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 それから、ソラルさんに言われるままに魔術を放ちまくる時間が始まった。


 必死にやっていたら、いつの間にかミルサリさんが居なくなっていた。もう放っておいても大丈夫だと思われたんだろう。


 魔術は打っても打っても魔力枯渇の感覚はしないままだけど、詠唱するので喉は渇くし、頭は疲れる。

 多少へばってきたところ、ソラルさんが指示を出すのをやめてくれた。


「うん、よし。わかってきた、ので、もう大丈夫。お昼食べようか……」

「あ、はい」


 魔術師モードと通常モードの落差の激しいソラルさんには、なかなか慣れられそうにない。


 だが、午後に何をするとも決まっていない。なので食堂でともかく昼食を摂り、私はそのままソラルさんに連れられて城を出た。




 目的地はめちゃくちゃ近かった。

 城の正面玄関から徒歩5分の立地。敷地を出てすぐ目と鼻の先の距離、道の反対側にある、三階建ての立派な建物である。


 見るからに魔術師らしき装いの人がやたらと出入りしていて、まあ、順当に考えれば魔術協会とやらの建物だろう。


「ぇと、ここ、魔術協会の、レヴォーシャ支部」


 やっぱりそうか。順当だね。


 なんかギクシャク歩くソラルさんの後ろにくっついて中に入ると、そこに居た人達がざぁっと音がしそうなほど一斉に振り向いた。


「「支部長!!」」


 あっ、支部長なのかこの人。そういう肩書きもあるんだな。


 という事は、いま声を上げた人達は魔術協会所属の魔術師。……いっぱい居るじゃん。


 これだけ他にたくさん魔術師が居るというのに、お気楽旅行者の私なんかのために、支部長とかいう超お偉いNo.3を初手で呼びつけたのはやはり結構な暴挙だったのではなかろうか?


 まあ、勇者神教側にも立場というか、権威があっての事だとは思う。


 彼等がオマケの筈の私にも物凄く気を遣い、できる限りいい待遇を与えようとしてくれている事くらい分かる。

 はっきり明文化されたものを確認したわけじゃかいけど、多分、彼等の教義としてそう在る必要があるのだ。


 地球では、神はなんもしてくれたりはしない。けどこっちの世界では、明確に人智を超えた力を人へ貸し与えてくれている。

 その神が与えた陣から現れる、地球から来た異世界人は、勇者じゃなくても彼等にとっては特別な存在なのだ。そういう扱いを受けている、としか言いようがないことが多過ぎる。


「支部長、どこ行ってたんですか? 王都から書類来てますよ!」

「ぅ、ぁ、ヒェっ」


 私が勇者神教について思いを巡らせているうちに、ソラルさんは職員らしき人に詰め寄られていた。


 言葉の勢いに押されたように、目の前の背中が3歩ぐらいヨロヨロと下がってくる。

 慌てて私も合わせて下がった。危ねえ。避けなきゃぶつかるところだった。


「……っと、あれ、お客さんですか?」

「どうも」


 そうして私の存在に気付いたその人へ、ペコっとお辞儀をする。ソラルさんに詰め寄っていたその女性は、私の服装を一瞥すると、なにやら納得したような顔でポンと手を打った。


「城に呼ばれていたのですね。そうならそうと言ってくださいよ」

「き、昨日言った……と思う……」

「そりゃあ城に寄るとは言ってましたけど、午後まで戻ってこないとは思いません。神官さん、お茶を淹れますのでどうぞこちらへ」

「ああ、いえ……」


 流れるように応接室っぽい部屋に連れて行かれそうになって、「お構いなく」と断りを入れようとした。

 だがその前に、ソラルさんがガクンと上半身を傾げるようにして、職員らしき女性の私への視線を断ち切る。


「この人、俺の弟子! なので、その……大丈夫……」


 尻すぼみなんだけど、本当に大丈夫なんですかね。


 いかん。このままでは、おかしな角度に身体の傾いだソラルさんへと呆れたような視線を注ぐ女性に、勝手なシンパシーを覚えてしまいそうである。


 そういうわけで、とっととこの場を切り抜ける事にした。

 ソラルさんに「それで何すればいいんですか」と多少強引ながら話を進めるように振ると、例の如くモニョモニョとした口ぶりで、「協会に魔術師登録しておかない?」というような内容の事が聞き取れた。


◆ 


「はい、これで登録完了です」


 職員っぽい女性、アンリさんは間違いなくこの支部の職員を務めている人だった。

 ソラルさんに急にぶん投げられる形で私に一通り魔術協会や、協会員の責任事項、入会手続きの方法を説明してくれて、その手続きまでやってくれたのだ。


 魔術協会は、基本的には会員になった魔術師に仕事を紹介・打診するための組織らしい。

 会社じゃないので、会員は仕事を断っても構わない。けど5回以上連続で打診を断ると、協会に属する意思がないと思われて強制退会となるそうだ。

 一般会員であれば場所の移動も自由で、別に国外に行っても構わない。が、支部のある街に滞在するときは報告する決まりになっているという。


 ……要は、魔術師ギルドってことになるのかな?


 ざっくりまとめてみたが、ちょっと正しくないような気がした。

 なにしろ情報源がほぼ完全に学生時代に読んだラノベ由来なので、私のギルドってものに対する認識はとんでもなく曖昧なのだ。

 翻訳された言葉だと協働会、協力して働く会と聞こえるのは、それが一番私にとって意義が近い言葉だからなのだろう。


 まあ、基本的には仕事を求める魔術師が入会するもので、仕事をしなくても退会以外のペナルティは無い、という事がはっきり分かればそれで良かった。


 旅をするにも特にデメリットが無いように思ったので、師匠になるらしいソラルさんが勧めてくれた事もあって、即座に入会を決める。

 入会金は1500テトリ。安くはない額で、それがデメリットやペナルティと言われればそうなのかもしれない。


「ソラルさん、手続き終わりましたよ。それで、次なにするんですか」


 アンリさんが分かりやすく手短に説明してくれたおかげで、登録までにたいして時間は経っていない。


 なので、この後何をする予定なんだと、この場に書類仕事を持ち込んでまで同席していたソラルさんに声を掛けた。

 作業にのめり込むタイプなのか、書類仕事をしているソラルさんはそうするまで全く入会手続きが終わった事に気付いていなかったのだ。


「……ん? あっ、ああ、ごめん。その、アンリに聞いて、23番の任務ってやつをやってきて欲しいんだけど……いける?」


 え、初っ端任務なのか。

 魔力経路がどうとかって話とかは今日は教えてもらえないかんじか?


 別に、いいけどね。ソラルさんなんか今忙しいっぽいし、納得済みで入会した訳なんで。

 支部長の仰る通りに仕事貰う分には構わないよ、うん……。

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