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59 倭人の頭角

 壺関の戦いの一日目が終わった。顔琉が二将軍を連破するさまを見せつけられた審判はまるで負けた気がしなかったが、引き揚げた軍と合流すれば、やはり無残な負け戦だった。辺りには負傷兵が溢れ、手当ての甲斐なく息絶えた兵士の骸が転がっている。安国も体中に包帯が巻かれ、動くこともままならない様子だった。

 彼らは青熊が築いた陣地に集結していた。賊とは言っても元々農民である青熊には女、子供、年寄りなどの働き手もある。彼らの力を借りて、敗残の并州軍は戦後処理に当たっていた。無論、青熊に全軍の面倒まではみれない。青熊の元に集まったのは安国隊をはじめとする一部の軍である。

「何やってんだい。早く水を汲んできな」

 青熊の威勢のいい女達に怒鳴られながら沈伸、朗郎が手当て、炊き出しに東奔西走している。辺りは兵士の呻き声が充満し、PTSDで騒ぎだす者もいた。

 曹操軍の精強さを見せつけられた并州軍には士気が上がる要素が何一つ見当たらない。最早壺関から撤退し、壺関城に逃げ込むか、曹操に降るか、という意見まで出る始末だ。程なくして壺関城の高幹から指示が届いた。壺関の并州軍はそのまま地に潜り、曹操軍を後背から攪乱せよというものだった。彼らは城から締め出されたのだ。籠城になれば水も食料もいる。そんなところへ壺関の敗残兵など受け入れる余裕はないということだ。

「冗談じゃない。刺史は俺達の状況を知らぬ訳でもあるまい。自分は城に籠って、俺達にはまだ戦えだと? やってられるか」

 兵士の一人が立ち上がって叫んだ。高幹は袁紹の族氏。一説には甥とも伝わる。同族だけあって、袁紹も高幹もやり口は実によく似ていた。安国が棒で体を支えながら審判達の元を訪れた。

「我が隊は青熊の集落を拠点とし、伏勢となって曹操軍への破壊活動を行えとの命令が下りました。が、みどもでは最早隊を率いること適いませぬ。そこで顔狼牙、貴方に安国隊を率いて頂きたい」

 審判達は目を丸くした。が、顔琉は首を振った。

「折角の申し出だが受けられぬ。儂は一介の武芸者に過ぎず、将の器ではない。達者な配下の中から選出されるが賢明であろう」

「そうしたいのは山々なのですが、後を託せそうな者は皆、落命したか重傷を負いました。それに配下は皆、顔狼牙の武力に心酔しきっております。貴方しかいないのです」

 安国の後ろに控えた兵士達は縋るような目で顔琉を見ている。顔琉は困り果てて審判に矛先を向けた。

「豎子よ。お前やってみぬか? 袁紹軍では部隊長を務めた経験があったのだろう」

 審判は驚いたが、俯いて何も言えなかった。確かに青年部隊の隊長ではあったが、それは父親のコネでなれただけであり、隊長としての実績もなかった。

「そうよな。豎子は袁尚が来るまでは死ねんのだったな。こんな所で危ない橋を渡る気などあるまいのお」

 言われて審判は内心立腹したものの、図星なだけに何も言い返せない。ふうむと顔琉は暫く考え込んだ。

「そうじゃ、額彦命。お前さん、確かヌ国で兵を率いた事があると言うておったのお」

 話を振られた額彦命が頷く。

「はい。でも、こんな大きい隊違うね。もっと小さな隊で、奇襲や伏兵ばかりだったよ」

 口では謙遜しているが、いつも控えめな男が自信を覗かせている。

「おあつらえ向きではないか。よし、決まりだ。部隊の指揮はこの額彦命が執る。儂らはそれに従う。それでよいな」

 いきなり自分達が言葉もたどたどしい異国人の指揮下に入ることになり、一同はざわついたが仕方なく受け入れることにした。

 

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