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ある男の転生物語(?)    (友人とのリレー小説です)

突然ではあるが、俺は死んだらしい。



あの日、俺は会社でクソ上司に仕事を押し付けられ、

いつものように残業をしていた。

デスクにあるポテチを食いながらパソコンの画面とにらめっこ。

左手はポテチを口に運ぶという同じ動作を延々と繰り返す機械となり、

右手は文字をただひたすらに打ち込み、

目は打ち込んだ文を追いかける。


ガリッ、口から硬い感触を感じる。俺はその違和感を感じる前にそれを飲み込んでしまった。


慌てて、左を見る。

そこには、休み時間会社友達とやっていた将棋の道具がポテチの袋の隣に散乱して置いてあった。


そう。俺が飲み込んだのは将棋の駒だった。


苦しい。息ができない。


そして、俺は将棋の駒を飲み込んで窒息死した。

過去に将棋の駒を飲み込んで死んだ奴がいるだろうか?いや、いるわけが無い。我ながらこんな最期をとげるとは思わなかった。

窒息死するような大きさだ。きっと飛車でも飲み込んだのであろう。

もし、それが歩だったら、俺はただ腹をくだすだけで、死ぬことはなかったのかもしれない。なんとも運がない。

自分でも馬鹿だと思う。


だが、自分の最期をあれこれいわれるのは腹が立つ。そこまで笑うことだろうか?


俺の目の前には腹を抑え、転げ回る女神の姿があった。

流石に馬鹿にしすぎではなかろうか?


「流石に笑いすぎじゃないですか?」

「だって、将棋のw将棋のw駒で死ぬってww面白すぎでしょーwww

それを笑うなって言う方が困るんですけどーww

駒だけにねwwwwwwww……」

「分かりました、分かりましたからさっさと転生させて下さいよ

えっーと能力を、ひとつ貰えて魔法が使える異世界にいけるんでしたっけ?まさにラノベの主人公って感じ!」

「まぁ、将棋の駒で死ぬ主人公なんて聞いた事ないけどwwwプッー((( *艸))クスクス」

「もういいですから、はやく!転生を!」

「分かったわよw、能力はたぶん転生したあと、そのうち分かると思うから


じゃあ、いってらっしゃーい!…」


女神の言葉と同時に俺は青い光に包み込まれていった。

眩しい…、俺は眩しさのあまり目を閉じた。

すると、鳥のさえずりが聞こえた。目を開けるとそこは森の中だった。

<第1部終了>




「ここは一体どこなんだ…」

見渡す限り一面木、木、木、

ああ、そう言えばあの散々俺のことをバカにした女神に転生させられたんだった。

今度会ったらタダじゃ済まさねえかんな。


それはさておき、

ついに待ちに待った異世界ライフの始まりだ。

まさか俺が本当に転生することになるとは思ってなかったな。

果たして一体何に転生したのか…

こういう時って大体

「特別な能力持ってるスライムになったり、かっこいい勇者になったりして、仲間見つけて悪魔を倒そー!」

って感じのやつだよな。

自分はどんなに素晴らしいものに転生しているのか、

胸を弾ませながら近くにある水溜りに反射する自分の姿を覗いてみた…

あれっ?

〜〜俺の特徴〜〜

①体は五角形でテッペンだけ尖ってる。

②前には「歩」の文字。

③背中には「と」の文字。

\(^o^)/オワタ

多分俺は飛車ではなく歩を飲み込んで死んだんだろう…


なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、

「どうして歩なんだよ!もうちょいマシな駒あっただろ!

 金駒とは言わないからせめて桂馬ぐらいにしてくれよ!」


…………………ちがう、

そんなことはどうでも良い、

なぜ駒なんだ

あいつ、覚えとけよ

そう言ってゆっくりと一歩を踏み出した、


『▲2六歩』

<第2部終了>




100手ぐらい進んだのだろうか。しんどい痛い辛い苦しい。無差別に蹂躙され、裏切る事、同胞を殺す事、自殺する事すら強要された。俺はそれを拒まず「笑顔」でやってのけた。まぁ薄汚れているお面を付けているだけだが。そう考えるとこれまでの事が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。    ────中学で俺はいじめられた。それから俺は感情を捨て、演技をしながら生きていこうと決めた。高校で本当の感情を表に出すことをやめ、偽りの感情で人と接した。そのおかげで友達は多くなったが、所詮は偽りの友達だ。大学入ったらもう会わなくなった。そして俺はやりたい事も見つからず適当に就職した。そこがひどいブラック企業だった。朝も夜も働き続け、クソ上司のパワハラにも耐えて耐えて耐え続けた。そして職場にできた偽りの友人と大して面白くもない将棋を休憩時間にやり続け、ポテチを食べ続け、キーボードを一定のリズムで叩き続け、ついには死んでしまった。……我ながらクソみたいな人生だ。あぁそうだ俺は他人の顔を窺い続けここまで来たのだ。もう吹っ切れた。数秒前まで罪悪感が心を侵食していったが、どこか行ってしまったみたいだ。もう俺は何言われようと言いなりになり続ける。これが俺の生き方だ。………今なら出来るな?俺がこの地に生まれてすぐ気づいた違和感の正体を今執行しよう。「解き放て!俺の力!!2七歩成!!!!」

<第3部終了>





--------あれからどれだけの時間がたったのだろう?

俺は言われた通りに動く。

その繰り返し。

おれは、何のために生まれ変わったんだ?

おれは、何のためにここにいる?

いや、考えなくていい。

何も考える必要はない。

そういえば、まだあの女神(クソアマ)をぶん殴ってないな…

そんなことを思いながら、俺の意識は深い闇に沈んでいった。

<第4部終了>





ここはどこだ?順番に記憶を洗い出して見よう。俺は転生して駒となって、将棋のような事をしていて、途中で何が何なのか分からなくなり、果てしない常闇に沈んでいったのだった。………そう言えば思い出した。何が何なのか分からなくなりながらも見つめていたその景色を。─────俺は終局するのを見てしまった。俺の王様が死ぬ所をはっきりと見た。敗戦だ。自分も死んだみたいだ。そりゃあ不死身とはいえゲームが終わったら死ぬのは当然だろう。だがそれでも涙が止まらない。前世では死んでも泣かなかったのに。………ひとしきり泣いたあと我に返り死後の世界を歩き出すことにした。『△8四歩』

<第5部終了>






俺はこれから何をすればいいんだ...........王は死んだ。俺も死んだ。ここはどこだ?

でも、なぜ俺はまだ意識がある?死後の世界を歩き出す?死後の世界なんてあるのか?死後の世界があるとしたら、なぜ前回俺は死んだ後、死後の世界にいくのではなく転生した?

自分の足元をみる。そこには、同胞達の死体が転がっている。いつも元気だった飛車くん。ずるばかりする桂馬くん。脇腹のこちょこちょに弱い銀ちゃん。

あーなんで俺たちは負けたんだ。まさかあそこで角の野郎が攻めてくるとは.....


ん?おかしい。俺は今回の戦いに見覚えがある。角が攻めてくることも知っていた。なぜだ?


その時、俺を何かが掴んだ。そして、俺をその箱からそれは取り出した。

俺はゾッとした。なぜなら、俺を掴んでいるのは俺自身だった。いや、正確にいえば昔の俺の指だった。昔の俺はこちらには視線を向けず俺を口に運ぼうとしている。気づけ!俺はポテチじゃない!歩だ!

俺は必死に抵抗する。だが、昔の俺の指はびくともしない。どうすればいい?

その時、俺はあのくそ女神の言葉を思い出した。あいつは確か魔法の世界に転生させるといっていた。魔法ってなんだ?この世界で魔法を使うことが出来るのか?また俺は俺を食って死ぬのか?

<第6部終了>






視界が暗くなった。

何か硬いものが俺のことを押し潰そうとすると同時に、これまで感じたことのない激痛が全身に走る。


「痛い…」


あぁ、また前世と同じ運命か、

まあそんな簡単に運命に抗えるわけないよな、

運命は当事者がどうしたとしても、変えることのできない物なのだから。

では来世はどうなる?

何十年、何百年と同じ運命を輪廻し続けるのだろうか、

そう思った瞬間、言葉に出来ない恐怖が俺の中を駆け巡った。

前世で会社の奴隷となって働き、今世は運命の奴隷となってずっと同じ事をし続けるのか?

それだけじゃない、いつも王は、「突き捨て」とか言って真っ先に俺のことを見捨てるくせに、俺が持ち駒にいなかったら、「歩切れ」とか言ってあたかもそこにいない俺が悪いかのような言い方をしやがる。

俺は王が死ぬのを悲しんだ。

だが、王は俺のことを自分の都合の良いように扱い、いざとなったらすぐに見捨てる。

俺は、前世でも今世でもいつも何かの奴隷だった。


本当にこのまま運命を受け入れてしまって良いのか?


本当に運命に抗うことはできないのか?


誰かによって決められたレールの上をただ歩くだけの運命でいいのか?


そんなの……



『イヤだ!!』



俺は誰かの奴隷になる為に転生して来たんじゃ無い、

それじゃぁ、これまでの誰かの言いなりになってただ黙々とその指示に従っていた自分と何一つ変わってないじゃないか、

俺は自分の意志を持って自分のやりたいように生きる。

気安く、知らないヤツに俺の運命を決められてたまるか!


「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!!」


激痛に耐えながら、上下に閉ざされた歪な扉を開けようとする。

それは意味のないただの悪あがきかもしれない、

それによって何も起こらないかもしれない。

いや、何も起こらないことの方がほとんどだ。

だが、その運命に抗い続けたとき、そこに一筋の光が照らす。

今、その重い扉が開こうとしている。



「クッ、力が入らない、もう少し、もう少しだ!」

光がだんだんと大きくなっていく、

それと同時に意識が遠のいていく…



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「うっ、眩しい…」

どれだけの時間眠っていたのだろう、

目を開けるとそこにはあの時とは違う、明るい世界が広がっていた。

「俺は…やったのか…?運命に…抗うことが…できたのか…?」


女神がくれた魔法は、アニメやラノベで見た特別な魔法では無かった。

しかし、「運命に抗う」という到底成し得ないことができたのは、

俺にしかできない、女神がくれた特別な「魔法」のおかげだろう。



「ありがとう、感謝してるぜ」



そう言って新たな一歩を踏み出すのであった。

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