第4話 守る少女と新たな出会い
今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲が空を覆っている。
「今日は晴れて欲しかったなー。今日が私の新し人生の始まりなのに!」
少し不満そうなユナが横を歩いている。
「そうだね、今日はみんなが新しい門出になるんだし晴れたら良かったのにね。
けど曇りで良かったのかもよ?」
「どーして???」
「大事な話をするなら曇りの日、晴れの日よりも慎重にしっかりとした話し合いができるらしいよ。」
「へー、晴れてる方が気分がいいし楽しいのに不思議だねー。」
「そうだね、他にも不思議なことっていっぱいあるからいろいろ探しながら歩こうか。」
たわいない話を続けながら足を進める。
今日は大雑把に目的地を決めて歩こうと思っている。
近隣の学校、役所などの公共施設、病院など人が多く集まりそうなところを中心に歩く予定だ。
「家を出る前に僕といくつか約束をしたけど守れるよね?」
「もちろん!守らないと家に置いて行くって怖い顔されたから仕方なくだけど…。」
「危ないことが起こるかもしれないんだから当然です!さ、もう一回言ってみて。」
「はーい!
まず外ではサクマのことはお父さんと呼びます。
お父さんの目が届かないところに行くときは必ず良いよ!って言われてからにします。
人から話しかけられても最初はお父さんが話し返すから話をしないでお父さんを呼びます。
最後に身の危険を感じたときやどうしても仕方ないときは約束を破ってもいいです。」
「うん、完璧だね。
じゃあもうすぐ学校に着くからユナの感覚でいいから気になる人がいたらお父さんに教えてね。」
「はーい!」
何事もなく目的の小学校へ着いた。
大人と子ども合わせて20名ほどが校庭におり、お互いに警戒しながら間隔を空けて様子を見ている。
そして何より新しく到着した俺たちを睨む視線が痛かった。
「みんな来てみたけどどうしていいか分からないって感じだねー。
僕としては次に行きたいんだけど、ユナは気になる人いた?」
「うんん、なんか怖いし次のところに行きたいな…。」
「そうだね、じゃあ次のところに行こうか。」
こんな雰囲気じゃまともに話なんてできやしない、
次のところへ向かうことにした。
「なんか怖い人ばっかりだったね。
ユナたち何もしてないのにみんなに睨まれたし…。」
落ち込んでるユナが泣きそうな声で話しかけてきた。
「そうだね、もしかしたら怖い思いをした人がいたのかもしれないね。
けど中には話ができそうな人もいたんだよ、周りの雰囲気が悪かったから話しかけようとは思わなかったけど。
次にあったら話してみたいなって思ったんだ。」
「そんな人いた?」
「鉄棒の近くにいた男の人って覚えてるかな?」
「全然覚えてないの、怖くて…。」
「そうだよね、けどユナは悪いことなんてしてないから気にしなく大丈夫だよ!
その鉄棒の近くにいた男の人だけは僕たちを見てなにか書き始めたんだ。
そして周りの反応を見てそれもメモを取っていた。
何かのスキルなのかただ情報を集めているだけなのか分からないけど僕とは違う目線で物事を見てるって感じたな。」
「へー、そんなところまで見てるなんてお父さんスゴイね!」
「凄くなんてないよ、周りの視線が痛かったから逆に睨んでこない人を探ししただけ。
だからユナも次は怖くなさそうな人を探すといいと思うよ。」
「分かった!頑張る!」
元気を取り戻したユナに安心したところで次の目的地を考える。
今日のところは様子見だけど情報が全くないんじゃ流石に厳しい。
少し冒険にはなるけどもう少し人が集まりそうなところに行ってみるか。
「ユナ、これから警察署に行こうと思うんだ。
警察署がどうなってるか分からないけど、凄い安全か凄い危ないかのどっちかだと思う。
まずは遠くから覗いてみるけど注意するんだよ。」
言い終わる前に声が聞こえた。
「警察署は止めておいた方がいいと思うなー。」
後ろから聞こえた声に驚いて振り返るとさっきの学校でメモを取っていた男性が立っていた。
「ご忠告ありがとうございます。
先ほど小学校にいらっしゃった方ですよね?」
ユナを自分の後ろに隠しながら前に出る。
「ええ、なんとなく気になったので話しかけたいなーと思いまして。
そして先ほどの話ですがほとんどの警察署は大変なことになってますよ。
昨日の夜からバンバンやりあってたみたいで、今はもう廃墟同然で中にあるのは死体と馬鹿の集まりらしいです。」
この男が本当のことを言っているのであれば悪い方の予想が当たったことになる。
「そうなんですか、それはとても残念です。
では違うところに向かった方が良さそうですね。
ご親切にありがとうございます。」
ユナの手を引き歩き出す。
「もっと話を聞かなくてもいいの?」
ユナから聞かれるが今は手を引いて少し進んだところで話をすることにした。
先ほどの男性は黙ってこちらを見たまま立っていた。
「さっきは無視しちゃってごめんね。
さっきの人はたぶん1人で動いてるんじゃなくてもう何人かで組んでると思うんだ。
じゃないとあんな状態の学校にいて警察署の状況なんて分からないからね。
今話をして情報が手に入ったとしても向こうの人たちが優位に立っている以上得は少ないと思う。
ただで情報をくれる訳ないからね。
そして向こうから声をかけてきたってことは多少なり僕たちは興味を持たれてるってこと、
だからたぶんまた向こうから接触してくると思う。
それまでに向こうの人たちとある程度交渉できるだけの情報か人脈を作りたいんだ。」
ホルさんから得た情報の多くはおそらく俺しかしらないだろう。
しかしあれは嘘か本当なのかの判断が信憑性がない、他にも理由はあるがもっと強いカードが必要だ。
「難しいけどお父さんは頼りになるー!」
こんな駆け引きみたいなことをしたことないけど今は慎重すぎて悪いことはない。
「まだこっちには切れるカードがないし上手くいくか分からないけどね。
けど少し希望は見えてきたよ。
昨晩から争ってた人がいたってことは現場でスキルを目撃していた人が何人かはいるはず。
そして戦場が警察署だったって考えれば?」
「んー…分かんない!」
「戦う気のない、助けを求めてきた人も何人かいたはずなんだよ。
そしてその人たちが巻き添えで怪我をしてしまったかもしれない。
さて、その怪我をしてしまった人が向かう先はどこだと思う?」
「病院かお薬やさん?」
「大正解!だから次に僕たちが向かうのは大きめのドラックストアにしよう。
病院が開いてるってのは考えづらいし警察署という人が集まる施設で怪我をした人がまた大きな施設に行きたいって
考えないと思う。更に言うと病院にある薬なんて難しくて見つけても知識がなきゃ使えたもんじゃないからね。
僕たちが持っている傷薬や包帯を欲しがってる人もいると思うよ。」
ユナは感心した様子でユナはうんうんうなずいてくれた。
「じゃあ向かおうか、早いに越したことはないし今から向かえばお昼ご飯前には着く。
そこでまたなんらかの交渉ができるかもしれないからね。」
20分ほど歩くと目的地であるドラックストアに着いた。
案の定駐車場には多くの人が集まっており中に入れない人たち同士で喧嘩になっている。
しかし大きな騒ぎになってないことからスキルによる争いにはなっていないようだ。
「んー、なんか不思議だな。
ここでもスキルで争ってて大変なことになってると思ってたんだけど。
建物が壊れて欲しくないのか、誰かが指揮をとってるのか。
分からないしここから様子を見ながら声をかける相手を探そうか。
ユナは僕たちが持っている傷薬や包帯で治療できそうな子どもを連れている大人を探して欲しい。
僕はこの状況を説明できそうな人を探すから。」
「分かった!」
そんなに時間がかからずお互い気になる相手が見つかり話しかけることにした。
まずはユナの見つけた男性のところへ向かう。
律儀に順番を守り、いつ入れるか分からないその建物の前で怪我をした子どもを抱きかかえている男性。
少しよれたスーツ姿なことから昨日から着替えもせずに走り回っていたのだろうと予想がつく。
眼鏡をかけ、身長も体重も一般的なサラリーマンって感じの男40代の男性だ。
「すみません、お子さんが怪我をされているようですが力になれるかもしれません。
こちらに来ていただいてもよろしいでしょうか?」
男性は俺を怪しむも一緒にいるユナを見て少し安心したのか着いてきた。
「突然すみません。
僕は佐久間、そして娘のユナです。
多少ですが薬を持っているのでお子さんに使ってあげてください。」
カバンから傷薬と包帯、痛み止めなどを出して男性に渡した。
子どもの症状はそこまで重くないようだが背中と腕に火傷があり皮が剥けていた。
このままだと化膿してばい菌が入り、やっかいな状態になったかもしれない。
「これから私とユナで他の人を見てきます。
ここにある薬は使っていただいて構いません。
また戻って来ますのでそのときにこの状況やスキルなどあたなの知っていることを教えていただきたんですがよろしいでしょうか?」
「分かりました。
木村と申します。本当にありがとうございます。
相談です、この先に2つ同じマンションが並んでいるのが見えると思いますここから見て右の15階に私の家があります。
本当です!嘘じゃないです!少しでも子どもを休めたいのでどうかそこで待たせてください。」
「分かりました。ではここでの用事が終わりましたらそのマンションへ向かわせていただきます。
約束してください、私たちが行くまでその子をしっかりとあのマンションで看病すると。」
「ありがとうございます!約束します!」
木村さんは言い終えると子どもを抱きかかえマンションの方へ走って行った。
「あの子の怪我が治るといいねー!」
ユナが心配そうな目で木村さんと子どもを見送ったところで次の目的に向かう。
ドラックストアから少し離れたところに話をしている男女がいた。
怪我をしてる様子はなく、お互いの立っている距離感や目ぶり手振りを見て信頼している仲間という
感じがしなかった。
「あの人はイヤ!」
ユナが俺の袖を掴みながら言ってきた。
「どうしたの?なにか気になることでもあった?」
ユナがこんな態度をとるなんて初めてで驚いた。
「分からないけどイヤ、なんか好きじゃないの。」
首をブンブン振りながら指をさすとその先のは俺の気になった2人組のがいた。
ユナを落ち着かせ、説得して2人組の元へ向かう。
ユナ、大丈夫だよ、俺もたぶん同じ気持ちだからさ。