その声に呼ばれて
節電、節電、と声に出しながら消し忘れたトイレの電気を消し、冷房の効いたリビングに戻りかけると、
こっち――
と、物置部屋の方から男性らしき声が聞こえた。
私は思わず足を止める。
いつもなら、マンションの共用廊下側にある部屋だし、うちの前を通りかかった人の声だと気にも止めないのだけれど、今回は何かが気になった。
節電で昼間はリビングしかエアコンを使用していないから、その場に留まっていればすぐに汗がふきだすほど蒸し暑い。そして廊下は両側が壁なので日光が入らず昼でも暗い。
なんとなく空気が澱んでいるような気がした。
(最近は窓も扉も閉めっぱなしだったから、換気しようか)
と思いながら物置部屋のドアノブに手をかけ、
少し開いた直後に
ザー…
と、聞いたことのあるノイズ音が部屋の隅から。
(……ラジオ?)
何かの拍子にスイッチがはいったのかも、と考えながら、暖房器具や使わなくなった家具をよけながら、音のする方へ足を向けると、
ザー…
やっと
ザー…
き た
しわがれた男の声がすぐそばで聴こえ、全身が総毛だつ。
が、同時にその声を
知っている
と、あの夏の暑さを思い出した。
死にたくない、と
私の耳元で言い残した、
あの人のしわがれた声。
「――たかふみ、さん……?」
その声は、5年前に28歳という若さで事故によって亡くなった、元夫のものによく似ていた。
もうすぐ、命日だから――
恐怖より、不思議と懐かしさを感じ、“声”を探す。
部屋の隅に、シルバーの小型ラジオが転がっていた。
(あ、これ防災リュックにいれていたラジオ……なんでこんなところに)
防災リュックは少し離れた壁際に置かれているのに、なぜラジオだけ部屋の隅にあるのか――
2年前に再婚し、今のマンションに住み始めた。私の荷物の中に防災リュックがあったからそのまま使うことになって……
(そうだ、このラジオ)
私はラジオに目を落とす。
これは、防災リュックにラジオがないからと、貴文が購入したものだった。
貴文が亡くなって、再婚することが決まった時に思い出の品は処分した。だから、いま私が持つこのラジオだけが唯一の思い出の品ということになる。
ザー……
………
再び、聴こえる声。
けれど声が小さくて聴こえない。
ラジオを拾い、ボリュームをあげようとして、電池がはいっていないことに気づく。
そもそも貴文の声がする時点で、ラジオではないだろうと自嘲の笑みを浮かべたところで、
ザー…
ま だ
ザー…
い き
る
ザー…
か
わ
れ
ザー…
ザー……
♢ ♢
「ただいま。あれ? 部屋が真っ暗……寝ちゃったのか」
「おわっ! なんだ、起きてたのか! そんなとこに突っ立ってたらビックリするよ……」
「奈々?」
「……ああ…ごめんなさい。まだ馴染まなくて……」
「ぼうっとして、どうした? 具合でも悪いのか?」
「……大丈夫。なんでもないわ」
「帰りが遅かったから寂しかった?」
「ええ。ずっと一人で寂しかったの」
読んでいただきありがとうございました。
自身が一番苦手とする心霊系です。
声だけなので、挑戦しました。
最初で最後のホラー挑戦だと思います。
意味不明でしたらすみません。
少しでも怖いと思っていただけたら嬉しいです。




