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感知した魔力反応を近いところから解析して、動いている反応は魔獣か魔物なのでマーク。
動いてないものは風を通して形を確認し、依頼された薬草の特徴から大きく離れたものだったら除外。寝てる魔獣とかも動いたら再感知にして一旦除外。
形がそれっぽいかな? と思ったものは、実際に見に行く。感知魔法は動かしたまま、近いところから見て、特徴が異なればその魔力反応も除外。
そうやってフィルター検索みたいに絞り込んでいくと、四つ目でようやく指定の薬草を見つけた。
厚みがあって葉っぱの縁がギザギザで、裏面は白っぽい。葉っぱは茎に対して2つが対象位置になるように生え、上下の葉っぱとは交差する角度になる。で、根っこの下の方は赤っぽい。
見た感じ、ごく普通の植物だ。魔力があるからといって、魔獣ほど見た目が特殊になる訳じゃないのね。
一つ目、と生成した氷魔術でマーキングを施す。
氷でやれば常温だし溶けないし動かないからね。でも多分これって、本来は土属性でやるべきじゃないかなーとは思う。
依頼には地図に記載する生息地の数についての指定は何も無かったけど、まあ5つくらい記載すればいいだろう。
感知魔術で拾う魔力反応をこの薬草に絞り込むと、ポツポツと分布しているのが分かる。
一応目視で確認して、脳内魔術マッピング完了。
あとは目印になりそうな木やら岩やら崖やらをマーキングして、地図起こしに必要な要素を揃える。
……感知魔術、マジで便利だなー!
あとは神都に戻って、この脳内にあるマップを方角に注意しながら紙に起こせば良い。
ここまでで多分3時間も経ってない。
依頼料は500テトリ、つまりおよそ一日分の稼ぎだから、半日で終わるならマジで割のいい仕事過ぎるな。
あとは適当に魔獣を狩りながら神都まで帰った。
◆
「エッ、帰ってきた、なんかあった?!」
サクッと地図を作って、昼飯の前に完了させちゃうかと考えて魔術協会支部に戻ると、ソラルさんがやっと帰ってきていた。
彼は人の顔を見るなり、素っ頓狂な声を上げる。
支部中の注目が一瞬集まる気配がしたけど、魔術師たちはあんまり他人に興味の無いタイプが多いのか、「うるさいなぁ」みたいな感じでソラルさんをひと睨みするだけだった。
「ソラルさん。お帰りなさい」
「ぅ、えと、僕よりね。君は? 今戻ってきたの?」
「あ、はい。今朝受けた依頼終わらせてなんですけど」
「アッじゃあ昨日のうちに僕の頼んだ任務終わってたってこと?! 2、3日かかるかと思ってた!」
ヒェッと喉を引き攣らせる音を上げて、口元を覆ったソラルさんは思い切り仰け反る。
日を置いた事で改めて思うけど、この人の喋り方はモニョるかテンションぶち上がりか迫真! かのどれかしかないんか?
「ごごごごごごごごめん、なさぃ……」
なんて? 爆音から急にモニョって蚊の鳴くような声になられるとマジで聞こえないんだが?
「ぁ、あのその、そんなに早く終わると、お、思ってなかったっていうか。……ゴメンネ!!!!」
なんか一生懸命小声で喋っているので、どうにか聞き取るべく耳を傾けていたところ、最後に急に叫ばれて音量の落差にビビる。金ローで見る映画とCMみたいな現象を一人で起こすな。
「でも詳細報告、してね。どういう魔術を使ってどんな理論で白棘蜥蜴を倒したのか、説明。授業がてら」
カックン、とオモチャのロボットみたいな動きでソラルさんが支部長室を指差して、それでようやくジェットコースターみたいなリアクション芸は少し落ち着いた。
急にハキハキ喋り出したので、多分これ依頼の報告じゃなくて私の使った魔術の事で頭いっぱいだな?
促されるままに支部長室へと入室し、ソファに座らされる。
対面に座ったソラルさんは、私が提出しようと手に持っていた地図と依頼の受諾書をまず見たがった。
地図はちょくちょく仕事で作っているので、書き起こすのは簡単にできる。街中じゃなくて道なき森の中であることと、碌な目印がない事で、道筋をどう書くべきか多少迷ったくらいだ。
「へー、見やすい。これどうやって調べたの?」
「風に魔力反応探す感知魔術載せて拡散です」
「え? 嘘。それじゃ半日なんかじゃ終わらないでしょ絶対。どうやって膨大な反応の中から依頼の薬草見つけたの」
「見つけたもの解析してって、単純に探してるもの以外は感知から外していきましたけど……」
「ん? えっ、感知するもの選べるの、君」
びっくり、みたいな顔でソラルさんがこちらを見るが、私としては何に驚かれてるのかが分からず困惑してしまう。
「えっと?」
「あー、分かんないか。そうだよね。うーん……その、感知から外すのってどういう感覚でやってるの?」
感覚か。魔術はイメージが何より大事なので、感覚も当然重要な要素になる。
言われてみれば、感知対象を絞り込んでいく感覚って……説明しにくい。
だってイメージ元、完全にゲームやPCにおけるフィルター機能なんだよな。
でもこの世界では電子機器らしきものを見かけた覚えも無いので、これをそのまま言ってもソラルさんに伝わる気がしない。
「……ええと、まず、感知したものは解析かけて、特徴を見られるようにしてあって」
「へえ。特徴って例えば?」
「魔力の波長とか、動いてるかどうかとか。あと形状」
「風魔術としてそれやってるんだよね。形状とか動いてるかはともかくとして、魔力の波長って何? 君は魔力を波のように感じてるってこと?」
「あー、えー……波というより、波線というか……」
適当な紙を貰って、簡単に波形図を書いて渡すと、ソラルさんは首を捻った。
「意味わかんない。似たような事できる魔術師はいるけど、みんな色とかで認識してるのに、なんで君はこんななの。ていうかこの図? 何でそんな、感覚的に身につくほど見るの」
「あー……」
よく見る機会があるのはあの、動画サイトで音楽聞く時画面に出てくる……オーディオスペクトラムだっけ? あれなんだけど、ソラルさん説明しても絶対分からんだろな。
「異世界の道具と文化で」
「つまり、僕には一切想像もつかないようななにかってこと?」
「はい」
「言い切るねえ。勇者の元いた世界とここってそんなに違うの?」
「全くと言っていいほど」
「そうなんだ。具体的に、どんな違いがあるのか、一言で僕を納得させてみて」
一言でとか、こと魔術関連の話になると無茶苦茶言うな、この人。
でも授業がてら、と言っていたので、その意図はわかる。
イメージの言語化だ。つまり、詠唱を決めるための能力を計られている。
ソラルさんはさっきから私が魔術に使っているイメージを説明させようとしている。でも私のイメージが本当に異世界の未知のなにかなのか、それとも私の言語化能力が足りないのか、判断がつかないのだ。
そのソラルさんを一言で納得させられる、具体的な説明。しかも世界規模。本当に無茶苦茶言いやがって……。
「うちの世界人口は推計80億人です」
「なにそれ怖ぁっ! なんでそんなの推計でも分かるんだよ! 異世界怖ぁ!」




