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96 暗殺者

 予め用意されていた曹操軍の鎧に身を包んだ審判と顔琉は人知れず白狼山に向かった。烏丸に黙って発ったのは暗殺計画の露見を防ぐためである。山の麓に無事、到着し、審判は烏丸の長老から受け取った陣営の見取り図を開く。

「曹操軍の陣地で大将が居座りそうなのは二合目か三合目にある、幾つかの陣ですね」

「うむ。麓では敵の侵入を許した場合、真っ先に戦闘になる。高い所にいれば補給線を断たれた時が厄介だ。だが、一ヶ所に留まっているとも思えんのお」

「はい。定期的に本陣を移してはいるでしょうね。各陣地との連絡が可能な要所は何処でしょう?」

 顔琉は四、五箇所の陣に絞った。審判は顎に手を当て考え込む。

「本陣ならば規模も大きく、守りの数も多い筈。これらの陣を探ってみて、曹操の居場所を割り出しましょう」

 二人は更に数日かけ、白狼山に敷かれた各陣地を調べることにした。哨戒する敵に発見されぬよう、行動は夜間である。顔琉が白狼山一帯の地理を熟知しているので気取られることなく調査は順調に進み、曹操がいると思しき陣をやっと二つに絞り込むことができた。

「二合目と三合目に一つづつ、規模も大きく、各陣地とも補給線が繋がっています」

「うむ。このどちらかに曹操がいる可能性大じゃな」

「二つに一つ。失敗は許されません。なんとか曹操の所在を確実に突き止めたいところですが」

「兵士の一人でもふん捕まえて口を割らせるか?」

「危険過ぎます。曹操の側近くにいるような兵は簡単には吐かないでしょう。曹操の居場所すら知らされていない可能性もあります」

「お手上げじゃのお。まさかここまで来て当てずっぽうという訳にもいかぬしのお」

 審判が見取り図に目を落とす。こういう場合、君主とは、曹操とはどう考えるものか。暫く考えていると、ある閃きがあった。

「医療班を当たってみてはどうでしょう」

「なるほど。医術の心得ある者は多くない。いるとすれば曹操の近くという訳じゃな。なかなかやるではないか。しかし、どうやって調べる?」

「一か八か曹操軍に聞いてみましょう」

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