそれは明日香のいた世界でいうところのGoogle検索か、と一人納得する。

 そして何となくイメージを掴んでから、明日香もヴィオレッタにならって起き上がり、うーん、と両手を組んで腕を上げて伸びをする。背中がぽき、と小さく鳴って、明日香は『ふいー』と間の抜けた声を出してしまったが、それはまたある意味ご愛嬌だろう。


「とりあえず、もうちょいゆっくりしてから図書館に……」


 そこまで言ったところで、精神世界からヴィオレッタがふっと消えてしまった。


「起こすなよぉぉぉぉ!!!ヴィオちゃんとまだ話したいことあるっつーの!!!」


 思わず床ドンしながら叫んだ明日香だが、ヴィオレッタの悲鳴にはっと我に返った。


「え……ヴィオちゃん……?」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「起きろ、ヴィオレッタ!頼むから起きてくれ、ヴィオレッタ!」


 ゆさゆさと体を思い切り揺さぶられてしまい、ヴィオレッタは(とてつもなく)嫌々ながら目を覚ます。

 明日香さんとの癒しの時間を奪ったヤツは誰なんだ、と起き上がって早々にじろりと睨んだら、案の定、と言ってもおかしくないが、そこにいたのはアレクシス。

 そして見たくもない弟のリカルド。


「良かった、姉様!」

「……」


 チッ、と舌打ちをしかけたヴィオレッタだが、必死に耐えた。

 あまりに耐えきれなくて、というか目の前に現れた嫌悪しまくりの存在に、込み上げてくる吐き気を必死に堪えながらじろりと睨みつけた。


「……何の用ですか」

「あ、あの……」

「ヴィオレッタ、やはりもう一度話し合いをしたくて」

「聞こえてないのかなぁ……耳、ついてます?」

「え?」


 アレクシスとリカルド、そして彼らに付き従ってきた従者たちは、いきなりのヴィオレッタの問いかけに目を丸くした。


「脳みそも入ってるんですよね?」

「姉様…?」


 ヴィオレッタは、恐らくブチ切れていた。

 本人は怒りまくった記憶が無いから、『あぁ、これが怒るということか』とぼんやり考えていたものの、それ以上に感じていたのは、明日香との時間を邪魔された果てしない怒り。


「……おかしいな……私、ドアに『立ち入り禁止』って貼ってたのに」


 どこか虚ろな目で呟いて、アレクシスを無感情な目で見てから、溜息交じりに問いかけた。


「耳もついてて、脳みそもお持ちでいらっしゃって、人の話を少しでもご理解できるというのであれば、ドアに貼った立ち入り禁止の紙をどのように解釈されましたの?ねぇ、公爵子息様」


 怒りすら持ちえないほどの虚無が、ヴィオレッタを呑み込んでいく。

 どうしてこうも、人の邪魔をするのか。

 自分たちの方は『邪魔するな』とかあれほど言って、ヴィオレッタを邪険に扱ったというのに。


「お答えくださいな」


 冷たく、ただ一言、ヴィオレッタは告げ、更に問いかけた。


「どうして部屋に入ったのです?」


 その答えは、『話したかったから』それだけ。

 ヴィオレッタは確かに貼っていた。『入らないでください。立ち入り禁止。休みたいのです』そう書いた紙を、でかでかと、丁寧に貼っていた。

 見なかったことにしてずかずかと入室してきたのはアレクシス。

 自分は婚約者だから、大丈夫だ!と根拠の無い自信満々なセリフで無理矢理入室した。

 そういった行為は、ヴィオレッタの嫌悪の対象であると知りながら、また、彼女の心を踏み躙ったのだ。


「……もう、いい加減にして……」


 わなわなと震えながらヴィオレッタは、いったん俯いていた顔を勢いよく上げた。


「ふざけるのも大概にしてくださいませ!どれほど私を踏みにじったら気が済むのですか!気持ち悪いんですよ、あなた方皆!」


 そして、出てきた悲鳴。


「姉様…っ、姉様、どうか謝らせ」

「うるさいうるさいうるさい!!!人の話は聞かないくせに自分の話ばかり押し通さないで!役たたずのことは放っておいて!もう好きに生きさせてよ!王族なんかやめてやるから、関わらないでー!!」


 リカルドの言葉を途中で遮り、叫ばれた言葉。

 全員が愕然とし、思う。


『もう、本当に駄目だ』と。


 しかしそれは今更でしかない。

 というか、ここまで拒絶されてもなお、何故彼らは関係修復ができると信じていたのか。


 ヴィオレッタの心からの悲鳴を聞いて、一気に明日香は意識を浮上させた。


 大切な、甘え下手なこの子を助けるために。

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