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94 五人だけの宴

 審判に曹操暗殺を聞かされた三人は一様に驚き、粛と額彦命がやはり反対した。

「お前、正気か? なんで烏丸のためにそこまでやらなきゃいけないんだ。自殺行為だぜ」

「そうよ。万一成功したとしても、生きて還れる訳ない。考え直す」

 甄梅は黙って俯いているだけだった。

「やる理由はあるんだ。そもそも河北の、こんな北の地にまで曹操が攻め込む原因は俺の父が作った。なら、その男が招いた禍を取り除くのは、息子である俺の役目だろう」

「関係ねえって。親父は親父。息子は息子だ。なんでもかんでも、子が親の業を背負わされてちゃ、人類滅亡しちゃうって」

 粛と額彦命は懸命に二人を止めたが顔琉もまた、

「以前、儂と豎子が黒山に呼ばれた時、お前たち三人は上手くやっておったではないか。何も変わりはせんよ。額彦命。お前さんとの約束は半分は果たしたつもりだ。遼東半島へは一人で行ってくれ。そんなことより三人共、儂ら二人の武運を祈ってはくれぬか。湿っぽいままでは、生きて還れるものも還れんわい」

 二人の決意は変らぬと知り、粛と額彦命は説得を諦め、五人だけの小さな宴が催された。

「審判が行くなら俺も行くぜ。この粛様が漢王朝を再興してやるんだあ」

 酔いが回った粛を審判が宥める。

「お前は駄目だよ。甄梅と額彦命を守ってくれなきゃ。それに鄴に残した母上もな」

「なら私行く。大丈夫。もう張遼にやられた傷、治ったよ」

「お前さんも駄目だ。果たすべき使命の途中であろう。倭国には待つ家族も友もおろう。儂ら以上に、お前達三人は生きねばならん」

「私も?」

 初めて甄梅が口を開いた。

「そうだとも。娘っ子の人生は今、始まったばかりではないか。楽しい事も、苦しい事も、皆と同じように味わってゆく権利がある。娘っ子を必要とする者も大勢いる。儂らの中では、お前さんが一番だ」

 じゃあ俺はどうなんだよと、へべれけに酔った粛が顔琉にからむ。そこに額彦命が割って入り、宴はグダグダの内に終わった。

 審判は一人外に出て夜空を眺めていた。

「ねえ」

 甄梅の声がした。振り向くと甄梅が一人、目に涙を溜め審判を睨みつけていた。

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