47 道服を纏いし者
審判は汝唐にことの次第を説明され、合点がいった。彼ら青熊党は元農民であったが、貧困から高幹に仕える賊徒となった。そうすることにより重税を免れ、非合法ながらも仕事に応じた報酬もあるからだ。だが、彼らが農民として行き詰まった理由は袁紹が長期に渡って戦争を行ったためだと聞かされると複雑であった。
「汝水の奴が貴方方を襲ったのは、甄梅様を私欲のために利用する人買いの類だと早合点したのです。丹城の連中と思しき一団と争っておられたようで、無理もなかったと思います。甄梅様をお守りする役目の方々であったとは、真にもって面目ない」
汝唐が深々と頭を下げた。慌てて審判は頭を上げてくれと頼む。私利私欲に甄梅を利用する点では大差ない。考えようによっては人買いより質が悪い。
「ところで汝唐殿。何故、貴方方はそうまでして甄梅を助けようとしたのですか?」
「これは異なことを仰る。甄梅様は巫女ではありませぬか。我等は元々農民ゆえ、道教を信仰しておりますれば、鬼道、祭祀を司る巫女をお助けしたいと思うのは当然でしょう」
道教とは仏教が伝来する以前、中国の民衆の大部分が信仰していたといわれる、老荘思想や黄老信仰が土着宗教と融合したものだと考えられているが正確なことは分かっていない。余談だが、黄巾党が唱えた太平道なるものも、この道教と基を同じくするものだったという説がある。尤も、その方が信者を手っ取り早く増やせるからだと考えられなくもないが、とまれ、貴族や官僚など、上流階級が神を否定する儒教という学問を修めるのが主流だったこの時代、道教は民衆の重要な信仰の対象だった。
審判はそういえばと、甄梅を改めて見た。その身には黒い道服を纏っている。彼らが甄梅を巫女と言う理由が分かった。
「悪かったね。アンタが甄梅様の守り役なら、私達はお仲間って訳なのさ」
汝水が嬉しそうに横から割って入った。話に加わりたくて仕方ない様子だが、汝唐が窘める。
「汝水。お前達は下がっていなさい。お二人に話したいことがあるのだ」
不服を申し立てた汝水だったが、半ば強引に手下達に引っ張られ、部屋には三人だけとなった。汝唐がおもむろに切り出した。




