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 その途端、体の中で何かがずわっと減るような感覚がした。

 …………あっ、これ、魔力だな? 魔力めっちゃ減ってる!


 やばい、とは思ったものの、目論見通りに裂け目の火柱は消えた。

 やっぱ酸素燃やすタイプだったか。生成って魔力食うらしいしね。


 そうしてやっと、そこから白く大きな何かがヨロヨロと這い出してきた。


 1メートルはありそうなでっかい蜥蜴だった。背中から尻尾にかけて、薔薇の棘みたいな形の鋭い突起が生えてる。結構名前のまんまの見た目だ。


「氷柱よ、貫け!」


 燃費の悪すぎる風魔術を解除して、蜥蜴が酸欠で動けないうちにトドメだ。


 思ったより鱗が堅くはなさそうだったので、空気中の水分を集めてデカい氷柱を作って落とす。


 火属性の魔獣だと、魔力生成の氷や凍り付かせる攻撃は相殺される可能性が高いからな。その点、マジモンの氷柱は急所には当たらなくても、質量で潰れてくれてくれるはず。実際のところは的が動かないので、ドスっといい感じにぶっ刺さって仕留められた。


 空中から巨大氷柱の質量攻撃魔術って、大技っぽくて結構いいんじゃないか?

 溶けて水になったとしても、水魔術に有利なフィールドができると考えても良さげだし。


 魔術使ってるぜ!って感じがするのはなかなか良い。この世界でしか体験できない事だし、旅行してる感がある。


「……し、死んだのか?」

「あ、はい。魔力の反応的にもう死んだ筈なので、もう大丈夫ですよ」


 成り行きを見守っていたティーレさんがおずおずと声を掛けてきたので、風の魔術に以前水でやった魔力の波長を捜査する奴を乗せて確認した。

 ……風でやると、水でやるよりちょっと魔力の消費が多いかも?


 今の今まで魔力の消費というものを実感できていなかったが、風の魔術は水や氷と比べて露骨に魔力が目減りするような感じがある。


 特にさっきの、真空を作る魔術はやばかった。

 まあ、魔術の効果範囲は密封も何もされていないので、追い出した気体の分、他の気体が入り込もうとするのを更に追い出し続けていた。要は魔術の稼働率が今まで使った事があるものとは比べ物にならないほど高いって事だと思う。


「ちなみにここ、他に巣ってありますか?」

「あるにはあるが、これだけ大騒ぎしたのに威嚇されないということは居ないのだろうな。次の狩場に移動するぞ」

「了解です。じゃあアレ、素材取っちゃいますね」


 納入する素材はあの蜥蜴の尻尾だ。尻尾の先は棘がびっしり生えてるんだけど、一体何に使うんだろうね。白い皮の方が使い道ある気がするんだけども。


 近づいて解体しだすと、触ったところの鱗皮が日光でキラキラ光る事に気付いた。煤で薄汚れていて全然気が付かなかったけど思ったより綺麗だな?


 …………よし。次のは皮を剥いで、メイラさんに持って行ってみよう。



 一匹目は指定された素材部分だけ切り取って、さくさくと移動する。

 山脈沿いに森を北へ抜けながら、横目に眺めた山肌には黒っぽい岩の部分が無い。


 あの黒いところ、もしかして溶岩が流れ冷えて固まったところとかなのかなー。

 よく考えると煙が出てたり白棘蜥蜴の巣だったりしたあの裂け目、全部黒い岩の部分にあったような気がする。


 果たして、ふたつめの狩場に出るとその考察が合っているらしい事が分かった。 

 さっきより注意深く眺めてみれば、裂け目の部分から低い方へと流れるように山肌が黒い岩に覆われている。


 そうなってくると気になるのはなんで白棘蜥蜴の巣になっているところは煙が出てないのかってところなんだけども。

 ていうかあの煙はなんだ。箱根みたいに温泉の水蒸気が沸いてるとか?

 それにしては霧っぽくないし、そんなに湿った感じもしないけど。


 …………まあ、火山の仕組みが地球と全く違う可能性はあるな。


 二匹目からは巣穴に大量の水を流し込む形で仕留める事にした。空中に巨大な水球を作ってから岩の裂け目に注いで、隙間になりそうなところを氷で閉じて漏れ出さないようにする。

 で、上にも分厚い氷で蓋をしちゃう。

 更に暴れて鱗を傷つけないように、氷を伸ばして水中で固定しちゃう。


 これで白棘蜥蜴は溺れ死ぬ。不意に魔術を使われることも無い。

 さっきの個体が酸素を消された時、魔力生成の火に切り替えなかったので、おそらく白棘蜥蜴は火の生成ができないか、する脳が無い。魔術って結構イメージ大事だし。


 同じ方法であっさり三匹ほど同じ狩場で仕留められた。


 風の魔術、完全に魔力の無駄遣いだったかもしれない。

 でも魔力の減る感覚とか、属性によって消費率が違いそうなのとか、分かった事がいろいろとあったので結果オーライ。


「よし。依頼は尻尾4本なんで、素材回収したらこれで終わりですね」

「ずいぶん簡単そうに魔獣を狩るんだな……。考えていたよりずっと早く帰れそうだ」

「魔術使えると便利ですよ。まあでも、王都の魔獣猟団では私ともう一人くらいしか実戦で魔術が使える人がいなかったらしいので、魔獣を狩るには別に必要ってわけではないですね」


 キダさんの剣とか、ラカーティさんの弓とか、めちゃくちゃ凄かったもんな。

 特にキダさんは気配とかいう、魔術よりも魔法みたいなもんで魔獣の位置特定してたし。アレなんなんだ。こっちの世界でもかなり特殊能力だろアレ。


「……氷の塔、要らなかったな」


 ティーレさんがなにやら遠い目をしてそう呟いたけど、蜥蜴の解体に忙しい私は「そうですねー」と適当に返事をした。

 棘のせいで皮を綺麗に剥ぐのがなかなか難しかったのである。

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