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 翌日、朝のうちに魔術協会へ顔を出したが、ソラルさんはまだ顔を出していないらしかった。

 たまたま通りがかりの協会員の魔術師さんが教えてくれたが、昨日は出掛けていたのは任務だったようで、まだ戻ってないんじゃないかとの事。


「弟子ってなんだっけ……」


 弟子にしてやる! と連れてこられた筈なのに、初手で任務行きとなり、そのまま2日放置かあ。

 弟子云々についてはおそらくソラルさんの善意でしかない提案なので、別に構わないんだけどさ。


 いや、本当にそれは別に構わないんだけど、それはそれとしてキダさんに会いたくなってくるな……。


 キダさんがどれだけありがたい先生役だったのかを今更ながら噛み締めつつ、いつ帰ってくるのか分からんソラルさんを待つのも時間が勿体無いので、今日も仕事が受けられられるなら仕事に行くことにする。


 仕事の受け方については、一昨日のうちにアンリさんからざっくりと聞いておいた。

 任務とは違い、依頼は届いている依頼書の中から自分で受けたい仕事をピックアップして行くだけでいいらしい。


 ただし、自分が受けられる依頼は依頼料ごとにランク分けされている。

 魔術協会員には一応仕事を熟した数による等級分けがあって、一等級・二等級・三等級というかんじ。この辺も異世界モノのギルドみがあるな。

 実力は特に関係なく、受けた仕事をちゃんと熟してくれるかどうかなので、これはあくまで魔術協会における信用度を表しているとの事だ。


 加入したての私は当然三等級である。

 受けられるのは魔術師が来るなら誰でもいいよという、ほとんど依頼者の言い値での依頼なので、普通に割に合わないものばっかりだ。


 三等級の依頼に関しては、受ける魔術師がいなければそれまでらしい。

 依頼から二十日経っても受け手がいなければ破棄されるとの事だし、依頼というよりは単なる案件紹介っぽいかな?


 どれ、と思って依頼書を広げて眺めてみる。

 この2ヶ月ほどでどうにか身につけた、辿々しい暗号解読のような言語能力での読み取りによると、依頼内容は猫探しやら買い物やら、お使いみたいな内容ばかりだった。

 報酬も200テトリとか300テトリとか、あんまりな額のものばっかりで、少し呆れる。こんなんで受けてもいいよって言ってくれる魔術師なんかいるのだろうか。


 と、思っていると、10歳くらいの少年が隣にやって来て、ざーっと私の広げた依頼書を眺めだと思ったら猫探しのやつを引き抜いた。

 少年はチラリと一瞬こちらを見たものの、何も言わずにさっさと依頼書の受諾書を書いて協会支部から出て行ってしまう。


 依頼を受けたって事は、あの子も協会員かあ。

 10歳からもう働いてるってこと? 昨日のティーレさんも15歳とかくらいだったし。

 私が安すぎる、と渋るような気持ちで見ていた三等級の依頼に対して、全然躊躇いが無かった。

 どうせ依頼を熟さないともっと割のいい依頼がある筈の等級には昇格できないし、下積みと割り切ってやるしかないのかもしれない。


 とりあえず、もし稼ぐなら依頼の傍ら魔獣を狩って売るしかないか。となると出るべきは街の外、と街中の依頼を全て省く。

 それから、木樵の手伝いとかの途中で仕留めた獲物を拾うことさえ出来なさそうな依頼も省いた。

 残ったのは森での護衛か、薬草などの探索だ。どっちも依頼書が綺麗なまま期限切れ間近で、全然人気が無いらしい。


 護衛……は、最近新しい人間関係がガンガン広がっているので、ちょっと億劫だな。城でも魔術協会でも、まだまだ自己紹介とか沢山しないといけないだろうし。


 という事で、薬草探索の依頼を受ける事にした。

 神都東南部の森から指定の薬草の生息地を探して、簡易的な地図を作るらしい。報酬は500テトリ。

 額面だけはいい方だけど、手間を考えると全然割に合わないやつだなこれ。


 受諾書作成に苦戦していると、先輩協会員さんがわらわら集まってきて助けてくれた。


 その全員が受けようとしている依頼書を見て「これ内容ちゃんと読めた?」と確認してくるので、よっぽどハズレ依頼なのかもしれない。

 中には「受諾書も覚束ないのに地図書けんの?」と言う人もいたが、別に地図は文字書けなくてもいけるだろう。王都でも何回か地図は見たが、方角と目印さえ分かれば良さそうだったし。


 魔獣狩りで稼ぎを補填するつもりだと説明すると、その全員が「なるほどね」みたいな顔をして、それ以降は依頼内容については何も言わなくなった。

 ひとまず考え方としては合っているようだ。


 どうにかこうにか受諾書を書き終えて、それでもまだソラルさんは支部にやって来ない。

 うん、出発進行。



 この依頼において、特に割に合わないと思われる部分は二つあると思う。

 一つ目、稼働時間の見込みに対して依頼料が低いこと。

 二つ目に、薬草の生息地が見つからず依頼失敗になる可能性があるということだ。


 だが私には両方への対応策がある。

 魔獣狩りで時間単価を上げることと、探知魔術を使うことだ。


 昨日の任務帰りに分かったことだけど、ティーレさんの言う『薬草』にはどれも魔力の反応があった。

 つまり植物の群生地らしき魔力反応を探していけばいいってわけ。一つでも実物が見つかれば、大蜘蛛の痕跡にやった時のようにその特徴を解析して、探知を絞ることも出来る。


 と、いうわけで、まずは真っ直ぐ南東方面の山脈の麓まで向かい、そこから風に感知魔術をのせて放つ。

 この辺の風は山からの吹き下ろしの影響が強い。自然の風に魔力を通す場合、ここからやればほぼ全方向からの風上になれるので、魔術にだけ集中できる。


「調べの風よ、我が耳目となれ!」


 よ〜し、行っけぇ。


 本日の風は大変穏やか、微風が心地よく草葉をそよがせたりさせなかったりといった程度だ。けど風の魔術が操っているのはその場に存在する気体なので、ゆっくりながらも確実に探索範囲は広がっていく。


 二語詠唱に慣れてきたので、感知魔術も少し組み直してある。

 魔力の波長を感知するのと、それがどういう形状なのかを解析する2つの機能を統合させたのだ。


 魔術にどんな機能を持たせるかは、どれだけ納得できる詠唱を思いつけるか、みたいなところがあり、二語使えるだけでめちゃくちゃ幅が広がるのである。


「うぉう……やっぱ頭おかしくなりそう……」


 ただ、魔術を通してバシバシ情報が頭に入り込んでくるので、情報処理能力的な限界は相変わらず試されるけども。


 慣れてくればカクテルパーティ現象みたいに探したい情報だけ拾えるようになるので、人間の脳ってやっぱ高性能だよね。

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