001日目:朝「風呂に入って誕生日を迎えたら全裸で無人島にいた」
書き溜めはないので不定期更新です。
誤字脱字等の報告があればよろしくお願いします。
太平洋上の豪華客船で俺は30歳の誕生日を迎えた。
俺の名前はダイザン・リキ。漢字で書くと大山・力だが、みんなオオヤマと間違えるのが悩みだ。
俺はつい先日100億円の宝くじに当選して、これから始まる豪遊生活の景気づけに豪華客船での世界一周旅行の真っ最中だった。
「気持ちが良い、備え付けの入浴剤まで豪華だなあ」
一番高い一等客室での無駄に広い湯船の中で思わず独り言が漏れる。真っ白い入浴剤を惜しみなく入れたお湯が肌をプルプルにしてくれる感触がある。
この旅行が始まるまで数ヶ月の猶予があったから俺は個人指導のトレーナーを雇って体を鍛えて日焼けサロンに通い、大食漢で大柄だった肉体に相応しい筋肉と健康的な小麦色の肌を肌をしていた。
髪はザックリ短くしてイケメンではないがデブから脱却して体育会系にはなれたと思う。
働かなくて良いから生活が乱れて日付が変わる深夜まで起きてしまったが誕生日祝いで船内の様々なサービスが受けられるらしいから風呂が終わったら寝よう。
そんなことを考えつつ左腕に装着したスマホをいじって浴室の壁に設置された大画面で俺はサバイバル生活の動画をボンヤリと眺めていた。
石を割って石器を作り出し、木から枝を切り出して蔓で枝に割った石を縛り付けて石斧を生み出して今度は枝ではなく木を切り倒す。
石と木で道具を作って小屋の材料となる材木や屋根となる葉、縛りつける蔓を次々と伐採して量が揃ったところで地面に4つの穴を掘って材木を差し込んで柱にして横に材木を添えて蔓で縛って壁を作り手作業で小屋を作り出していく。
動画の編集もあるだろうが無駄の無い手作業の美しさにうっとりしていると左腕のスマホに通知音が流れ出した。
このスマホは船内の生活を補助するためのもので世界中の金持ちが集まる船内の通訳代わりに最新の翻訳アプリを内蔵し、完全防水と耐衝撃を兼ね備えて左腕に装着したアームベースから取り外した背面にはソーラーパネル、ケースの外側には小さいが発電用のハンドルも備え付けてあって、この船が寄港地に着いた時に下船して迷子にならないようにとの配慮らしい。
クレジット機能もあるから船内では財布がわりにみんな持ち歩き、乗客同士で仲良くなったら名刺がわりに船内専用のSNSアプリで繋がり合うなど船内のインフラを担う重要な端末だが、この時間帯に通知が来るアプリにあまり心当たりはなかった。
警告:嵐が接近中、予定コースを迂回して回避しますが次の寄港地には期日通り到着する予定です。
迂回コースに入るまで展望デッキの外出はお控えください。
スマホをタップして通知の詳細を見ると嵐が来るらしい、さらにタップすると近海の地図と予定コースと迂回コース、嵐の予定進路が表示されたが明日の朝には迂回出来るようなので特に問題はなさそうだった。
窓を閉じていたことを思い出したので、浴槽の横にあるスイッチを入れると、二重ガラスの間にあるシャッターがゆっくりと開いて夜の海が見えて来る。
同時に遠くの海で雷の光が見える、窓から飛び込んで来た雷光で一瞬真っ白になる浴室。
「おー光る光る」
雷を見ながらの入浴も風流な気もして眺めてると次々に雷が落ちていきその度に浴室内が真っ白になる。
段々と雷が落ちてくる間隔が短くなり落雷の音も大きくなって船に近づいてるようだった。
「迂回してるはずなのに近づいてる?」
怪訝に思いながらいい加減浴槽を出ようと立ち上がった時、一際大きい雷光で目がくらみ足を滑らせた俺は横になった全身が入るほど大きな浴槽内に仰向けになるように倒れ込んでしまう。
つま先から頭の天辺までお湯の中に沈みながら目を開くと室内がいつまでも雷光の白い輝きに満たされたままで、手を伸ばして浴槽の縁を掴もうとしても力がどんどん抜けてそのまま俺は意識を失ってしまった。
背中がジリジリと熱で焼かれる感触で気がつくと俺は全裸で誰もいない無人の白い砂浜に打ち上げられていた。
浴室にいたのになんで砂浜に?もしかして船にあのものすごい雷が落ちて嵐に飲み込まれてその時に窓が割れて浴室から投げ出されたのだろうか?それとも脱衣所へのドアが空いてさらに廊下へのドアが空いて横転でもした船の揺れで投げ出されて……
馬鹿らしい、あの頑丈そうな窓が滅多なことで割れるわけ無いだろうし割れたとしても全裸だった自分が通り過ぎる時に窓枠に残った破片で怪我をしていてもおかしくない。廊下まで投げ出されるのもないだろう。
考えながら体に異常がないか手でアチコチさすってとくに打ち身や切り傷などは感じない。
全裸で砂浜に投げ出されるなどこの異常な事態に理由があるとしたら俺の誕生日へのサプライズだろうが
旅行のチケットを購入するまえに調べたからこんなバースデーサービスはなかったハズだ。
「とにかく何か着るものと、それともスマホで連絡を……」
そうつぶやいた時、俺は左腕にスマホがないことに気づいた。左腕に装着したアームベースから本体が外れたとかではなく、綺麗サッパリ左腕に何もなく俺は正真正銘の全裸だった。
スマホがない、現代人にとって全裸と同じかそれ以上の不安感が俺を襲っていた、絶対に無くすはずがない最後の生命線が手元にない事に気づいて慌てて周囲を探し始める。
目の前、便宜上北とすると砂浜に、土、草、そしてヤシを始めとした熱帯植物の林が続いてその奥は見えなかった。
左手側、便宜上の西を見ると海岸線の端っこが崖と岩場になっている、崖は北上して西沿いに回り込んでいけば、崖の上に行けそうだが海岸線に沿って歩けそうにはない。
右側、便宜上の東にはどこまでも海岸線が続いていた。後ろ側、便宜上の南は何処までも青い海で船の一隻も見当たらない。
「何もないのか……いや、あった!!」
周囲に何もないと途方に暮れて俯くとちょうど足元にスマホがあった、慌てて拾い上げて親指を押し当てて指紋認証を起動させると朝の六時と表示されホーム画面になった、間違いなく俺のスマホだ。
「滅多なことで外れないのにアームベースのベルトが外れた?いやでもベルトは輪っかのままだな?」
腕から外れて落ちたならアームベースの端と端にある二本のベルトは固定された状態で輪っかを作ったままだった。緩んで外れたかと思ったが外さないと再装着できそうになかった。
「今はそんなことどうでもいいか、電波は……来てないか」
まるで誰かがスマホを腕から外して再度ベルトの留め具をはめ直した上で俺の足元においたような人為的なものを感じたが今はその考えを忘れるかのようにスマホをチェックするが生憎、Wi-Fiしか対応してないのか外部に連絡が取れそうにない。寄港地ではその国用のモバイルWi-Fiをオプションとしてスマホに装備する予定だったから衛星電話機能のような便利なものはついていないらしい。
「仕方がない、何か着るものを探して誰か人を探そう」
誰かが隠れて俺を観察してサプライズでしたと飛び出してくるのをちょっとだけ期待しながら
独り言を言いながら北上してヤシの木に近づいた、緑色の枯れてないヤシの葉が何枚か自然に落ちてるからそれで腰ミノでも作ろうと思ったからだ。
「あ、熱!、砂浜熱い!!」
波打ち際は波で濡れてそうでもなかったが、真っ白な砂浜は太陽の熱を吸収して素足で歩くには熱かった
俺は我慢しながら砂浜の上を通り過ぎて疎らに草が生えた土の上に逃げ込む。
土の上は草が水分を蓄えているのか熱くはなかった、そのままヤシの木に近づいて葉っぱを手に取る。
ヤシの葉は長い枝というか茎というかから細長い葉を何本も左右Vの字状に生えている
俺は其の辺にあった石を握りしめながら岩に叩きつけて石を割って鋭利な部分をつくり、平らな岩をまな板にして茎部分を縦に切り裂いた、ついでに先端の葉っぱをちぎって枝部分を露出させて紐状にし、腰に巻きつけて縛ってみる、少し長さが足りないから切り分けた片方を半分だけ重ねて結びつけて延長し
重なって葉が多くなった部分で股間を隠して腰に巻き付ける。
もっとちゃんとした服がほしいが明るいうちに誰かを見つけたい。もし見つからなかったら……最悪の場合を想定して俺は其のへんにあった枯れ枝やヤシの木の皮等をを日当たりに良さそうな岩において石で端を押さえて風で飛ばないようにする。
もし誰にも会わずに野宿するようになったら火をおこす時に乾いた草木が必要になるだろう。
本当は3日ぐらいかかかるらしいが、こうやって乾かしておけばいくらかマシになるだろう。
俺はコレを使わないことを祈りながら近くにあった大きなフキの葉を石で切り取って、葉を足で押さえ太い茎の部分を足の親指と人差し指の間で挟んで適当な長さで茎を切る。
葉をすべて落としたヤシの葉の茎を紐変わりにしてかかとで抑えてるフキの葉に茎を通して足首と下駄の鼻緒のようなフキの葉の茎を縛り付けて簡単なサンダルを作り出した。左足の分を作ると結構な時間になってしまったが仕方がない。俺は其のへんにあった手頃な枝を杖にし、岩で割った石を握りしめて東側の海岸線沿いに歩き出した。サンダルがいつ壊れるかわからないので波打ち際を歩きたいのと港や川がないか海岸線沿いなら迷わず戻ってこれるだろう。
ダイザン・リキの所持品
スマホ
ヤシの腰ミノ
フキのサンダル
良い感じの枝
割った石
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