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「やあ、お帰りなさい。予定より早かったですね?」


 徒歩でゆっくり『城』までやって来ると、城門から既に知らせがあったのか、懐かしの説明担当官さんが出迎えしてくれた……と、思う。

 相変わらず顔に布が掛かっているので、声と服装しか判別方法が無いから、いまいちそうと言い切れない。

 ほんの二週間ばかりの付き合いだし、会うのも一月ぶりな訳で、声とかもちゃんと覚えてる訳でもない。


 でもまあ、別の人が出迎えに来てたらこんなに親しげなのもおかしな話なので、多分合ってるだろう、多分ね。


「ただいま戻りました。なんか、思ったより魔術が上手くいき過ぎちゃって」

「おやおや。それにしては、あまり喜ばしそうではありませんね」

「まぁ……その、ちゃんと魔術について勉強してこいって形で、お世話になってた職場辞めることになって。それで早く帰って来たんですけど……」


 折り合いはつけたが、自分でこの話をするにはやっぱり少し気まずい。モゴモゴと事情を説明すると、説明担当官の顔の布が風もないのにふわふわと揺れた。こいつ、笑ってやがるな。


「あ、これ、お土産です」


 ひとまずジャムの入った包みを差し出すと、彼は首を傾げた。


「なんでしょうか」

「王都から護衛してきた人が作ったジャム」

「…………、……ありがとうございます」


 なんか変な間があった気がするが、何も言われなかったのでひとまず気にしないでおく事にした。

 じゃないと、いつまで経っても中に入れない気がする。


 ジッと説明担当官さんを見て視線で促すと、彼はよっこらせ、みたいな動きで方向転換した。「お部屋は以前と同じが良いでしょう」と言いながらようやく歩き出したので、私はその後に続きながら「ありがとうございます」と了承の意を返す。


 はあ、なんか、やっと戻ってきたような感じがする。

 実際のところここは異世界な訳で、全く()()()はいない。それは分かってるんだけど、この『城』は何というか……地球の気配が近いのだ。


 物凄く感覚的なことで、じゃあ地球にいた時そんな感覚あったのかと言われれば無いんだけど。

 あえて言うならば、帰省で地元では無いけれど、そこから少し足を伸ばした時に見慣れた景色が近づいた時の気持ちに似ている。

 元・地球の神の気配とかだったりするのかな。



「ほう、なるほど。勇者様と共闘を!」

「共闘ってか、単に体力切れでバテバテだったのを助けて貰っただけなんですけどね」


 部屋に腰を落ち着けると、説明担当官さんは早速王都での話を聞きたがったので、一通り語って聞かせた。


 王都の門番にめちゃくちゃ不審がられた話から、魔獣猟団への入団、最初の休暇で服に有り金全部叩いたこと、魔術をどんどん磨かせて貰って参加する事になった魔物退治。


「思い返すと、全部常識が無かった話なんですけど……」

「まあまあ。別に大した問題はありませんから」


 どこがだ。問題だらけじゃないのか。

 悠長な相槌を打った説明担当官さんはお茶をのんびりと飲んでから、ふぅ、と息をついて垂れ布を直した。前から思ってる事だが、いちいちその布上げたり下げたり面倒くさくないんかな?


「詳しくお話ししますと、そもそもこの神都はあまり地球と比べての『常識』をお伝えするには向いていないのです。世にも珍しい宗教都市ですからね」


 あー……うん。それはそうかもしれない。


 ここの生活は、あまりにも王都とは違う。王都の方がこちらのスタンダードな雰囲気だというなら、神都はかなり浮世離れしている、というような感じだ。


「知識としてはお伝えする事も出来ますが……王都であれば、あなたは安全に、且つここよりずっと効率的に、この世界についての理解を深める事ができます。王都の支部の者達による援助付きで、実体験としてね」


 それも確かにそうだ。ハルニヤさんは色々教えてくれたし、嫌な顔もしなかった。

 常識知らずも、害というほどの害の原因になった事も無い。

 勇者神教が全面的に面倒を見てくれていて、それでも問い詰められたら勇者と共に召喚されたと言えばいいとも伝えて貰っていた。そういやキダさん達が明らかに親身になってくれたのも、その話してからだな。


「なるほどね。まあ、別に怒ってはいないですよ。神田さんの()()の件もあったのは分かってますので」

「あなたはいつもご理解が早くて、ありがたい事です」

「――なんですけど。魔術についての常識に関しては、王都でもほとんど分からないままだったんで、どうにかなりません?」

「ええ。そちらに関しては、今ならこの城でも手配が可能ですので、そのように取り計らいましょう」

「ほんとですか。ありがとうございます」


 要求を切り出してみると、あっさりと承諾されたのでほっとする。

 今なら、という言い回しには少し引っ掛かったが、どうせ神田さん関連だろう。顔を合わすと色々面倒だったから、あんまり堂々とは魔術の訓練とかできなかった覚えがある。


「それと、こっちにも魔獣猟団みたいな組織があればなんですけど、紹介して貰ったりできますか?」

「お仕事ですか? こちらで? 王都までの旅費の用立ては可能ですが」

「観光してませんからね。働き口はあんまりないと言ってたのは覚えてるんですけど、魔獣狩りならどこの都市でもあるかと思って」


 二つ目の要求はすんなりとはいかなかった。説明担当官さんはふむ、とちょっと考え込んで、「確認します」とだけ言った。

 即決じゃないんか。なんかあるのかな。


 ……ま、決まらないことをそれ以上言っても仕方ないので、それは追々。確認するって言ってくれてるしね。


「じゃあ、後もう一ついいですか」

「はい?」


 咳払いをして話を切り替える。


 神都に戻ったら絶対聞こう、とずっと考えていた事があった。王都にいる間、何度早く聞いておけばよかったと思ったか分からない。


「お名前教えて下さい」

「…………あ、そういえば教えてませんでしたね。ミルサリです」


 はあ、これでやっと説明担当官呼ばわりをしなくて済む。自己紹介って大事だよほんと。

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