1:スクールライフ・ウィズ・ダンジョン
私立明星学園。異界出現まもなく『新時代を切り拓く人材の育成』を掲げ発足した学校法人。
学科平均の偏差値は70を超える名門。特に異界、魔術研究、探索者の育成に力を入れており、特 級 科の存在はその最たるものだろう。
(ちなみに異界工学科の偏差値は60と少し。学園内だと一番低いんだよね……)
全国から優秀な生徒が集い、倍率はトップクラス。受験は全力を出したと思ってるけど、それでも合格できたのはそこだけだった。
校門を抜けて教室に向かう。大学のキャンパス位広い校舎、校門を抜けても教室は遠い。
制服はもう前を開けておくことにした。どっちみち視線は集まるから、じゃあもう楽なようにする。
「由良クン……おはよ」
「うん、おはよう」
「おはよう由良。色々大変だろ、困った事あったら言えよ。」
「……ああ、ありがと。」
教室に入れば飛んでくる明るい挨拶。
姿が変わって、今まであんまり話さなかった人から挨拶されるようになった。なんだか妙に優しくされるようになった。
先週揶揄ってきた奴らだって、学校では雑談するけど、別に放課後遊んだりはしない程度の仲。
悪い変化じゃないとは思うけど。
「おは夏希!
今週のチャンプもう読んだ?」
「おはよう。
猛じゃないんだから、登校前に買ってきたりしないって。」
今まではなんとなく席が隣だから付き合ってただけだったんだけど。今でも変わらない猛が癒し。
担任がやってきてホームルームを終えたらもうすぐ授業。
担任と入れ替わりで、扉をやってきた初老の教師が教壇に立った。
「このクラスも殆どが十六になって登録済みですから、異界関連の授業も本格的になって行きます
ちゃんとついてきてくださいね。」
当然だけど、通常の科目に加えて異界関連の授業もある。まだまだ入り口の単元だけど。
「本日は等級について。
獣滅から竜滅まで三段階なのは習ったと思うけど、階級が上がると具体的にどうなるかは習ってないでしょ。」
「アレっしょ、等級が上がるほど深度が上のダンジョンに入れるって奴。」
「言葉遣い以外は正解ですね、三部君。
登録しただけの等級無し探索者は簡単な異界にしか入れませんが、等級を取得する事で様々なダンジョンに入れるのです。」
黒板に書き込まれていく等級と深度の図。
等級なしだと深度10以下、獣滅で30、鬼滅で70、竜滅で制限なしと。
「ですが、それだけではありません。」
それ以外はどうなるんだったか。教科書をめくりながら答えを探してみるけど、見つける前に他の生徒が手を上げる。
「じゃあ田中君、答えてみなさい。」
「案件受注、連盟所属が可能になる───ですね?」
「そんなにかっこつける事じゃないけど、合ってるよ。獣滅等級からは案件を受注出来ようになるんだ」
「例えば危険な魔物の狩猟、アイテムの納品、落とし物の回収など───ですね?」
「めげないね田中君。合ってるけど。
魔物狩りよりずっと割が良いから、案件が受注できるようになったらこっちが主流になるよ。」
教科書の記述にも目を通してみれば、こう書いてあった。
魔物を狩るだけじゃない、異界探索の専門家として出来る事全てが探索者の仕事だって。
「そして獣滅等級から所属できる連盟と言うのは 「管理局が主催する探索者の連盟───ですね?」
「……うん、その通り。
そこに参加する事で管理局からの高難度案件を受けたり、大規模探索に参加できるようになるんだ。
連盟員が俗にプロと呼ばれる探索者だね。探索業で生活してるって意味では、それに限らないけど。」
テレビに出てるアイドル探索者とか、動画投稿サイトで活動する探索者なんかも、確かに等級に関わらず探索業で生活してる。
例えば──
「"君と一緒に成りあがる"をコンセプトに集まった24人のアイドル探索者グループDGN24や、ローパーを調理し食すという奇想天外な動画を投稿し一世を風靡した異界飯Channel等
───ですね?」
「詳しいね。そろそろ尊敬してきたよ。
今は本当に探索者の形が多様になってるからね。老人は驚いてるよ。
そのアイドルなんてやってることは24人でうさぎを殴ってるだけなのに応援しちゃうし、すごいよね。」
……田中の奴すごい語るなぁ。先生もアイドルを見てるとは思わなかったけど。
それから四限の授業を終えて昼休み、教室は何となく居心地が悪くて、人気のない場所を探して過ごす。
午後の授業も終わってもうすぐホームルーム。部活とかには入って無いから、特に決まってやることは無い。
担任が連絡をして、最後に。
「由良、三部、お前は生徒会から呼び出しだ。」
「「……え!?」」
「身構えなくていい。むしろ褒められるんじゃないか。」
思い当たる事があるとすれば、あの異界での出来事だろうか。管理局の人にもお礼を言われたし。
でも、生徒会が呼び出されるぐらいの用事だとも思えないし。
……そもそも生徒会に呼び出されること自体は、純様に会えるという事だから、嬉しい筈なんだけど。
「良かったじゃん由良!頑張って来いよ!!」
クラスメイトの一人が勝手に盛り上がっている。
それだけじゃない。クラスメイトの好奇の視線が一斉に自分へ集まっている。
(行きたくなかったら、俺が適当に誤魔化しとくぜ?)
猛が小さく耳打ちする。大丈夫、心配ないと答える。
わざわざこんな気を聞かせてくれる理由、それは。
(一回フラれただけだし、そんなに引きずらないよ。)
既に、一度告白して見事に玉砕しているのだ。
しかも今はこんな姿になっている訳で、心の準備が出来ていないし、出来れば遠くから眺めて居たいのも本音だけど。
どうせいつかは、会うのだから。そのためにここに居るんだから。
大丈夫。多分。