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 ソラルさんから言われた仕事の内容について、またアンリさんから説明して貰う。


 まず魔術協会が扱う仕事には『任務』と『依頼』の2種類があるらしい。

 違いは依頼者がいるかどうか。任務の方は、組織として義務的に発生する作業を会員に割り振る側面が強いらしい。


 で、23番の任務の内容はというと、単純な魔獣狩りだった。


「神都レヴォーシャには魔獣猟団はなく、私たち魔術協会と、勇者神教の教会騎士団が都市周辺の魔獣狩りを二分しているんです」

「あー、なるほど……」


 もしかして、ミルサリさんが確認しますって言ってたのって、そういうところかな?


 勇者神教が騎士団という独自の武力を抱えているのは知っている。神都周辺の治安を維持したり、勇者のサポートをしたりするために修道士が武装し、組織化したものとミルサリさんから聞いていた。

 つまり、信徒じゃない私は所属できない組織って事だ。


 勇者神教のスタンスとして、召喚者の地球における宗教慣習は、できるかぎり尊重する方向にあるのだそうだ。

 騎士団の内部規律はそもそもが勇者神教の戒律由来だし、彼等は普段は修道士として生活している。


 魔獣狩りがしたいという私に、ミルサリさんが「じゃあ教会騎士の活動に参加しますか?」と提案するのは思いっきりそのタブーに引っ掛かるのかもしれない。

 それで魔術協会からわざわざ人を呼んでくれたのかな。そうならそうと説明してくれてもいいんじゃないかなとは思うが。



 神都では、街道沿いと城壁周辺は協会騎士団の管轄で、魔術協会はそれ以外の地域の魔獣狩りを請け負ってるそうだ。


 まあそれ以外と言っても、あんまりにも広大すぎる。

 なので具体的には北部にある湖周辺と、東部から南部にかけて広がる山脈の麓あたりのどっちかで主に活動しているらしい。

 それ以外のところは依頼があった時だけ行くみたいな感じだ。


 今回私が請け負った23番の依頼というのは山脈方面行きで、白棘蜥蜴という魔獣を狩るのが目的になる。

 そいつから取れる素材が、協会のオーナーである王家から定期納入指定されているとの事。


 白棘蜥蜴の狩場への往復は一日掛かりになるらしく、登録した翌日、さっそく行ってみる事にした。


 案内が付くそうなので、朝食を食べて協会に顔を出すと、「ハイリってお前か」と建物に入ってすぐに声を掛けられる。


「はい、そうです」

「そうか。オレは案内役のティーレだ」


 そのぶっきらぼうな口調にちょっと戸惑う。

 だってその……ティーレと名乗ったその子はどう見ても中学生くらいの華奢な可愛い女の子だったので……つまりオレっ子ってやつだな?


「メシは食ってきたのか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「昼メシの用意は」

「携帯食は無いんですが、ひとまず携帯調理器具は持ってきました。食べられる魔獣がいればそれを調理しようかと」

「そういえば、王都の魔獣猟団に居たんだったな。ならそれでいい。早速出発するぞ、今日のうちに帰って来たいからな」


 声優さんみたいな可愛い声で、歴戦の戦士みたいな喋り方するじゃん。


 衝撃が強くて言われたことがなかなか頭に入って来ないけど、なんとか理解して頷いた。ティーレさんはクイっと片眉を上げるような表情を浮かべたけど、何も言わずにずんずん歩き始めたので、黙ってその後を追う形での任務出発となった。




 神都には王都に続く街道しかないので、その他の方面にはまともな道が無い。

 なので、目的地までは森の中を突っ切って行く事になるらしい。出発地点は城壁にある東西南北の塔を目印にするとの事だが、その後は自分の方向感覚頼りだ。


「北の湖側は人の踏み固めた簡素な道があるがな。山脈の場合は、木々の切れ目から目指す山を確認したり、太陽や森の様子を見て総合的に判断する。それでも迷う時は迷う。なので、森の中では何らかの痕跡を必ず残しながら進むように」

「なるほど……」


 特徴的な山が近くにある地元民はそれで方向を認識する、みたいな話かな? 方位磁石とか無いんかこの世界は。


 今回の出発は城壁南側の塔で、最初に確認する白棘蜥蜴の生息地は山脈で3番目に高いアウレ山の麓。そこで十分な狩りができない時は、山脈沿いに東側へと移動するらしい。

 アウレ山はあれだ、とティーレさんが指差した先を見て、見える稜線のシルエットを頭に叩き込んでおく。遭難とかシャレにならんからな、マジで。


 そこからの道中も、この辺りのこの季節は東風が吹きやすいから雲の流れを確認しろだとか、木々の影の差し方だとか、苔の生えるのを見ろだとか、総合的な判断方法の材料となる知識を適宜叩き込まれる。


 ティーリさんは森歩きのエキスパートらしく、薮と茂みだらけでマジで人の歩く痕跡の無いようなところもナタみたいな刃物でバキバキ切り拓いてぐいぐい歩いていく。


 そういえば、王都にいた時藪払いに短刀を借りてたな。

 魔術だけで魔獣狩りは問題なく出来ると分かって、すぐに返してしまったのですっかり忘れていた。

 こっちの森は王都周辺とは比べものにならんくらい鬱蒼としていて歩きにくいので、今度こそあった方がいいのかもしれない。神都でなんか探して買おうかな。


 ティーリさんは時々飛び出してくる小型の魔獣や魔物もそれで躊躇いなくバキッとやっている。

 ただ魔獣猟団とは違って、依頼の目的にない魔獣はほとんど回収しないようだ。


 これも森の様子の違いなのか、王都周辺よりずいぶん魔獣が威嚇や攻撃に出てくる頻度が高い。いちいち拾ってたら目的地まで辿り着かないし、今回のように素材を持ち帰るのが目的の仕事なら運搬量には限界もあるから、仕方がないことなんだろう。


 名目は同じ魔獣狩りなのに、魔獣猟団とはやり方が全然違うなぁ。

 まあ、旅をするにあたっては土地ごとに違いがあるという事を明確に体験できている訳で、これもいい体験だろう。


 森の歩き方解説を挟みながらゆっくり進行だったけど、路程は順調だったらしく、昼時頃にはもうは目の前だった。


 先に昼食にしてから仕事に取り掛かる事になって、サクッとその辺で魔獣を狩って料理する。


 魔術は本当に便利なもので、水の属性が使えれば炊事に水辺を探す必要もない。

 これで火属性が使えれば、火種の用意もしなくていいんだけどなぁ。


 せっかく弟子入りしたのだから、暇を見計らってソラルさんに聞いてみるとしよう。

 魔力経路がどうとかってのも、まだ何も教えて貰えてないし。

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