2.5:セイ・リアル
「私からの話は以上なんだが。少し、由良君だけ残ってくれないか?」
「……なんで、夏希だけ残すんすか。」
「彼に起きた変化について、少し話をしようと思ってね。
赤裸々な話題にも触れるだろうから、できれば二人で話したいんだ。」
猛は思ってることが全部顔に出る。口をとがらせてなんとも不服そうにして。
「……それなら、オレは平気です。
猛になら、別に何を聞かれたって大丈夫ですし。」
「そうか。君がそう言うのなら、構わないのだが。」
自分だけ入れない話題があるというのは確かに良い気分じゃないと思う。
この身体についても、猛には説明してあるし……一番見られたくない所までもう見られてしまってるし。
「ありがとよ夏希。俺だけハブとかマジやだし。
ささっ、姉さんまた話しちゃって話しちゃって。」
「君も良いというのなら、良いのだろうか。」
少し困惑しつつも、純様は話し始める。
「先生方から聞いたよ、種族変化スキルのせいでまるっきり身体が変わってしまったと。
Sランクと言うのは私も直接見るのは初めてなんだが、良い事ばかりではないのだね。」
学校には身分証明の為にステータス情報を登録している。だから、純様はスキルの効果を全部知ってたんだ。
心配をかけているのが申し訳なくて、レベルも上げられたし悪い事ばかりじゃないと言うべきか悩んだけど。
レベルについて触れちゃうと、何らかの性的な接触が在ったってバレちゃうし。そこは黙っておくことにした。
「苦労するだろう。私の体の性別は君と同じだから、友達に言いづらい事でも相談に乗れるかと思ったんだ。」
「そんな、純さんに相談する程の事なんて……」
「遠慮しなくていい。体に合わない制服を着ているだけでも辛いだろう?
一応、これを用意しておいたのだが不要だろうか。」
そう言って差し出されたのは女子生徒の制服。しかも三段階の大きさを揃えてある。
「いえ、嬉しいです!確かに、この制服のままだと苦しいですし。」
実際苦しい。困ってはいた、けど。
……この制服を着る勇気は、まだちょっと。でも純様が用意してくれたものだし、どうしようか。
女性用の下着まで入ってる。上下。ありがたい。とてもありがたくは、あるけど。
「いいじゃーん。似合うだろうし、着ちまった方が楽だぜ?」
猛はコーヒーを飲みながら、見透かしたように笑っている。
今だけは黙っててほしい。
「それに他にもあるだろう。例えば、生理は大丈夫なのか?」
変わらない調子で、とんでもない単語が飛び出した。
笑っていた猛がコーヒーを噴き出して、純様がその反応に疑問符を浮かべている。
「……すまない。軽率だったろうか。
三部君にも、覚悟はあると思っていたんだ。」
「や、今のは俺が悪いっす……こういう話題するって、わかってない方が駄目だ。」
自分はまだ、何も言えてない。だって、生理なんて男子が考えもしない言葉じゃないか。
女の子になった体について、赤裸々に話すって言ったって思いつかないのは仕方ない。
「……今のところ、そう言うのは無いです。大丈夫、です。」
どういう辱めを受けてるんだろう。告白した時と同じぐらい、赤くなってる気がする。
「夏希悪ぃ。俺、居ない方が良かったかもしれん。」
「いいって……大丈夫。大丈夫だから。」
「元を辿れば私の軽率さが原因だ。責任は全て私が──」
「大丈夫ですって!!ちょっと恥ずかしかっただけですから!!」
また沈黙。気まずい。こういう時、ほんとどうすればいいんだろう。
「こんな結果になってしまいはしたが……友達に言いづらい事でも、私なら相談相手に成れると思ったんだ。
今日は此処までにしておこう。猛君も、驚かせてしまったね。」
「いやいや、全然気にしてないっすよ!!
むしろ姉さんにもちゃんと、そう言うのあるんだって「変なこと言うなバカ!!!」
猛の顔は赤く、目はなんだかぐるぐるしている。本当に混乱しているのだろう。
それはそれとして、さすがにその発言はダメ。慌てて口をふさいだ。
「私の連絡先を渡しておく。何かあったら連絡してくれ。」
最後に端末の連絡先を交換して、その場はお開きとした。
端末の画面に目を落とせば、連絡先に鴇巣純の文字。いつでも話せる。
あれ、もしかして、これって。
「……連絡先交換してんじゃん!!結果オーライじゃね?」
家庭はともかく、純様と連絡先を交換できた。
「獣滅等級になれば、姉さんと同じ科に近づくし。
連絡先も好感したし……夏希、これワンチャンあるかもよ?」
「……かも、しれない。」
一度諦めた道に、また希望が見えたなら。きっと何だって出来る筈。
あんまりいい道筋じゃないけど、試験には絶対合格して見せると拳を握った。
その後帰宅してから、気づいたことがある。
純様は管理局からお礼を貰ってて、つまり変異ローパーを倒したことも知ってて、スキルも知っている訳で。
つまり、あの時大体に何が在ったのか知ってたのでは?
……そもそも、期待するには自分が何をできるか知ってなきゃ期待もしない筈だし。
当たり前だけど、純様多分全部知ってた。




