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53 矛と盾

  顔琉と羊耳が争っていた頃、并州の州境を進軍する軍団があった。その中には、あの官渡を守りきった将、守り李典の姿もあった。

「壺関攻略に、よりによってお主のような墨者かぶれを儂と組ませるとは。丞相閣下の考えることは、儂のような凡人には理解できぬわァ」

 李典と馬首を並べた小柄な将は言った。すると李典、

「それはこちらの言うこと。それにみどもはかぶれではなく、墨子の流れを汲む者。楽進殿、訂正して頂きたい」

「分かった、分かった。墨子の思想を現代に復活させるため、丞相閣下に仕えておるのだったな。が、攻城戦ではお主の出番はないと思うぞ」

「お言葉を返すようですが、究極の守りとは攻撃の追及の先にあるものです。城攻めなど、守り通すより容易いことです」

 李典はそう言って得物の連挺を肩に担いだ。ちなみに連挺とは現代で言うヌンチャクのことである。だが、アクション映画などで見るそれよりも大きい。戦場で使うなら携行性を重視する必要がないからだ。

「攻撃は最大の防御と言おうが。守ってばかりでは敵をつけ上がらせるだけよ。勝利の秘訣は先制攻撃。これに尽きるわ」

 楽進が哄笑した。李典は首を振って嘆息し、

「結構。貴殿には適いませぬ。いえ、議論で勝てぬという意味ではなく、話が通じぬという意味です。正論を張っても無駄ということが分かり申した」

 この楽進という将、戦場では何が何でも一番乗りをしなければ気が済まない性質で、「先鋒楽進」の異名を持つ、李典とは真逆の人物である。性格的にも二人は合っているとは言い難い。曹操はそんな二人に軍を授け、壺関攻略を命じたのだ。周囲はその人事に唖然としたものだが、性格も戦術も全く異なる者を組ませることにより、戦場でどんな化学反応を起こすのか、曹操は実験して楽しむフシがあった。実際、この二人は曹操軍の主だった戦には殆どと言っていいほど出陣している。それだけ生還率の高い良将と言えるだろう。

 余談だが曹操幕下では、

 張遼。

 徐晃。

 張郃。

 干禁。

 これに楽進を加え、「曹五龍」などとも呼ばれ、曹操軍の中核をなしたという。

「攻城戦もよいが、まずは壺関を抜くのが先決だな。高幹はそこで我が軍の出鼻を挫きに来る筈よ」

 その点には李典も異論はない。逆に言えば壺関で曹操軍の進軍を止める以外、高幹には有効な手立てがないのである。

「壺関は守りに適した地であると仄聞します。楽進殿のように攻めしか頭にない方には少々、荷が重いと存じますが」

「何だ、儂とはもう話もしたくなかったのではないのか? まあ良い。そんなに守りが好きなら、お主は輜重隊でも守っておれ」

 楽進はまた哄笑した。李典は最早、何を言う気も失せた。


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