第2話 願う男と信じる母
この不思議な空間に来てから2人と会話をし、3人目でやっと直接会える相手がやってきた。
それを望んでいたわけではない、だが面と向かって話をしたほうがお互いに伝わる部分が多いと思う。
話ができる相手なら相手ならだが…
少し時間を置いて女性は話始めた。
「最初にあなたの相手をしていたユナ、次のに対応したリクの生みの親。
ホルと申します。初めまして。」
落ち着いた声、話し方、身振り手振り、身なりや顔立ちまで全て想像していたホルさんの人物像と全く同じだった。
「初めまして。佐久間と申します。
あまりにも想像通り過ぎて少し驚いていますがそれもあなたのスキルでしょうか?」
「その通りです、私のスキルであなたの心の中にあるホルの人物像をそのまま映し出しております。
そのほうが話しやすいと思いまして。」
「心遣いありがとうございます。
けどそうなると本当の姿のほうが気になっちゃいますね。」
和んだ雰囲気から会話が始まった。
「今はこのままのほうがいいと思いますよ。
さて、聞きたいことも多いと思いますし早めに本題に移りましょうか。」
妻や子どもが心配だ、早く話を始めたかった俺の気持ちを汲んでくれたのだろう。
「私はあなたにいくつかのことを伝えに参りました。 」
先ほどのように中途半端な情報でないことを祈って頷いた。
「まず安心して欲しいのはご家族のことは安心してください。
ここで何日、何年居ようと地球での時間は進みません。
ですのでこれから話すことはしっかりと聞いてください。」
今は信じるしかないだろう、今後のためにもここは時間をかけてでも確かな情報が欲しい。
「スキルとはあなたたち地球人でいう超能力の一種だと思っていただければそれが近いです。
厳密に言えば違いますがそのように説明するのが一番よろしいかと思います。
本来は自分に合ったスキルを自分で見出すのですがこの度は私がお手伝いさせていただき
地球人全員にスキルを与えることになりました。」
さっきの男性が言っていた実験なんちゃらって話だよな。
「先に謝罪します。ここから先は気を悪くしないで聞いていただきたいです。
まず5人いる始祖のうち、3人の始祖が管理している実験対象が自らの力で
スキルにたどり着きました。
そこの者たちはスキルを使用することで私たちを発見し直接コンタクトを取るレベルに達し、
私たちに驚きや新しい発見を与えてくれました。
しかし私の管理下にあるこの地球ともう一人が管理している実験対象はまだまだそのレベルに
達しておりません。
もう一人の始祖は管理下にある生命体の廃棄を決定し新しい実験対象を一から育てることにしました。
しかし私はここまで成長したあなたたちを廃棄するのは残念に思い、私のほうからスキルを
与えると言う形で実験継続に踏み込んだというわけです。」
実験用のマウスが思った結果に至らなかったから違うマウスを用意する、
またはそのまま同じマウスを違う実験に利用するかって話ね。
「あまり楽しい話ではないですが生き延びることができているのはあなたのおかげってのは
分かりました 。しかしもう一人の始祖はなぜもう一度作り直すなんて手間のかかることしたのでしょう。
何億年もかけて作った物をまた一からやり直すなら他の使い道を探したほうが楽なのでは?」
「私たちにとって地球や宇宙を作ることはそんなに難しくはないんですよ。
あなたたちの感覚で言えば海岸で砂の城を作って波に流され、また作る程度の感覚です。
この実験は刺激を求めて競う会うように始めました。
自分たちでは考えもしなかったことが起きて欲しい、だからこそ自分で考えて行動する生命体を
作り出しました。しかし想像の範囲を超えなかったから作り直しております。」
この人たちがいなければ生まれてくることもなかったって考えれば感謝しないといけないのかも、
と思った俺は洗脳されているのか?
「それではスキルについてです。
スキルとはあなたが考える、もっとも欲しい力が手に入ります。
例えば精神だけ他所に飛ばしたい、相手の心を読みたいなどを最も欲しい力であれば
それがスキルとなるでしょう。」
ん!?それっていわゆる僕が考えた最強の能力的な話か!?
「しかし個人差があります。
私たち始祖と同等のスキルが欲しいと願った場合は始祖と同等の器が必要です。
自分にどれほどの器があるかを自分で考えてスキルを手にしないと意味がありません。」
自分の器の測り方がわかりませーん。
ちょっとわくわくしたけどそんなに甘くはないよね。
「測り方なんてありません。自分で感じ取ってスキルを欲してください。」
何個か質問したいけど、聞かなくてもたぶん答えてくれるんだろ。
「はい、欲したスキルがその人間の器以上であった場合は劣化して与えられます。
例えば空を自由自在に飛ぶスキルを欲したが手に入ったのは浮けるスキルだった。
手から炎が出せるスキルを欲したが手に入ったのは手から火の粉が出るスキルだった。
などのようにその人間に見合ったスキルへと修正されます。
あとは使用制限ですね、思い描いたスキルが手に入ったが5分しか使えない、
1日1回しか使えないなどの制限になる場合があります。」
ありがとうございます、だいたい分かりましたので次は同じスキルはないって説明お願いします。
と心の中でつぶやいた。
「ではその説明をしますね。」
少し笑みうを浮かべながら話し始めた。
「詳しく話すのは難しいですが違う人間が同じスキルを欲さないようにしてあります。
仮に欲するスキルが同じだった場合は違うスキルが欲しいと自然に考え直すでしょう。
なぜかと聞かれてもそうなっているとしか説明できないです。
そしてスキルは先に求めた方が優先的に付与されます。
この時も何千何万という方々がスキルを手にしておりますので佐久間さんも早く欲してはいかがでしょうか?」
それ早く言ってくれよ。
けどあまりにもチートな能力は手に入らない、そして戻るのは地球。
戻ったところで今までの法治国家が機能するか、まず無理だろう。
最初は個人間で争い始め、少しずつ新しい集団ができて国家のような形ができる。
まるで戦国時代に逆戻りだろな。
そんな中で生き残るにはなにが必要だろう。
正直言って俺は体力も頭脳も一般人レベルでそこまで突出したものはない。
戦いなんて始まったらすぐに殺されるだろう。
できれば戦わずに、戦ったとしても自分が有利になるようなスキル。
けど現実的で俺程度の人間で持てそうなスキル。
「いや、本当に思い付かないですねー。
だからもう少し話しをしませんか?
できれば私も言葉に出して考えをまとめたいので…」
「もちろん構いませんよ。
ではユナの話しでもしましょうか。
あの子は以前私が作った実験先の生き残りです。
地球の実験とは違いますが別な実験を行った際に生命体を作り出しました。
彼女は生まれてすぐに自分でスキルを使い出しましてね。
そこまで高次元な存在にしたつもりはありませんでしたが私にとって新しい発見でした。
この地球の実験に関与させてユナの成長も同時に見ようと思ったのですが、さっそく失敗
してしまったようなので困ったものです。」
「あれは私がキツい口調で話したのが原因ですし許してあげてくれませんか?
ユナも悪気があったわけではないですし失敗といえば2人目の男性だってしたくらいですよ。
誰にだって失敗はあります、親ってのはそこからの成長が楽しみなんですよ。」
「分かってますよ、別に彼女を廃棄しようとは思っていません。
ただこのように私がいろんな方に会いに行くわけには行きませんからね。
少し提案ですがあなたが彼女を育てるってのはいかがでしょうか?
その代わりにあなたのお願いごとも一つ聞きましょう。」
「この実験を止めて家族で生活したいとかは駄目ですよね?」
ホルさんは首を振った
「ですよね、
分かりました。ユナは私が育てます。
その代わりに私のお願いを聞いてください。
そして私の欲しいスキルも決まりました。」
私からのお願い、そして欲しいスキルについてホルさんはおおむね承諾してくれた。
その後はこの実験の話しを何点かして精神を地球に戻されることになった。
「いろいろありがとうございました。
まだまだ聞きたいことが沢山あるのでまたお話ししたいです。」
「これでもあなたには他の人以上に多くを話したつもりですよ。
もしまたお話しがしたいようでしたらあなたから私に会いに来てくださいね。」
ホルさんは笑いながら話してくれた。
「せいぜい頑張らせていただきます。」
俺も笑い返した。
「ではホルさん、ユナを預かります。
またいつかお会いしましょう。」
そう言い終えた瞬間に俺は元の場所に戻っていた。
片手にはお酒との入っているグラス、目の前にはパソコンの画面。
グラスに入っている氷が小さくなってないことから本当に時間が経ってないんだなと思った。
そして先ほどまで息子が寝ていた部屋にバタバタ慌ただしく走る。
次に妻の名前を叫びながらリビングへ走る。
静かな家の中で俺は呟いた。
「一人の家って静かなんだな。」
リビングのソファーの上で一人寂しく涙を流す男がそこのはいた。
窓の外から激しい光と叫び声が聞こえる。
しかし俺は動けなかった、嫁と息子がいない現実をまだ受け止められないのだ。