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5:サキュバスのステータス





 ローパーを倒して一息ついた頃には、体液の影響はかなり落ち着いていた。

 さっきまで立つことも出来なかったけど、もう立って着替える位は出来る。



「こっち、見るなよ」


 

 猛に背を向けて、粘液塗れで張り付くローブを脱ぐ。そう言えば、元々着てた服はどうなったんだろう。装具の呼び出し方は覚えたけど、戻し方はどうだっけ。

 魔術装具(マギア)を呼び出した時に衣服が消えて、何処に行ったんだ。あれ、なくなったって事は無いよね?

 一度脱いでぐちゃぐちゃになったのをもう一度着たくないし、でも寒いし、そもそも猛がすぐそばに居るし、どうしよう。



「……ま、夏希ちゃんは初めてだもんな?

 端末(ステホ)のアイテムボックス開いてみ。」



 言われた通りに端末のアプリ、アイテムボックスを開く。

 アイテムボックスは、異界内で手に入れたドロップアイテムを魔力に変換して異空間に保存してくれるアプリだ。牙うさぎ(ヴォーパルバニー)からドロップした魔石もこれに仕舞ってあるし、この装備も元はこれに仕舞ってあったものだ。

 と言う事は──やっぱり。ローブと杖と黒帽子が在ったところに、もともと着ていた衣服が表示されている。



「えっと、召喚(ロード)!」



 その表示をタッチして、召喚(ロード)と声に出す。魔術装具(マギア)を呼び出した時と同じように光に包まれて、晴れて、今度は下の衣服に戻った。



「学校のジャージじゃん。夏希ちゃん、流石にちょっと色気なさすぎなーい?」

「だって今までの服殆ど着れなくなっちゃったし、これぐらいしか────」


 

 ちょっと待て。猛はなんで、服を戻せなくなってるのに気づいたんだ。

 ずっと、見られてた?脱いで、寒くて、震えてたところ全部?


 脱いで椅子代わりにしていた兜は向こうを向いてるけど、猛の体はこっちを向いてる。見られてた、絶対。



「……見るなって行ったのに。」

「何時まで経っても終わったって言わないし、心配するじゃん?

 ヘーキヘーキ、夏希ちゃんはタイプじゃないって。」

「………………」



 そう言う問題じゃないし、そもそもタイプならなんなの、って思うし。

 でも心配って言われると何も言えなくなる。そもそも、約束を無視して勝手にここまで来たのは自分なんだ。

 助けてくれた時も、人をとらえて弄ぶ自分より大きな魔物に立ち向かってくれたんだ。絶対怖かったのに。

  


「良かった、無事でしたか!」



 その声と共に木々をかき分けて現れたのは、管理局の制服きたおじさん。そう言えば、何かあれば救助が向かうと言っていたっけ。



「友達が見つかったんですね、本当に良かった。」



 おじさんは猛の顔を見て、ほっと一息ついて笑顔を見せた。



「変異種が出現したから異界には入れないと言ったのに、強引に入られて本当に肝が冷えましたよ。

 友達を探すためとは言われても、変異種は君一人でどうにかなる相手じゃないんです」



 猛は、自分を探すために、危険だとわかってるここまで来てくれたのか。

 ……そんなに、心配してくれてたんだ。



「変異種に見つかる前に、早く退散しましょう」

「大丈夫っすよ。そいつ、もう倒しちゃったんで!」

「冗談を言わないでください。もうすぐそこに──」



 おじさんの胸ポケットの端末から通知の音がした。それを確認したおじさんは、目を見開いてこっちを見た。



「変異種の反応が消失?……ありえない。

 あの変異種はレベル50を超えていたのですよ!?プロの鬼滅等級(シルバークラス)でようやく倒せる相手なのに!」

「えー、結構あっさり倒せたっすよ。サクッと。」

「……失礼、記録(ログ)を確認させてください。」



 記録(ログ)、そう言えば端末の機能の一つにそんなのが在ったっけ。探索の記録を簡易的に記録してくれるんだとか。



「冗談なんか言わないっすよ。ちゃんと倒してなきゃこんな風に笑えねぇっす。

 ほら、夏希もこっち来いって。俺の活躍がマジだって見てくれよ!」



 猛は記録(ログ)を画面に表示し二人に示す。

 『牙うさぎ(ヴォーパルバニー):LV1』を倒した。8の経験値を取得した。そんな記録が並ぶ一番下、細心の所にはこうあった。『変異ローパー:LV3』を倒した、と。



「ほら、マジマジマジでマジだったっしょ!!」

「レベルが、いやしかし変異種であることは確かで、反応は消えているし……

 何らかの要因で、変異種のレベルが下がったのか?

 申し訳ないのですが、貴女の記録(ログ)を確認してもよろしいでしょうか。」



 おじさんの視線は当然ながらこちらへ。

 隠す事なんてないし、自分だって何が起きたのか気になる。端末を三人に見える様に持って記録(ログ)を表示した



 『牙うさぎ(ヴォーパルバニー):LV1』を倒した。『魔石:極小』を取得しアイテムボックスに保存した。

 『変異ローパー:LV52』に『特性:レベルドレイン』が発動した。242035の経験値を奪った。

 『由良夏希:LV1』はLV4になった。



「あー……なるほど、そりゃサクッと行くわけじゃん。」

「……レベルドレイン、そんな物は初めて聞きました。

 記録ログにあるという事は、本当に変異種のレベルが下がったのですね。」



 やっぱり、あの時レベルドレインが発動してたんだ。

 上がらないと思ってたレベルもあがってる。あんな思いをしたけど、そこは救いだろうか。



「礼を言わなければなりませんね。今、この支部には変異種を討伐できる探索者はいませんでした。

 誰にも被害が出なかったのはお二人のお陰です。」

「そんな、事。僕は良いようにされてただけですし、魔法もたまたまです……」

「謙遜しなくていーのよ夏希、こういう時は胸張れって!」

「貴方にも、改めて礼を。貴方があれだけ無理をしなければ、彼女はもっと傷ついていたでしょう。

 私は念のため周囲を調査してから帰還しますが、お二人とも本日はゆっくりお休みください。」



 そう言われると、身体が疲労を思い出してどっと重くなる。

 おじさんにもありがとうと言って、異界(ダンジョン)から出る事にした。

 

 帰り道は本当に平和。飛び出す牙うさぎ(ヴォーパルバニー)はビンタすれば飛んでいくし、時折顔をだすローパーも手のひらサイズ、怯えて近づいてこない。 

 異界を出ると、管理局の外は夕焼けに染まっていた。



「そう言えば、猛の考えてた方法ってどんなのだったの?」

「うさぎって、年中発情期って言うじゃん?

 じゃあうさぎに触れば発動すんじゃね、って閃いたワケ。」

「そんな事だろうと思ってた……あほ。」



 こうやって朱色の空を見ながらする他愛ない会話が、今はこの上ない癒し。

 一度は、二度と異界から出られずに苗床になるとまで思った。けどこうやって空を見て、いつもの街並みを見て。へらへら笑う、猛の横顔を見て、生きてるって思える。

 

 交差点を超えて、校門を超えて、二人の帰路は分かれ道に差し掛かる。


  

「そうだ、帰る前にステータス見せてくれねぇ?。

 Sランク、なかなか上がらないレベルが上がってどんなもんよ」

「あ、疲れて確認するの忘れてた……

 オレも気になる。一緒に見よう」



 端末に表示するステータス。見て、固まる。

 だってそこに並んでいるのは、ありえない数字で。



「これ、マジなん?バグってね?」

「オレもわかんない……」



【LV】:4

【HP】:700

【MP】:5000

【筋力】:70

【体力】:59

【魔力】:1720

【俊敏】:63

【魔防】:1244



 レベルは三つ上がっただけなのに、能力値が何倍にも膨れ上がってる。

 えっと、確か十六の探索者の平均能力値が20だから、魔力系に至っては意味が分からない数値になってる。四桁なんて聞いたことも無い。

 もしかしてこのスキル、レベルさえ上がれば超チート? 


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