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4 「深くものを見る」ことをうながすもの

 「アウトサイダー」には独特な能力が備わっている、と私は考えている。それがどういうものかについては、ここまでで、部分的には示せたと思う。

 ただ、どうやって「アウトサイダー」になるのかということについては、現時点で、私には明確な考えがない。(コリン・ウィルソンは「十九世紀に人類の一部におこった奇妙な変化」を理由の一つにあげているようだが、私はそれを採らない。そんな大仰なことだとは思えない。)

 確信はないが、私の場合は、何か小さなことで自分の心の中の思いこみや誤りに気づくことが最初のきっかけになったのかもしれない。自分や周りの人々がそうだと思いこんでいることが、実はそれほど確実なことではないと気づいたせいかもしれない。そして、もっと分かりたいという気持ちになり、次第に様々なことに気づくようになったせいかもしれない。そして、たぶん十四歳くらいで、何かの壁を乗り越えたと自覚した。


 おそらく、「アウトサイダー」は探求者である、とは言えるだろう。人には見えなかったものを見ようとしている人々である、と私は考える。

 フランツ・カフカの『城』という小説には、そのあたりのことが表れていると思っている。主人公のKが視線を向けているのは、自分のすぐ目の前にある現実である。Kは村(城の領地)に到着し、そこで次々と直面する事態にどうにか対応し、城へ向かおうとするが、たどり着けない。Kが何者で何を目的としているのか、城が何であるのか、は明かされていない。分かるのは、Kが城に行くために、ああでもないこうでもないと奮闘しているということだけである。

 おそらく、人よりものが見えているせいで、カフカにとっては、目の前にある現実は不可解(不合理)に感じることが多すぎて、すなおに受け入れることが難しいものなのだろう。何とか自分の望みを実現しようとして、目の前の現実がなぜそうなっているのか、どうすればうまく対処出来るのか、などを追求せずにはいられない。そのやり方を見ていると、少し馬鹿正直な気もするけれど。

 一方で、フランツ・カフカの『変身』という小説を読めば、カフカが自分のことを特異な人間であると自覚していたのも明らかだ。「アウトサイダー」は理解されがたい存在である。「アウトサイダー」はいったんなってしまったら、抜け出すことが出来なくなるものだと私は考えている。


 コリン・ウィルソンは人には見えなかったものを見えるようにすることが出来る人であった、と私は考えている。人が気づかないことに気づき、その現象を解明してみせることに長じていた。

 コリン・ウィルソンは、「アウトサイダー」は深くものを見ることで、至福のヴィジョンを見ることが出来るとしている(同意)。しかし、繰り返しの多い日常の生活はそれを阻害し、「アウトサイダー」を疲弊させるとしている。充実した人生を送るためには、さらに自己実現を達成しなければならない、とも考えていたようだ。

 「アウトサイダー」という存在に対する概念に関して、コリン・ウィルソンと私とでは大きな差異がある。それはおそらく、『アウトサイダー』を著した頃のコリン・ウィルソンが、「深くものを見る」ということ自体よりも、「アウトサイダー」が置かれている否定的な状況や彼らの心の状態(時には病状)に関心があったせいだと考えている。正直なことを言えば、『アウトサイダー』を最初に読んだ若い頃はともかく、今の私はそれらに関してほとんど興味がない。『アウトサイダー』で書かれていることが、「深くものを見る」という意味での「アウトサイダー」に必ず起こる現象であるとも、「アウトサイダー」以外の人々に起こらない現象であるとも、思えないからだ。(このあたりの考察は、最近の、あくまで現時点での認識である。)


 私は、より「深くものを見る」ことに興味がある。至福のヴィジョンを得ることは拒まないが、それを目的としているわけではない。また、自己実現のような終点に到達することを期待しているわけでもない。そもそもそれが存在しているかどうかも分からない。日々少しずつ進み続け、どこかにたどり着き、そして、またその先に広がっている風景を見られたらいいな、と思っているだけである。



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