73 骨肉相喰む
「何だ、兄さん知らないのか。袁尚はとっくの昔に幽州は袁熙のところに逃げ込んでたぜ。尤も、袁熙の居城は曹操自らが軍を率いて、ひと月あまりで落城させちまったけどな」
建安十年。季節は初夏の暖かさに包まれていた。壺関から脱出した審判達は、ひと月ほどで冀、幽、并の三州の州境に近い、中山国にある喜という小さな村に入った。袁尚の行方が分からぬまま北に逃亡し、道すがら袁尚は幽州に向かったという話を聞き、一行は幽州を目指したが、各地は殆ど曹操の勢力下に入っており、交戦したという話も聞かなかったので本当に袁尚は幽州に向かったのか疑わしかったが、とうとう喜の村でその消息を捉えたが、袁尚は幽州でも曹操に敗北し、袁熙共々城を脱出。またも逃亡したというものだった。
喜の村も道教を信仰しており、甄梅をやはり村民は篤くもてなし、一行は村長の邸に逗留させて貰うこととなった。そこで審判達は河北の情勢を知ることができた。しかし、そこで聞かされたのは袁尚は軍勢など集めておらず、千人ほどの手勢を率いて袁熙の元に逃げ込み、そこでも曹操に負けて逃げたという事実だった。
「ふうむ。では時系列で考えれば袁尚は高幹が攻められていた時、すでに進路を北にとっていたということになるな。三月もすれば援軍に来るという噂は一体なんだったのじゃろう」
審判はことも無げに顔琉の疑問に答えた。
「恐らく、その情報を流して曹操の目を高幹に向けたかったのでしょう。しかし并州には宿将を差し向け、曹操自らが幽州を攻めたということは、その目論見は露見していたのでしょうね」
「しかし何故、袁尚は兄を頼ったのだ? 袁譚と共に、袁家の後継を巡って相争っておったのだろう」
「実は、跡目争いをしていたのは長子の袁譚と三男、袁尚が専らで、気の弱い次子の袁熙は早々にその争いからは降りていたのです」
「だったら尚更、袁熙に袁尚を受け入れる理由はあるまい。匿ったところで、曹操に攻め込む口実を与えるだけではないか」
「袁熙は袁尚を恐れていましたからね」
「どういうことだ?」
「跡目争いの折、袁熙は母親やその親族を袁尚に殺されたのです。元々気が弱く、病気がちだった袁熙は身を引いて保身に走りました。袁譚もそうです。青州で袁尚と敵対するや、人質にとられていた妻子を皆殺しにされています。まあ、その絵図を描いたのは私の父でしょうが」
「それは本当なのか?」
「ええ。確証はありませんが」
「それでもまだ、袁尚の所に行く気か?」
「そういう役目ですから」
「娘っ子も連れて行く気か?」
「勿論」
「少し面を貸せ。豎子」




