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55 急先鋒

 壺関城を進発した并州軍は曹操軍を迎え撃つべく、壺関に布陣。軍団を展開した。総大将を務めるのは鄭重という将である。が、この戦のために急遽任命された、大した実績も無い急造将軍である。その麾下に加わった安国隊長の部隊に審判達はいた。

「ああ。何で俺らまでこんな危険な任務につかなあかんねん」

 歩兵として従軍していた沈伸、朗郎が嘆き節を漏らす。馬上で顔琉がそんな二人を窘めた。

「仕方あるまい。青熊の所で呑んだくれておったのがバレて、お偉方の怒りを買うたのだから自業自得じゃ」

 あれから一行は安国隊に組み込まれ、青熊と合力して并州軍の元、曹操軍を迎撃する任を受けた。審判、粛は困惑したが、籠城することになれば身動きが取れなくなる。ならば、外の戦闘に参加した方が良いという額彦命の提案に乗った。顔琉も何となれば途中で逃げ出せばよいと考えているので反対する理由はない。

「しかし爺さんまで参戦するとは意外だよな。何か思う所でもあったのかよ?」

 粛が馬首を隣につけ、顔琉に聞いた。

「何もありゃせん。第一、戦なんぞやってられるか。どうせ豎子は袁尚が来るまで梃子でも動かぬつもりじゃろ。なれば、娘っ子は青熊に預けた方がまだマシと思うたまでじゃ」

 隣にいた審判はなるほどと思った。甄梅は身柄を青熊に預け、厚遇されている。高幹の元に置けばどうなるか分かったものではない。

「それと、後は青熊のことかのお。連中のおかげで羊耳から逃げられた訳だし、恩には報いねばな。どうせ高幹は青熊を使い捨てぐらいにしか考えておらんのだし、できることなら、連中に目を覚ます時間くらいは稼いでやりたい」

 顔琉は近くの山中に布陣した青熊の旗に目を遣った。

 確かに曹操軍を迎え撃つには心許ない軍の規模だ。そこに青熊をはじめとする賊軍や義勇兵を加えて何とか恰好がついている有様だ。顔琉にしても、あまりアテにはされていない証左だろう。壺関を抜かれるのは織り込み済みで、一兵でも多くの敵を仕留め、一日でも時間を稼いでくれれば御の字なのであろうと審判は思った。顔琉が言った。

「いいように利用されておるのじゃよ。青熊も、豎子も、儂も」

 季節はいつの間にか木枯らし吹く頃になっていた。壺関に陣取って数日。ついに李典、楽進率いる曹操軍が壺関に進入したとの報が届き、并州軍も臨戦態勢に入る。

 朝もやの中、曹操軍の威容が姿を現す。さあ、ここからどう陣を展開するのかと誰もが思ったその時、突如、戦鼓の音が鳴り響き、方錐隊形で委細構わず突撃してきた。先陣を切る武人が大声で名乗りを上げた。

「我は楽進文謙。一番槍、貰ったあ」

 并州軍は面食らった。先鋒楽進の名は知っていたが、まさか将軍自ら突撃するなど前代未聞の光景だ。しかも楽進は鄭重本陣に向けて真一文字に向かってくる。慌てて本陣も左右の部隊を展開し、防御壁を作るがひと呼吸遅かった。防御壁が展開するより早く、楽進は前衛部隊の隙間を巧みに縫って本陣に斬り込み、進入を許してしまった。

「早過ぎる」

 鄭重は肝を潰した。戦の駆け引き、策も兵法も関係ない、有無を言わさぬ速攻がこれほどの脅威とは、職業軍人の并州兵も初めてのことだった。

 肉弾のぶつかる音が轟き、楽進が鄭重兵を次々と蹴散らす。後続の兵もその勢いに乗り、浮き足立った鄭重軍を易々と討ち取る。

「やむを得ん。いったん退くぞ」

 楽進が目前まで迫り、鄭重は堪らず退却を決意。。が、陣を構えた軍が後退するのは難しい。背を向けた鄭重軍の兵を楽進は容赦なく討ち取り、狙うは総大将の首ただひとつ。更に、命令系統の乱れた左右の軍が楽進軍の後背を突いたものだから退路を塞ぐ形になった。


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