54 高幹の申し出
安国に伴われて顔琉達は再び壺関城に戻った。甄梅のことが知れるとまた面倒なので顔を隠し、顔琉の縁者ということにして、官府の議事堂で接見した。壺関で羊耳と戦った実績が高幹に報告されたのか、今度はすんなり通して貰えた。
「おお、戻られたか、顔狼牙。お付きの方もご無事だったようで何より。なるほど。こうして見ると、実に清々しい好青年ですなあ。は、は、は」
言いながらも高幹の顔は引きつっている。粛は必死で笑いを堪えていた。審判は訳が分からない。
「そう怖がるな。お前さんの尻に興味はないわい。しかし、そこの安国隊長の言うところ、一体何事があったのじゃ?」
「は、はは。実は州境から報せが届きましてな。鄴を落とし、袁譚殿の討伐も終えた曹操は軍の再編も終え、この并州に軍を発したのです。その軍を率いるのがその、あの先鋒楽進と守り李典なのです」
その場がざわついた。この二将軍の武力は河北四州にも轟いている。
「そいつはまた難儀な相手じゃのお。そ奴らと渡り合える将はおるのか?」
「そ、それがですな、なにぶん、長い戦でこの并州は人も物資も不足しておりまして、籠城する以外、戦う方法がありませぬ。しかし、まだ希望はあります。実はひと月前、邯鄲を脱出した袁尚殿が各地で義勇兵を募り、この壺関に集結して曹操に反撃するとのこと。何とか三月ほど踏ん張れば、袁尚殿と合力し、敵を退けられましょう」
審判達は顔を見合わせた。計らずも袁尚の消息が掴めた。しかも向こうから来てくれるというのだ。少々行き違いはあったが、当初の目的は果たせそうである。だが、高幹がしどろもどろに顔琉に頼み込んできた。
「そこでですな、ひとつお願いがあるのです。顔狼牙にしかできぬことであり、ひいてはこの并州を、いや、河北四州を救うことにもなり申す」